第106話  母が亡くなりました。

 数刻前に弟から、母が亡くなったという報せが届きました。


 故郷から約800キロメートル以上離れた地にいる私は、夜の移動が叶わず明日の始発を待たなければなりません。始発までにはまだ時間はありますが、恐らく睡眠することは出来ないでしょう。


 ゴールデンウィークに帰った時、既に寝たきりで言葉を発することの出来なくなっていた母に、覚悟はしていたつもりだったのですが……。


 覚悟はしていたつもりだったのですが、心の中ではまだそのことを素直に受け入れることができていませんでした。


 電話だけでは現実感が乏しく、頭では分かっていても実感が沸かないのです。


 長い間故郷を離れていた息子は、果たして親戚や地域の人に対して、孝行息子を演じきることができるのでしょうか。


 いえ、そんなことが問題なのではありません。寧ろ母にとっては此までずっと不肖の息子だったはず。


 それなのに、今になって涙が止まりません。


 ごめんね、お母さん。こんな不甲斐ない息子で。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る