第6話

 WINNER・ジャンヌ。


「負けたーーー!? めっちゃあっさり負けてるぞこのSSR!」

「妹よーーー! おお妹よ、あんなに派手に登場したのに描写無しで負けるとは!」

「うわあ、可哀想! もう可哀想だぞSSR子! せめてもうちょっと粘れよ! イラストレーター可哀想! お前に関わった全ての人が可哀想!」


 SSR子はボロボロの状態でリングに放られていた。尻を高く上げたままうつぶせという見るに堪えない尺取虫状態であり、その尻にはフギンがぶっ刺さっている。スレイプニールとムニンはへし折られ、ゲリとフレキはとうに掻き消え、ヴァラスキャラヴも殆どがはぎ取られている。これ以上に無い惨敗だった。

 なお、こうなるまでにたった10秒であった。


「うっさいわねー! このヴァラスキャラヴ、めちゃくちゃ重いのよ! スレイプニールもコレ、30キロもあんのよ!? ろくに動けないに決まってるでしょう! あとお尻のフギン抜いてー!」

「元気だな、ボロボロのわりに! ふんぬ! 何だコレ、抜けねえ! オラ! オラ!」

「アッーーーー! ま、まま、待って! ギリギリお尻に届いてないの! だからデリケートに、優しく扱って!」

「いいことを聞いたーーー! 穴増えろーー!」

「アッーーーーーーーー♀!」


 やはりただの馬鹿だった。自分の緊張を反省しつつ、玉藻前はSR子に向き直った。


「フハハハハハハハ! とりあえず、これで全抜き! 私達の完全勝利だ! 約束通り、何でも言うことを聞いてもらおうか!」

「そんな風に言われたなら仕方ないなお嬢さん!」


 宝玉ズが前に出る。


「さあ、何でも命令を下して下さい! お願いします!」

「何でもやります! やらせて下さい!」

「ちょっと兄さんズ、ごめん。話がこじれるから、邪魔」


 SR子は冷静に宝玉達を撤去する。


「ねえ、何してもらうのー? 私は、ごはんおごってもらいたいなあ!」

「いいや、ダメだ! この最強たる私にどれほどの暴言を吐いたか覚えているだろう! もう二度と人前に出れないような屈辱を与えてやるわ! 特にN子とSSR子中心に! っていうか主にアイツら! むしろアイツらだけでいい! 内容は、そうだな……!」


 意地悪く、玉藻前の眼が光った。その殺生石を思わせる眼光に、N子も動きを止めて注視する。SSR子はぴくぴく痙攣していて、虚ろな声でN子に懇願をするのみだった。


「まず、N子! 貴様は、これから毎日、「Nでごめんなさい!」という札を首から提げてもらおう!」

「アン?」


 玉藻前はむふふ、と鼻息を荒げた。


「なんだその目は、敗北者め! 何でも言うことを聞くというルールだったろう!? この200ゴールド小切手が! 嫌とは言わせんぞ、私がいいと言うまで毎日恥を晒して生きろ! いや、そもそも毎日常に恥を晒しているようなものだからな、これは罰と言えるのかな!?」

「……」


 ピキ、と血管が浮き出た音を、SSR子だけが聞き取っていた。


「このザコ以下のザコ! 生まれながらの業を背負いし者め! そもそもこのボックスにいることが間違いなのだ、貴様のようなNなど! いや、むしろ身の程というものを知る絶好の機会だと知……!」


 N子の掌が、玉藻前の目の前に。

 それをN子の掌だと認識する時には、玉藻前は遥か後方まで押し込まれていた。

 それがN子の襲撃だと理解する時には、彼女の体は激しく地面に打ち付けられていた。

 そして。

 自分が一体何を目覚めさせてしまったかを理解する時には。

 N子の表情は、玉藻前に死を覚悟させるものになっていた。


「ウルセーーーぞ、このクソ高レアガアアアアアアアアアア!」

「グワアアアアアアアア!?」


 獣。猛り狂った獣。その何十倍もの凶暴性を、N子は玉藻前に打ち付けた。


「貴女! もう試合に負けたのですよ! これ以上は試合じゃなくなってしまいますわ!」


 ジャンヌは剣を抜きつつ、N子に接近した。

 しかしそれを迎え撃ったのは、完全にブチ切れているN子の修羅の形相だった。その形相に聖女はびくつき、剣先が震える。


「アアアアアアアアン!? かんけーねーよんなもんはアアアアアア! むしろこちとら大歓迎だぜ、つまりテメーら遠慮なくぶっ潰していいんだろお!? オイ!」

「ヒイ……!?」


 その闘気に、アザトースすら反応し、


「……何……このちか……ら? き……けん?」

「あ、アザトースーーー! よかった、こいつを何とか……!」

「やかましいーーーー! こうなったら、全員叩き潰してやる! 日頃のレアリティ・Nの恨みを、思い知りやがれ! テメーらが性能高すぎるからいつも虐げられんだよ、このレアレア軍団共がアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

「う……うわあああああ!」


 覚醒したN子は、何者にも止めることは出来ない。

 ジャンヌの剣を容易くへし折り、アザトースの正体不明の攻撃もかいくぐり、ジャンヌの鎧を破壊し、玉藻前をボコり、玉藻前をボコり、ジャンヌをボコり、ジャンヌをボコり、アザトースのCDを入れ替え、アザトースのヘッドフォンを安物にすり替え、玉藻の前をボコり、玉藻の前をボコり、ジャンヌをボコり、ジャンヌをボコり、アザトースの持っていたCDをすり替える。

 SSR二人とSR一人でも一切敵わないというN子の力を目にした楊貴妃とゴリアテは完全に戦意を喪失していた。

 そこに、SSR子がやってきて、二人の肩に手を添える。


「……私の作戦勝ちね。調子こいた玉藻前なら、N子の強烈なレアリティ・コンプレ

ックスを刺激して、N子を覚醒させてくれると思っていた。勝ち抜き戦も、玉藻前を調子こかせるためよ」

「え……N子さんが、あんなに強いって知ってたんですか?」

「さあ。でも、たった一つの確信があったから、それに賭けたのよ」

「確信?」

「そう」

「オラアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」


 激しさを増すN子の攻撃。最早3人は逃げることだけを考えて動いている有様だった。


「N子は、確かにステータスは最弱。そしてこのボックス村で唯一のN。そのコンプレックスは計り知れない。その、日ごろから注目されないというストレス、いつまで経っても自分だけは強化されないというストレス、いつまで経っても使われないというストレス。その全てが爆発すれば、その力は、神にさえも届く! N子こそ、最弱故にこのボックスにおいては最強の暴力嫉妬兵器! その確信よ!」

「誰が暴力嫉妬兵器だ、SSR野郎――――!」

「グワーーーーーー!?」


 折れたジャンヌの剣が、SSR子の額に刺さった。

 かくしてSSR3人は、たった一人のNを相手に為すすべなく制圧され。玉藻前は、自分の修正をウンエイ神殿に提出することになった。

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