闘争と終焉
マリオンとの戦いは、いつまで経っても終わらない。
斬っても斬っても、マリオンは王の遺産の能力で周囲の塵を引き寄せ、キズを塞いでしまうのだ。
ユリア由来の魔力も取り込み、自身の能力にしているため、回復魔法も使えるだろう。
もし強固な外骨格を突破し、本体を攻撃しても、すぐに回復される。
情に訴えることも不可能だ。
私に対する深い憎しみに囚われたマリオンとは、目が合った瞬間に戦いになる。
だから対話もままならない。
マリオンと同化したユリアも感情を失っている。
なぜこんな状況になったのか、どういう思いで私を敵視しているのか、全く分からないまま戦っている。
ただ、私を憎むあまり、今のマリオンは私以外の存在を無視する。
それだけは把握した。
リリーがマリオンの近くにいても、基本的に攻撃されない。
私との戦闘を邪魔しようとした時に、初めて危害を加えるのだ。
そのおかげで、エリスとフローラに食料を用意してもらう余裕があることが幸い。
そして、絶え間ない攻防の結果、半日経過。
日が沈み、暗闇の中の戦いになった。
しかし攻撃の勢いが弱まることはない。
私が数えきれないほど死んで、これからも何百回とやられるだけ。
夜になって、魔力切れで気を失っていたメロディアが目覚め、単調な戦闘に変化を与えてくれた。
「——んまっ! 本当に復活しました!」
髪の毛から全身が復元され、目を覚ましたことに驚くメロディア。
どうやら精霊たちが事前に説明をしていたようで、余計な手間は省けた。
「リルフィ様の髪の毛、ください! 懐で温めておきます!」
あまり長居するとマリオンがこっちに来てしまうかもしれない。
フローラに持たせた私の髪の毛を、強奪しようとするメロディアを置いて、マリオンに攻撃しに行く。
何度もチャレンジすれば相手の行動パターンが解析出来るかと思ったけど、そうはいかない。
最初は私を苦しめるため、かなり手加減をしていたようだ。
私が攻撃を見切るとマリオンは逆上し、見えない速さの一撃で木っ端微塵になる。
そして次に挑んだ時はより強いチカラで全く別の痛ぶり方をしてくるのだ。
チカラでは絶対に勝てないことは思い知った。
だから私はアタマを使わなきゃならない。
ユリアにもムリヤリ叩き込まれた。
弱い人間はチカラだけで魔物に勝つことは難しいから、技術を磨く。
相手の意識の裏をかいて、その隅のさらに隙間を縫って、罠を張り巡らせるのだ。
マリオンに挑む。
攻撃を受け、バラバラになる。
どこかで蘇生し、もう一度挑む。
どうしてやられたかを考え、どうすれば勝てるかを考え、何度も挑む。
メチャクチャにされて、回復速度も遅くなって、精霊たちにのところで復活すると一時の休息。
「——あっ、リルフィさまがわたくしのお胸でっ、そんなっ」
復活ポイントとして残した私の髪は、メロディアに奪われてしまっていた。
おかげで目覚める時は毎回不快な声を聞かされる。
まあ、今はそれすらも気を紛らわすのに役立っている。
殺されるのと比べれば、メロディアの間抜けな声はいっそ笑える。
そしてエリスとフローラが作った丸薬を飲んだり、液体を注入したりして、瞬時に栄養補給をする。
他愛もない雑談を一言二言だけして気を紛らわし、すぐに戦闘続行だ。
——。
マリオンに挑む。
「なんでそんなに私が憎いんだ!!」
思いの丈を叫びながら突撃をしても、返事は一切ない。
黙れと言わんばかりに、相手が持つ王の遺産の能力が発動し、私の体の縦半分が消失する。
そして次に目に入ったのはメロディアの顔。
あっっという間も無くゲームオーバー。
向こうも私が復活することを学習したようで、死体をすぐに始末したようだ。
こうなると、マリオンがここを襲撃するのも時間の問題かも知れない。
早く、倒すか王の遺産を奪う方法を考えないと。
「私に八つ当たりするな!!」
と、八つ当たり気味にマリオンに当たる。
私の声自体がマリオンの気に障るのか、今回も体の一部が消失し、即死。
またメロディアの膝の上で目覚める。
行く。
「その髪飾りを渡せばもう関わらないから!!」
メロディアに抱かれた状態で目が覚める。
本当に会話ができない。
どうすればいい。
王の遺産を使われると、手も足も出ない。
魔法じゃないから魔剣の能力は通じず、身体強化を上回るスピードで攻撃される。
これを避けるなら、未来予知が必要だ。
あらかじめすべての攻撃の軌道が分かっていれば、その穴に潜って攻撃できるかも知れない。
首環の能力でマリオンを分析する。
相手の感情、体調、直後の動きが全て明らかになる。
しかし、それは今この瞬間の情報。
予知とは程遠い。
一回の攻撃は避けられた。
これは毎回できること。
だけど即座に二撃目が降りかかり、脳をぶちまける。
メロディアの元に送還。
「フローラ、このままじゃ勝てない」
「リルフィは王の遺産を三つも持っている。上手く
やりたいのは未来予知。
フローラの言葉で、すっかり忘れていた手段を思い出す。
「うん、分かった」
「素晴らしい」
マリオンの所に急ぐ。
そこで、魔剣の身体強化の能力を、首環の分析能力に施した。
すぐさまアタマの中が情報でいっぱいになる。
首環が暴走した時のように、莫大な情報が錯綜してワケガワカラナイ。
動きが止まってしまい、マリオンにやられた。
これだけではダメだ。
拠点で目覚め、反省する。
街にいた時、酒場にてバラバラの情報をまとめたことを思い出す。
それは首環のもうひとつの能力なのだ。
あらかじめその「情報整理」を強化してから、「分析」を強化する。
すると——見えるようになった。
分析に分析が重なり、これから起こり得るあらゆる可能性が、目の前に広がる。
このまま三秒静止すると、メロディアがアタマを撫でてくる。
二秒で離れれば、撫でようと思ったところで逃げられ、不満を抱く。
すぐに離れれば、メロディアが持つ私の髪の残りを数え始める。
何かを話せば、それぞれの返答が予測できる。
目の前のメロディアだけで何千、何万通りの可能性が広がっているのだ。
その対象がエリス、フローラ、星の動き、風の動き、気温など、あらゆるものに向けられ、全知全能にでもなった気分。
これなら————。
メロディアから全て奪い取り、マリオンの立つ場所へ。
私を一発で仕留める攻撃の全パターンを読む。
私の身体能力で対応できる通り道を探る。
「よし……」
その道をなぞるように、動く。
背後を取るように回り込めば、マリオンは振り返りもせずに肘を突き出してくる。
その攻撃をわざと受けて、左腕が飛ばされた。
血が舞い上がる。
飛んだ左腕を即座にキャッチして傷口に当てがうと、すぐに繋がった。
同時にマリオンの膝の裏に魔剣を差し込み、ほんの少し、巨躯が傾く。
怒ったマリオンが振り返り、炎弾の連続魔法が放たれた。
逃げ場がないほどの弾幕に、魔剣を振って隙間を作る。
そこを潜るように移動すると、待ち伏せしていたかのようにマリオンの拳が飛んでくるのだ。
しかしそれも予測できている。
回避はできない。
アタマを炎弾の波に突っ込み、マリオンに胴体を殴らせる。
一撃で仕留めようとする拳は、体を吹っ飛ばすような鈍的な攻撃ではなく、当たった場所を穿つ鋭い攻撃。
私の心臓は打ち破られたけど、アタマが残っているからまだ立てる。
顔はぐちゃぐちゃになっても、中身は無事。
焼かれて再生して、まだなんとか持ちこたえている。
マリオンの腕が私の胸から引き抜かれ、大量の血飛沫が舞う。
それでもまだ、私が死んでいないことに気づき、アタマを狙った蹴りが——。
そうしてマリオンが、片足立ちになったせいで。
腕を千切られ、そのときに地面を濡らした血に、マリオンはバランスを崩した。
さらに、胸に空いた風穴から噴き出た血が、ユリアの顔にかかり。
ユリアは私の死体を喰らおうと、口を開けて待っていた。
そのせいで、飛び散った私の血を吸い込み、むせた。
……普通なら、そんなキセキを迎えることは不可能だろう。
でも、未来予知にまで強化した首環の能力で、その可能性を私が選んだのだ。
咳き込むユリアの口に、私の手を深く、突っ込む。
反射的に、噛みちぎられる。
マリオンの手が、私の身体をぺったんこに潰した。
私は死んだ。
復活地点として取っておいた髪は、もうない。
メロディアから返してもらったモノは、先程の火炎魔法で焼き尽くされた。
安全で、かつ私のパーツが一番揃っているような、次の復活地点は?
マリオンのお腹の中にある私の腕。
これまでは、精霊たちの拠点が一番安全だったせいで、そこが優先的に復活地点となっていた。
しかし、それがない今、次に安全な場所は、マリオンの目の前ではない。
マリオンの中なのだ。
喰われたばかりの新鮮な腕から、私の体が再生される。
内側は強靭な石の鎧に守られておらず、普通の人間の腹の中。
体の大きさに比例するように、中の空間も肥大化している。
しかしそれでも、人間ひとり分の大きさには満たない。
まだ胃に入ったばかりの腕が、消化液に溶かされながらも、それを上回るスピードで体を形成する。
真っ先にアタマが形成されて、真っ暗な中で意識が戻った。
アタマができた時点で、マリオンの胃の中は満杯。
そこから胴体が形成され、胃壁を引き伸ばす。
両腕ができた時点で、私を包んでいた膜が破れた。
空間が揺れ、振動する。
内臓が破裂した痛みに、のたうち回っているのだろう。
それはしっかりとダメージが通っている証。
硬い外骨格は、マリオン自身もそう簡単には破れないらしく、外から打撃音が響いてきたが、お腹に手を突っ込んで私が外に引きずり出されることはなかった。
生暖かくて息もできない極限の空間から、いよいよ脱するために、魔剣を顕現させた。
さらに増える体積。
魔剣で簡単に裂ける内臓。
それを上に下に、ムリヤリ動かして、内側から破壊した。
固体が粘液状に変わるくらい、あらゆる所を剣でかき回す。
最初は上下左右に揺られていた空間も、最後は全く動かなくなった。
比較的自由に動けるようになるまで、中身を掻き回した後で、這って出口を探る。
手探りで見つけた穴を、なんとかこじ開けて、脱出。
ユリアの口から出た。
丁度、外が朝日に照らされ、眩しさに目を細める。
立ち上がり、倒れたマリオンを見下した。
その頭部にある、髪飾り。
私はそれを、取り上げた——。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます