第99話 其々の武器






「それよりミカド、あの馬達は何だ?」

「あぁ、彼奴等か」


話が一区切りついたミラはそう言って俺達の後ろに目をやる。 そこには黒や白、茶、濃黄色の艶やかな鬣を靡かせる馬が5匹佇んでいた。

どれも立派で逞しい身体つきをしており、まさに駿馬と言った風格を醸し出している。


「あの子達はハールマンさんがくださったんです」


そう、この馬はセシルが言った様にアッフェ討伐の帰り際、ハールマンさんが俺達にくれたのだ。ハールマンさん曰く‥‥‥


「そう言えば、今朝思いましたがミカドさん達は歩いてここまで来たのですか?それでは帰りも不便でしょう。

そうだ!なら依頼をこなしてくれた礼に、ウチの馬を差し上げますよ。

ミカドさん達とは今後ともより良い関係を築きたいですからね」


との事だった。

移動手段が無かった俺達にこの提案は渡りに船だったのだが、ハールマンさんの最後の言葉を言い換えれば、馬をやるから今後依頼を出した時には優先して自分の依頼を受けろ‥‥‥と言う意味が込められているのは明らかだ。


だが真意はどうであれ、俺達はくれると言うなら。と、有り難く頂戴した訳だ。


まぁ、俺の加護を使って車やらバイクやらを召喚して移動手段を確保する事は出来るっちゃ出来る。しかし以前こっそり試してみたのだが、まだ車やバイクを召喚出来るレベルまで達しておらず保留にしていた。


だから、当面はこの馬達を移動手段として活用させてもらう事にした。


「え? 馬を5匹もですか!?」

「それはまた‥‥‥ 太っ腹な事だ」

「そうなの‥‥‥?」

「あぁ、馬1匹買う値段で普通の人なら数ヶ月は何不自由なく暮らせるぞ」

「マジか。そりゃ確かに太っ腹だな」

「お前達の考えは置いとくとして、どうやらハールマンは余程お前達の事を気に入ったのだな」

「嬉しい様な嬉しく無い様な‥‥‥っと、忘れる所だった。 アンナ、早速だけど次の依頼を受けたいんだ」


俺は乾いた笑みを漏らす。

そして最後に残った依頼の事を思い出し、受注をする事にした。


そう、差出人不明、依頼内容も不明のあの怪しい依頼だ。


「あ、はい。わかりました。ちなみにどんな依頼ですか?」

「それがよく分かんねぇんだ」

「よく分からない?どう言う事だ?」

「まず依頼の差出人の名前が無くて、依頼の内容も書いてなかった。 ただ明後日、ペンドラゴの貧民街にあるショットって言う酒場に来て欲しいとだけ書いてあってな」

「でも、ギルド経由で届いたから、何らかの依頼の手紙だとは思うんですけど‥‥‥」

「怪しいな‥‥‥」

「同感です‥‥‥」

『うむ、ミラ殿達の言う通り。主人殿、流石に怪しすぎぬか?』

「ロルフ達もそう思うよな。でも、もしかしたら何か理由があって名前や依頼内容を書けないのかも知れない。

だから取り敢えず、万全の準備を整えて行くだけ行ってみるつもりだ」


この依頼の事を聞いたミラ達も当然の如く怪しいと感じた。

だが、今更この依頼を無視する訳にもいかない。 俺はミラ達が何を言っても、とりあえず行くだけ言ってみようと決めていた。


「セシル様達はこの依頼の事はご存知だったのですか?」

「はい、この前ミカドから聞きました。依頼主さんには依頼の詳細を書けない事情があるのかも知れません」

「依頼の内容が分からないからこそ、行って直接話を聴くべきかと」

「あぁ!そんで僕達の力が必要な依頼なら、そん時は全力で引き受ける!」

「私達は心から私達を必要とする人の力になりたいから‥‥‥」

「それとこの依頼にはロルフにも付いて来てもらおうと思う。ロルフ、力を貸してくれるか?」

『うむ。主人殿の命とあらば、我輩も微力ながら助太刀致そう』

「って事だ」


セシルにドラル、レーヴェとマリアも俺の考えに賛同してくれている。

ミラはセシル達の顔を1人1人見ると、困った様な笑みを浮かべた。


「そうか、ミカド達が行くと決めたのなら私達が辞めろと言う訳にはいかないな」

「そうてすね。では、その依頼を受理します。書類は此方で用意しておきますね」

「おう、ありがとな。そう言う事だから、今日はそろそろお暇するよ」

「うむ、依頼ご苦労だった」

「ゆっくり休んで下さいね〜」

「「「「はーい!」」」」


例の怪しい依頼を受ける事をミラ達に伝えたい俺達は、ハールマンさんから頂いた馬に颯爽と跨る。


空は既にオレンジ色に染まっていた。

何処からともなく一家団欒の楽しげな声も聞こえて来る。そんな平和なノースラント村を抜け、俺達は帰路に着いた。



▼▼▼▼▼▼▼



「各員、構え!」

「「「「っ!」」」」

「撃て!」


バババババババババ!!!


ハールマンさんの依頼を終えた翌日、俺とセシルそしてマリアにドラル、レーヴェは、家から少し離れた場所でHK416Dの射撃訓練に励んでいた。


「撃ち方止め!」

「「「「ふぅ」」」」

「よし、銃の扱いは大分慣れたみたいだな!」

「あぁ、分解も余裕で出来るようになったぜ!射撃も完璧だ!」

「どこが完璧よ‥‥‥ レーヴェの弾、半分は的の外枠ギリギリじゃない」

「うっさいな〜 そう言うドラルはチマチマ撃ってて俺の半分も撃ってねぇじゃねぇか」

「撃った多さは関係ないでしょ?重要なのはどれだけ的の中心に命中させられるかじゃない?」

「確かにドラルの弾は殆どど真ん中だけどさ!沢山撃てば音で敵がビビるかも知んねぇだろ!」

「ビビらせても当たらなければ意味ないでしょ!」


一旦射撃を終わらせれば、レーヴェは得意げにセーフティを入れ、HK416Dを肩に担ぐ。

そんなレーヴェにドラルが溜息交じりに声を掛ければ、2人の言葉は徐々に語尾が荒くなっていく。


もはや見慣れた光景だ。感覚としては子犬同士が戯れ合っているみたいな感じがする。


「ドラル、レーヴェ‥‥‥ 落ち着く」

「そうだよ2人共! 喧嘩する子には晩御飯抜きの刑だからね!」

「う、それは嫌だ‥‥‥」

「ごめんなさい‥‥‥」

「ん、宜しい。それにしてもミカド、もしかして明日の依頼に銃を持ってくつもりなの?」


最終的には、ストッパー役のマリアとセシルの仲裁で一旦場が落ち着くと、手慣れた様子でセーフティを入れ、マガジンを抜いたセシルが俺を見つめてきた。


「あぁ。明日は何が起こるか分からねぇからな。万全を期す」

「で、でも明日の指定場所はペンドラゴだよ? 人が多くて銃は目立つんじゃない?」

「多少人目につくのは仕方ないとしても、移動の時はガンケースに入れておけば大丈夫だろう。

それに、銃火器で武装した方が危険な目に合う確率は減る。今回は依頼の内容が分からないだけに、皆の安全を最優先で考えたんだ」

「なるほど、それで今日は明日に備えての調整と言う事ですね」

「その通り。と言う訳で‥‥‥そんなマリア達にプレゼントだ!」

「プレゼント‥‥‥?」

「お、何だ何だ!?何をくれるんだ?」

「ふふん!これだ!」


俺は明日の怪しい依頼に備え、皆が危険な目に合う可能性を最小限にする為に、加護を使いある物を召喚した。


「こ、これは!」


周囲が白い光に包まれ、そしてゆっくりと消えていく。そして光が消えると、先程まで何もなかった地面の上に、重厚な輝きを放つそれぞれ違う銃が3つ横たわっていた。


「おぉお!! スゲェ!スゲェよ!!これ3つとも銃なのか!?」

「どれもHK416Dとは全然違います‥‥‥」

「あ、これクヴァレルを倒した時の‥‥‥」

「わぁ〜!凄い!」


俺が新たに召喚した銃火器を見て皆予想通りの反応をしてくれた。


今俺達の前に並ぶ銃を右から説明していくと‥‥‥


まず、召喚した中で1番大きな銃。

これは【ブローニングM2重機関銃】と言う、大型の機関銃だ。

そして真ん中にある細長い銃は【H&KPSG1】。長距離射撃に特化したセミオートマチックの狙撃銃スナイパーライフルで、左にある銃は以前遭遇したクヴァレルを討伐した際にも使用した【NF P90】となっている。


勿論、これらの銃を召喚したのには理由がある。


「なぁプレゼントってこれの事か!?」

「あぁ、一応皆の癖や体格に合わせて合いそうな物を召喚したんだ」

「そうなの?」


この銃達はマリアにレーヴェ、ドラルの癖や体格等を参考にして其々の専用武器として召喚した。

今までは暫定的にマリア達にもHK416Dを使わせていたが、何回かHK416Dを使わせた事で彼女達には癖があるのが判明した。


例えばレーヴェはとりあえず撃ちまくる。

対してドラルは1発1発をしっかり狙い撃つ。みたいな感じだ。


だったらこの際、其々の癖に合わせた銃火器を持たせてみようと思った訳だ。


まず、一際大きく1人では持つ事も難しいM2重機関銃はレーヴェに。真ん中にある質実剛健を体現したかの様なH&KPSG1はドラル。そして左にある近未来的な形のNFP90はマリアに使って貰おうと考えている。


「あぁ、まずこの1番デカイやつ。名前はM2重機関銃! これはレーヴェ!お前が使え!」

「うぉぉお! マジで!?これ僕が使っていいのか!?」

「あぁ、むしろそのつもりで召喚したんだ。頼むから使ってくれよ?」

「言われなくても使う使う〜!うひょ〜!」

「あ、気を付けろよ!それ重さが40キロくらいあるか‥‥‥」

「ん?何か言ったか?」

「‥‥‥マジかよ」


M2を見て興奮し、顔を紅潮させたレーヴェがガシッとM2に手を掛けた。そしてレーヴェは銃本体だけでも40キロ近い重さのM2を平然と持ち上げた。


ちなみにこのM2の後方は通常のM2とは異なり、グリップに固定ストック、トリガーそしてトリガーガードやスリングを付ける金具を設けてある。


なぜグリップやら固定ストックやらを設けたかと言うと、通常のM2は両手で左右に付けられたグリップを持ち、親指で銃の後方中央にあるボタン式のトリガーを押し弾を放つのだが、それだと両手が塞がってしまうし、安定した射撃を行う為に地面に設置する三脚も召喚しなければならない。

そうなると全体の重量は増えるし、射撃の度に一々三脚に固定すると言う手間が増える。


だから俺はこのM2をスリングを使い肩から吊り下げるように加工し、(主に腰溜め撃ちになるが ) レーヴェがHK416Dと同じ感覚で使う事が出来る様、加護の力を最大限利用してこのM2亜種と呼べる物を召喚した。


それにしてもレーヴェの力には驚きだ。


レーヴェは馬鹿でかいバルディッシュをまるで小枝を振るう様に扱っていたから、もしかしたらM2も俺の考えた通りに扱いこなせるだろうとは思っていたが‥‥‥


とりあえずレーヴェを怒らせるのは極力避けよう。 あの馬鹿力で殴られでもしたら死ねる。


「あ、あのミカドさん!私の銃は!?」


レーヴェの反応を見て羨ましく思ったのか、ドラルが俺の袖をクイクイと引っ張る。


うん、実に可愛らしい。

そこまで期待されると嬉しくなってしまうな。うん。


「ドラルはその真ん中の銃だ!名前はH&K PSG1!」

「PSG1‥‥‥ 私の、私専用の銃!」


そんなドラルを見て微笑ましい気持ちに満たされながら、ドラルにはM2と比べると些か頼りない印象を受けるPSG1を手渡した。

ドラルは恍惚の表情で、握ったPSG1を見つめている。


良かった。ドラルも気に入ってくれたみたいだ。


漆黒のPSG1。そしてドラルの黒い羽根や尻尾が日光を浴びて妖艶な輝きを放つ。

その姿はまるで映画のワンシーンでも見ているかの様な、とても幻想的な雰囲気を醸し出していた。


「ミカド‥‥‥」

「わかってるよ。ほら、これがマリアの銃。NFP90だ!」

「んっ‥‥‥ありがとミカド 」


最後にマリアにNFP90を手渡す。

マリアはNFP90を受け取ると、ギッュと抱き締めて年相応の可愛らしい笑顔を見せてくれた。


「どういたしまして」

「皆良かったね! でも、皆の癖や体格に合わせたって言ってたけど、どういう事?」

「それは今から説明するよ。ほら、レーヴェ! 弄くり回したい気持ちは分かるけど一旦M2を置きなさい!

ドラルもマリアも鑑賞は一旦辞めてこっち来る!はいはい、集合!」


マリア達に専用の銃を与えた俺は、何故この銃を召喚したのか。何故この銃をマリア達に与えたのか説明する為に、脇でM2を分解しようとしていたレーヴェと、ウットリとPSG1を見つめるドラル、そしてマリアに声をかけた。




▼▼▼▼▼▼▼▼




「さて、それじゃこの銃をマリア達に与えた理由を説明します」

「「「よろしくお願いします」」」


優しい木漏れ日が降り注ぎ、12月の割に暖かい森の中。

ようやく落ち着いたマリア達を近くの岩や切り株に座らせてノートとペンを召喚した俺は、それぞれの銃のイラストと重量等の細かなデータをノートに書き込んでいく。


今からマリア達にはこのノートを見てもらいつつ、この銃達の特徴等の説明を覚えて貰おうと言う訳だ。


それにしてもこの光景‥‥‥ まるで青空教室だな。

などと感じつつ、俺は目の前に座るレーヴェ達に目線を向けた。


「まずレーヴェが使うM2重機関銃。これは、有効射程2,000mを誇る大型の機関銃だ。

さっきまで使ってたHK416Dの有効射程は300mって言われてるから、その6倍以上の射程距離を持ってるって事だな」

「6倍!? でもよ、それなら僕じゃなくてドラルに持たせれば良いんじゃねぇか? ドラルなら僕とは違って銃の腕も良いから、遠くの敵も倒せるだろ?」

「レーヴェの指摘は最もだ。実際、このM2は長距離狙撃の用途で使われる事もある。でも此奴の真価はそこじゃ無い」


レーヴェの言う通り、事実このM2にスコープを付け、2000m離れた敵を狙撃し撃破したと言う逸話もある。

だが、先に言ったようにM2は本体だけでも約40キロ。弾を加えれば50キロ近い重量になる。


この重量では、他の龍人と違い身体の弱いドラルにはM2の運用は難しいだろう。



「このM2が放つ弾はHK416Dとは比較的にならない位威力がある。 M2で使う12.7×99mm弾って言う弾の大きさは、HK416Dで使う5.56mm弾の倍以上の大きさだからだ。

ちょっとグロテスクな話になるけど、この12.7×99mm弾がもし人間に当たったとしたら‥‥‥ 人間はほぼ即死だな。 ま、実際に弾を見てもらった方が早いか」


俺はそう言い、加護を使って12.7×99mm弾と5.56mm弾を1発ずつ召喚した。


目の前が光り、地面には小ぶりな5.56mm弾と更にその一回り‥‥‥いや、三回り程大きな弾が現れる。


「こ、これが 」

「大きい‥‥‥」

「こんな弾が飛んでいくんですね‥‥‥」

「そしてM2はトリガーを押せばその間ずっと弾が出続ける。 ここまで言えばレーヴェは俺の言いたい事がわかったんじゃないか?」

「あ、あぁ。ミカドは僕に敵に突っ込んで、コイツを撃ちまくれって言いたいんだろ?」

「ん、そうだ。それにレーヴェ自身がさっき言った『沢山撃てば音で敵がビビるかも』って言葉。それも関係してる。何てったって、実際その通りだからな」

「その通り‥‥‥とは?」

「人間は大きな音を聞くと驚く様に体が出来てるんだよ。 銃ってのは、その発砲音で敵をビビらせて戦意を挫く為の役割を持ってるんだ。

この音が聞こえたら誰かが死ぬ。それもグチャグチャになって。そう分かったら狙われてる奴等はどう思う?」

「これ以上ない位にビビるだろうな‥‥‥ 賢い奴なら戦わずに逃げ出すぜ」


俺のこの言葉を聞いて、レーヴェは眉をやや下げた。 自分がM2と対峙した場合を想像したのだろう。

しかし次に俺から出た言葉を聞いた瞬間、レーヴェのモフモフな尻尾がピン! と真上を向いた。


「俺はそれをレーヴェとM2に期待してるんだ。 レーヴェは俺達の中で1番の腕力を持ってるし、レーヴェは一撃に全力を注ぐタイプだろ?

M2はこの銃達の中で1番の攻撃力を持っている。圧倒的な力と存在感で敵を恐怖に陥れる! ヴィルヘルムの切り込み隊長にこれ以上の銃は無いと思わないか?」

「き、切り込み隊長‥‥‥? 」

「あぁ! レーヴェはまさに切り込み隊長になる為に産まれてきた様な存在だ。 レーヴェ以外にこの銃を扱える奴は居ない!

レーヴェの任務はこのM2で敵を薙ぎ倒し戦意を挫く事だ! やってくれるか?」

「お、おぉ! 僕やるよ! 切り込み隊長なんて何かカッコいいじゃん!! よっしゃあ! 頑張るぞぉ!」


切り込み隊長。このワードがレーヴェのツボにハマったらしい。

自分の役目を言い付けられたレーヴェはブンブン! と尻尾を振り乱しながらM2を弄りだした。


とりあえずレーヴェに言いたい事は言ったので好きにさせといてやろう。


「よし、次にドラル。このPSG1って言う銃は、離れた場所にいる敵を狙撃するのに適してるんだ。 そこで俺達の中で銃の命中率が1番高いドラルにこの銃を任せたい」

「狙撃‥‥‥まさに私向きの銃なんですね!」

「そう言うこった。お、あそこに丁度良い的が有るな‥‥‥ ドラル、PSG1の上に付いてる筒を覗いてみろ」

「あ、これですね?わかりました」


ドラルに簡単だがPSG1の特徴をノートを見せながら説明した俺は、前方15m程先に木に実った赤い果実を見つけた。


俺はPSG1とセットで召喚した照準器‥‥‥ スコープを覗いてみる様に促す。

このスコープは覗くと中に黒い十字が書かれており、この十字の中心に敵が来た時にトリガーを引くと、弾がこの十字の中心に飛んでいく。


今回PSG1の上部に付いているスコープの倍率は3〜9倍で、上部と左右に付いた突起を回してピントを合わせたりする。


「あ!凄い!あんなに離れているのに、まるで目の前に有る様に見えます!」

「そのスコープとPSG1が組み合わさる事で、圧倒的な命中精度を産み出すんだ。

スコープの中の十字の中心に敵が来たらトリガーを引け。そうすると弾が十字の中心に向かって飛んでいく。

それにPSG1はセミオートマチックだから、この前のグラースアイデ討伐の時や、アッフェ討伐の時みたく複数の敵にも素早く対処出来る」


このPSG1の最大の特徴。


それはセミオートマチック式のスナイパーライフルだが、高い命中率を持っていると言う点だ。


セミオートマチック式のスナイパーライフルはボルトアクション式のスナイパーライフルと比べ、構造が複雑で重量もあり命中精度も低いと言われている。だが、その代わりとして複数の敵に素早く対抗出来ると言う利点がある。


単純に命中精度だけを追求するならボルトアクション式のスナイパーライフル‥‥‥例えばM700やL96と言ったスナイパーライフルが有るのだが、どうも俺達は複数の敵に襲われる事が多い。


だからドラルには今後同じ様な状況に陥ってもそれを切り抜けられる様に、高い命中精度を矜り、複数の敵に素早い対応が可能なこのPSG1を与えたのだ。


「なるほど。確かにこのスコープを付けていれば、敵がどんなに離れていても百発百中ですね! それにセミオートマチックと言う点も素晴らしいです!

弓で複数の相手をすると、どうしても番て撃つまでの時間差が出来て撃破するのに時間がかかってしまいますから」

「そうだろ?それにドラルは空も飛べるからな。今後は空からの支援攻撃も頼む事になるかも知れない」

「空からの支援攻撃‥‥‥ 一方的に此方が攻撃出来ると言う訳ですね!」

「その通り!」


極め付けに、ドラルは背中に生えている羽根を使い空を飛ぶ事が出来る。

空を飛ぶドラルがPSG1を空から撃ったら‥‥‥


敵からしたら、反撃不可能な空からの攻撃で混乱するどころの騒ぎではないだろう。

このドラルの生まれ持った特性と狙撃時に見せる驚異的な集中力‥‥‥ 陸と空からなる三次元的な連携攻撃も不可能では無い。


「ドラルの任務はこのPSG1を使って離れた場所にいる敵を撃破する事だ!

ドラルは一撃一撃を確実に命中させるって癖が付いてる様だからな。

一撃必殺‥‥‥ まさにPSG1はドラルの為にある様な銃だ!」

「はい! 一撃必殺‥‥‥ミカドさん達の援護は私に任せて下さい!」

「よろしく頼む!で、最後にマリア。マリアには俺がクヴァレルを倒した時に使ったこのP90を使って貰いたい。 理由は‥‥‥ マリアの体格じゃHK416Dはデカ過ぎるだろ?」

「ん‥‥‥実はちょっとだけ‥‥‥」

「やっぱりな。でも、このP90なら全長はHK416Dより60cmも短いから、マリアには扱い易い筈だ。それにその分重量も軽いしな。

機動力の高いマリアが軽いP90を持てば、向かう所敵無しだ!」

「おぉ〜‥‥‥」


マリアにP90を与えた理由はこれだ。


これは以前のクロコディール討伐時や、先程の射撃の様子を見て分かったのだが、セシルやレーヴェ、ドラルはHK416Dのストックを伸ばし射撃していたのに対し、マリアはストックを伸ばしていなかった。

それでも俺達の中で1番小柄なマリアにはまだ少し大き過ぎる様で、若干持ちにくそうな表情を浮かべていたのだ。


その他にもマリアはエルフの特性で人は勿論、植物や動物達の発する気を感じる事が出来き、並みのエルフ以上の身体能力を持っている。


なのでその特性に目を付けた俺は、今後マリアには先行して敵地の偵察等、素早い行動が求められる役割を担って貰おうと思っている。

その時、扱い難いHK416Dを持たせたままだと、折角類い稀な身体能力を持っているマリアの動きを阻害する可能性がある。


だから小柄なマリアでも扱い易く、かつ軽量なP90を与えた。 勿論、P90の威力の高さや装填できる弾の数も関係している。


これは前にも言ったが、P90はHK416D等のアサルトライフルと遜色ない貫通力がある弾を撃つ事が出来き、装填出来る弾の数はHK416Dよりも多い50発だ。


今後偵察任務を頼めば、マリアは敵に近づく機会が多くなる。

そうなると念の為に弾は多い方が良いし、戦闘になったとしたら俺達が駆け付けるまでマリアには耐えて貰わなければならない。


そうなった時に所持している弾が多いと言う事は、俺達が合流するまで敵を牽制出来ると言う事になり、結果として合流するまでの時間を稼げる。


全長が短く軽量で、多くの弾を装填出来き、攻撃力も申し分ない銃‥‥‥この条件が全て当てはまる銃はP90以外存在しない。


「マリアにして貰いたい任務は、その高い身体能力と気を感じ取れる力を活かしての偵察任務だ!ちなみに、P90は今召喚した銃の中でズバ抜けた連射能力がある。

一気呵成に流れる様な連撃を放つマリアにピッタリだろ?」

「ん、 最高‥‥‥ テンションが上がる‥‥‥」


相変わらず言葉は淡々としているが、マリアの顔には満面の笑みが浮かんでいた。

マリアも俺が与えた任務に熱意を持ってくれた様だ。


「うぉぉ!! 僕もテンション上がってきたぜぇ!」

「えぇ、頑張りましょう!」

「ん、2人より活躍してみせる‥‥‥」

「僕だって負けねぇぞ! 僕の前に立つ敵は僕とM2が全部倒すんだからな!」

「あら、私の事を忘れてない?レーヴェ達が攻撃をする時には、私とPSG1が全部倒し終わってるわよ」

「へっ、チマチマ狙うドラルがか?」

「無駄弾をばら撒きそうなレーヴェより役に立つわよ」

「何をぉ〜!?」

「むしろ2人より私とP90のコンビの方が強い‥‥‥」

「あら、マリアも言うじゃない」


俺は期待に胸を膨らませ、姦しく言い争いをするマリア達を眺め、顔を綻ばせた。

其々の特性に合った銃を持ったマリア達が居れば鬼に金棒。ヴィルヘルムは最強の部隊になるだろう。


「相変わらず仲が良いな」

「で、でもミカド、そろそろ止めに入った方が良いんじゃないかな? このままだと手が出そうだよ?」

「そうだな。 そろそろ仲裁に入ろうか。

ふぅ‥‥‥ こら!マリア、レーヴェ、ドラル!一旦落ち付きなさい!喧嘩をする悪い子は銃没収の刑だぞ!」

「っ! 嫌だ!」

「同じく、反省する‥‥‥ 」

「ご、ごめんなさぃ」

「うん。分かれば良いんだ。それより、早速撃ってみるか?まずは撃ってみない事には始まらないだろう? 昨日レベルアップしたから、弾は沢山召喚出来るぞ!」

「お!マジで!?撃つ撃つ!」

「わ、私も!早く手に馴染ませる為に練習したいです!」

「同じく‥‥‥ 撃って撃って撃ちまくってP90の癖を掴む‥‥‥ 」

「ははっ本当に頼もしいな。よーし!弾の込め方や撃ち方は俺が教えるから、各自暫く好きに撃って良いぞ!」

「「「「はーい!」」」」


こうして森には微妙に異なった発砲音が幾重にも重なり、まるで銃の演奏会の様な騒ぎになった。


早朝から始まったこの射撃訓練は、日が傾き、的の視認が困難になるまで続いたのだった。



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