第79話 帰還 その道中 1
「皆本当に世話になった! 本当にありがとう! 一旦ノースラント村に帰るけど、また遊びに来るよ!」
「さようなら!」
「お世話になりました!」
「んじゃな!」
「バイバイ‥‥‥ 」
「応! 姐さんの妹さんによろしくな!」
「気ぃ付けて帰れよ兄ちゃん達!」
「また遊びに来いよな! 絶対だぞ!」
「「「「「またな兄ちゃん達!」」」」」
第7駐屯地まで同乗させて貰った俺達5人は、早速持って来た荷物を纏めてカリーナさんから借りた馬に跨る。俺が借りた馬は俺の髪色と同じ漆黒の毛並みの逞しい軍馬だ。
この子は筋肉の付きも申し分なく、大切に育てられていたのがよく分かる。
第7駐屯地を後にしようと駐屯地の正門に向かった俺達を待っていたのは、カリーナさん、シュターク、クリーガにアル達、此処の皆だった。
皆が其々別れの挨拶を口にしてくれる。
皆は本当に気持ちの良い、晴れやかな笑顔で俺達を見送ってくれた。シュターク達の所為で、俺の兄ちゃん呼びが定着しているが今はそれも嬉しく感じる。
「カリーナさんも本当にお世話になりました。後日落ち着いたらこの子達を返しに来ます」
「そんなに急がなくても良いのよ?
それにまた近い内にまた会えるでしょうからね」
「? とにかく、ちょっとの間だったけど皆と一緒に戦えて光栄だった! またな! よしっ、行くぞ皆!」
「「「「おぉ〜!」」」」
カリーナさんの意味深な言葉に首を傾げつつ、俺は跨った黒髪の馬の腹を軽く蹴った。
ヒヒィ〜ン!
腹を蹴られた馬は高らかな鳴き声を上げ、蹄の音を響かせながら走り出す。
俺はゼルベル陛下達に別れの挨拶をする為に、ゼルベル陛下達が避難している近衛騎士団本部へ向け勢い良く駆け出した。
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「そうか。1度ノースラント村に帰るのか」
「はい。本来、自分達は此度の様な反乱等が起こる可能性が有るとゼルベル陛下達に伝える為に来たのですが、それを伝える前にベルガスの反乱が起こってしまいました。
しかし、それも無事に解決した事で、自分達に依頼された任務は終わったことになります。なので自分達はこの事を依頼主のギルド支部長代理、ミラ・アレティスに報告しに帰ろうかと思います」
「成る程、ミカド様方がペンドラゴに戻っていた理由はそう言う事でしたか」
「はい。もう少し早く到着出来ていれば、ベルガスの反乱は未然に防げたかも知れないのですが‥‥‥」
「なに、それはもう解決した事だ。いつまでもお主が気に病む事ではない 」
「そうです。あの反乱は不本意ながら起こるべくして起こった事‥‥‥ミカド様に非はありません」
「はっ! ありがとうございますゼルベル陛下。ギルバードさん」
第7駐屯地を後にした俺達は、第3城下街の近衛騎士団本部に出向いた。
本当はユリアナやローズ、ラミラにも挨拶をしたかったが、ユリアナはラルキア城の安全を確かめる為にラミラ達を率いて今も働いている。
ローズはベルガスの催眠魔法に掛かっていたので、今はゼルベル陛下の考えで安静にしているべきだと近衛騎士団本部の別室で休んでいるらしい。ユリアナ達の邪魔は出来ないし、ローズに無理をして欲しくないから、彼女達への別れの挨拶は申し訳ないがゼルベル陛下から伝えて貰おう。
「それにしても、謁見の間でのあの爆音と閃光‥‥‥ 実に見事だった。
爆音と閃光で反乱軍を混乱させ、一気に攻撃を仕掛ける。あれはミカドの魔法か?」
「そうですね、あれは閃光と音で敵を混乱させる混乱魔法と捉えてください」
「ふむ、 混乱魔法か‥‥‥ 確か、東の大陸のエルフ族の中には、その様な魔法を使える種族が居ると聞いた事がある。 ゼルベルの催眠魔法と似た魔法か。ミカドもそれを使えるとは。 ふふ、長年生きていてもまだまだ知らぬ事は多いな」
「何にせよ、ミカド様達のお陰で我々は救われました。改めてお礼を申します」
「そうだな‥‥‥ それに思えばユリアナは2度もお主達に助けられた事になる。お主達にはまた大きな借りが出来た。感謝するぞ」
「いえ、そんな‥‥‥ 」
「今回の礼は前回の様に非公式では無く、後日大々的に行わせて貰おう。此度は誠に大儀であったぞ。
さて、お主達はノースラント村へ戻るのであろう? 道中気を付けるのだぞ」
「「「「「はっ!! ありがとうございますゼルベル陛下!」」」」」
「では、これにて失礼します! ユリアナ様やローズ様方にもよろしくお伝え下さい!」
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「そう言えば、ティナちゃん達は大丈夫かな‥‥‥」
「あ、確かに気になるな」
ゼルベル陛下とギルバードさんに別れの挨拶をし、近衛騎士団本部を後にした所でセシルが小さな声で呟いた。
そうだ、ペンドラゴが攻撃されたと言う事は、ティナやダルタスさんが勤めている魔術研究機関も攻撃の対象になっていたとしても不思議では無い。
ペンドラゴを離れる前に、ちょっとティナ達の様子を見ていくのもアリか。
「そうですね、ティナさん達の事も心配です」
「様子を見に行くか?」
「そうしよう。何事もなければ良いけど、ついでに魔術研究機関に行ってティナ達の安全も確認するぞ」
「了解‥‥‥」
そして俺達は今度は魔術研究機関に向かい馬を走らせた。今更だけど、俺は馬に乗るなんて初めてだったが思う様に馬を走らせる事が出来ている。
俺の中の流れている軍人家系の血が馬の扱いを覚えているのか。
いや、きっとこの子が俺の考えを察して走ってくれているんだろうけどな。
そんな事を考えているとあっという間に魔術研究機関の前に辿り着いた。
魔術研究機関は所々壁が崩れたり、門の一部が破損している。 見た所激しい戦闘が有ったみたいだ。
「あっ! ティナちゃん!」
「セシル!? それにミカド達も!! 何でこんな所に居るのよ」
そんな中破している魔術研究機関の前には、慌ただしく職員達へ指示を飛ばすティナ・グローリエの姿があった。
良かった、何時もの小煩いティナだ。
ドカドカと大股で歩み寄ってくる様子から見ても怪我などはしていないみたいだな。
「色々あってな‥‥‥ それより大丈夫だったか?」
「大丈夫ぅ? 大丈夫な訳無いでしょぉ!?
今朝いきなり爆破が有ったと思ったら、今度は変な連中が此処を鎮圧しに来たのよ!?」
「何だって!?」
ティナが顔を真っ赤にしながら地団駄を踏む。
ティナの行動は兎も角、此処も反乱軍の奴等に狙われていたのか。
ベルガスは「魔龍石を牛耳って更に富を得る」とか言っていたから、その一環で魔法に携わる魔術研究機関を狙ったのか?
これは今となっては確かめようが無い。
此処を占拠する様に指示したベルガスは既に死んだのだから。
「ど、どう言う事‥‥‥ ?」
「わからないわよ! 其奴等いきなり乗り込んできたと思えば、『只今より魔術研究機関は我々が占拠する。職員は全員中庭に集まれ!』とか言ってきたのよ!?」
「そ、それでどうなったんですか?」
「それがね、それを聞いたダルタス局長が『黙れ、何処の馬の骨だかわからぬ奴等にこの研究所を渡せるか』って言って、攻撃魔法を叩き込んだのよ!?
そしたらそれを皮切りに、他の職員達も『局長に続け〜!』って、攻撃魔法の大盤振る舞い‥‥‥ お陰でそこら中ボロボロよぉ!」
「「うわぁ‥‥‥」」
深く溜息を吐いたティナが後ろでいそいそと作業をしている職員達を睨みつける。
睨まれた職員達が一瞬「ひっ!?」と怯えた様な声を出し、体を震わせた。
こりゃティナにたっぷり絞られたな。
そしてレーヴェとマリアが目に分かる位ドン引きしている。
この魔術研究機関の有様は反乱軍の爆破に遭った訳では無く、職員達自身が放った攻撃魔法の所為なのか‥‥‥
うん、気持ちは分かるぞレーヴェ、マリア‥‥‥ シュタークやクリーガにアル、第7駐屯地の皆は軍人だから好戦的なのはまだ納得だけど、彼らに負けず劣らず好戦的すぎやしませんかね魔術研究機関さん。
「ま、まぁ‥‥‥ 命に別状が無くて良かったよ。ところでダルタスさんは?」
「局長なら敵を粗方吹き飛ばした後、やる事が有るとか言って自室に閉じこもってるわよ。何か言付けでもあるの?」
「いや、ただ無事かどうか気になっただけさ」
「そう? それなら心配無用よ。見ての通り私はピンピンしてるし、ダルタス局長も普段通りだから」
「ふふっ、みたいだね」
反乱軍に襲われた後でもマイペースを貫くダルタスさん‥‥‥ ま、まぁ怪我もなかったみたいだし安心した。
さて、ティナ達の無事も確認出来た事だしノースラント村に帰ろう。
「んじゃ、挨拶も済んだ事だし、俺達はノースラント村に帰るよ」
「まぁ、ミカド達が此処にいる理由は大体察しが付いたわ。大方ミラの依頼関係でしょう」
「正解。 ゼルベル陛下達に伝えなきゃいけない事が有ったから、今朝ペンドラゴに来たんだよ」
「やっぱりね。って事はまだ半日も経ってないのにトンボ帰りって訳ね‥‥‥ 大変そうだけど気を付けて帰りなさいよ!」
「あぁ! まだ怪しい奴等が居るかも知れないからティナも気を付けろよ!」
「またねティナちゃん!」
「ティナ、そのなんだ、頑張れよ」
「ふぁいと‥‥‥ 」
「えぇ、頑張るわよ‥‥‥ って、こらぁあんた達! セシル達に見惚れてないでサッサと仕事する! 自分達が壊した場所くらい、自分達で治しなさいよねぇ!!」
「「「は、はぃぃい!!」」」
「ははは‥‥‥」
まるで寸劇を見ているかの様なティナと職員達のやり取りを眺めつつ、ペンドラゴに居る知り合い皆へ別れの挨拶を済ませた俺達は、改めてノースラント村に向け動き出した。
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「よし、此処等で少し馬達を休ませよう」
「そうだね。走りっぱなしじゃ馬さんも疲れちゃうもんね」
「賛成です。それにそろそろお昼ですし、少しお腹も空きました」
「僕もお腹ペコペコだよ。何か食べたい‥‥‥」
「そうだね〜。今日は何時もより早く朝ごはんを食べたからお腹減っちゃたかも 」
「あ、皆‥‥‥ あそこに池がある‥‥‥ 」
ペンドラゴを出て1時間と少し。
俺達は馬に跨り林の中に造られた街道を駆け抜けていた。すると、林の切れ目からキラキラと輝く小さな池をマリアが見つけ指を指す。
少し前から馬達の呼吸が荒くなっていたし時刻はもう直ぐ1時になる。
1時間以上も走りっぱなしだから、そろそろ休憩が必要かなと考えていたから丁度良い。
ピクニックとまではいかないがな、あそこで休む事にしよう。
「お、本当だ。よし! あそこで一休みするぞ〜 」
「「「「はーい!」」」」
馬の走る速度を落とし、手綱を引いてその池まで誘導する。
目の前の池は透明度が高く、太陽の陽を反射させキラキラと眩しく光り輝いていた。
池の近くで馬を降りそばに生えていた木に手綱を結びつける。
うん、綺麗な所だな‥‥‥ 休憩するにはもってこいの場所だ。池も綺麗だから飲んでも問題無いだろう。
「さ、どうぞ座って下さい」
「お、ありがとなドラル」
手綱を結びつけている間にドラルが用意してくれた布の上に俺は腰を下ろした。
ふぅ、落ち着く。実にのどかだ。 数時間前まで国の存亡に関わる事件に遭っていたと忘れてしまいそうになる。
「はい皆、食べ物だよ〜 と言っても、パンや干し肉とかしか無いけどね」
「食べられるだけ有難いぜ! 頂きます!」
「あ、レーヴェ! 行儀が悪いわよ!」
「今は行儀より、お腹を満たす事の方が重要‥‥‥ 頂きます‥‥‥ 」
「マリアまで!」
「ちょっと位良いじゃんか。な、マリア?」
「そうそう‥‥‥ レーヴェの言う通り」
「あなた達〜!」
「まぁまぁ、ドラルも遠慮せずに食べて良いんだぞ? 腹空いてるんだろ?」
「は、はい‥‥‥ では、頂きます 」
「ふふっ、沢山食べてね? ちょっと多めに持って来ておいて良かった〜」
「流石セシル!うん美味い!」
「ん‥‥‥ 美味しい」
セシルがパンや干し肉等が入った袋を木箱から取り出した瞬間、レーヴェとマリアが目にも留まらぬ速さでそれを奪取。
モグモグと美味しそうにパンと干し肉を食べ始める。
マリア達3人組でお姉さん的立場のドラルが行儀が悪いと嗜めるも、マリアとレーヴェはどこ吹く風でドラルの言葉を受け流し、パンを食べ続ける。
そんなドラルも空腹には勝てなかったのか、渋々と言った感じでマリアとレーヴェの行動を黙認し、干し肉を食べ始めた。
「全く‥‥‥ でも、こうしていると初めて会った時の事を思い出しますね」
「あ‥‥‥ 」
「そうだなぁ」
「ん‥‥‥ 今日はロルフはお留守番だけど‥‥‥」
不意にドラルがポツリと呟いた。
言われてみれば、マリア達と初めて会った時‥‥‥ 奴隷商人達から救い出した時も今みたいにマリア達を座らせて、ご飯を食べさせたっけな。
最近の出来事の筈なのに色々と慌ただしかった所為か、もう随分と昔の様な気がする。
丁度良い機会だ。
マリア達に俺の秘密を教えよう。
この子達なら俺の秘密を知っても他の人に変に言いふらす事はしないだろうし、きっと突拍子も無い話でも信じてくれる筈だ。
「なぁマリア、レーヴェ、ドラル。 実は俺、3人に言わなきゃならない事があるんだ」
「「「?」」」
仲良くパンを食べながら小首を傾げるマリア、レーヴェ、ドラルの3人に体を向け、座り直した俺は木漏れ日を浴びながら真剣な表情で其々の顔を見つめた。
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