第78話 幕引き
「がっ!? き、貴様っ‥‥‥ !?」
「閣下、閣下の反逆は失敗しました。最後くらい潔く身を引くべきですよ‥‥‥」
「う、裏切ったな‥‥‥ 」
「それは違いますぜ閣下。俺は閣下に殺しを依頼されただけの赤の他人。
俺は金とあの
予想外の事態に俺達は混乱して動く事が出来ない。そんな俺達を無視して、ベルガスを貫いた男は喋り続ける。
「俺は殺しに失敗し、閣下は反逆に失敗した‥‥‥ 俺は暗殺者としての信頼を無くし、閣下は国家に逆らった大罪人。
汚れた人間はせめて引き際だけでも潔くしろよ。そして汚れた人間は、汚れた人間の手で殺されなきゃならねぇ」
「この下衆が‥‥‥ や、約束はどうするつもりだ‥‥‥ 」
「閣下にだけは言われたくねぇ言葉だな‥‥‥ それと閣下、裏切りとは信頼関係で結ばれているもの同士で使う言葉だ。
俺達の関係にその言葉は相応しくない」
ベルガスを刺した人物は男は冷たい口調で語りかける。 ベルガスは口から血を流しながら顔を後ろに向け、剣を持つ人物を睨んでいた。
「それに‥‥‥ 今のこの状況を打破する手が閣下にあるのか? 無いだろう。となれば、当然あの
なら、俺が閣下の依頼を受ける意味が無くなった事になる。後は俺達が自力でどうにかするさ‥‥‥
さぁ、もう眠れ世紀の大罪人ベルガス・ディ・ローディア。お前の反逆は今、この瞬間をもって終わったんだ‥‥‥」
「む、無念だ‥‥‥ 」
俺達は勿論ベルガスにとっても予想外の出来事。
防ぎ様のない一撃を受けた身体から剣が抜かれると、ベルガスは力無く地べたに崩れ落ちた。
ベルガスの瞳から光が消え、中庭を風が吹き抜ける。
その風が、ベルガスを刺した男が纏うフードを揺らした。
「お前はさっきの!」
「何故此処に!?」
「生きてたの‥‥‥」
「暗殺者のリーダー!」
その男はフードを深く被り、右肩に血を滲ませた顔に刺青を入れたあの暗殺者集団のリーダーだった。
フードの下から微かに覗く顔は血が足りないのか青白くなり、立っているのも辛そうだ。 足は震え、呼吸も深い‥‥‥ 瀕死の重傷を負った此奴がここに居るのが信じられなかった。
「お前! 生きてたのか!」
「何者かは知りませんが、ローズから離れなさい!」
「 ‥‥‥ 」
武器を構えた俺とユリアナは其奴の異様な雰囲気に気圧され動けない。
そんな俺達の言葉を無視し、刺青男は剣を投げ捨ててローズの前に跪く。
「ローズ様‥‥‥ お目覚めの時間です。あるべき貴女へお戻り下さい 」
「あっ‥‥‥ ここは、中庭‥‥‥ ?」
刺青男が傅き言葉を述べると、ローズの暗かった瞳が徐々に輝きを取り戻していく。そしてローズが思考の定まっていない様な、眠たそうな声を漏らした。
催眠魔法をかけたベルガスが死んだ事で、その効果が切れたのか‥‥‥?
「貴方は‥‥‥ 誰?」
「名乗る程の者では御座いません。さぁローズ様、ユリアナ様方がお待ちです」
「え? あっ、姉様? 姉様っ!!」
「ローズ! 気が付きましたか!」
刺青男の言葉を聞いたローズは我に返りダッ! とユリアナの元へ駆け寄る。ユリアナも駆け寄ってきたローズをしっかり抱き締める。
まるでお互いの存在を確かめ合う様に強く、強く抱き締めていた。
その間も、何故か刺青男は傅いたまま顔を地面に向けたていた。
「お前‥‥‥ 何故俺達を助ける真似をした! お前はベルガスに俺達を殺すよう依頼されてたんじゃないのか!?」
「ベルガスに言った通りだ。確かに俺はベルガスにお前達を殺す依頼を受けていた‥‥‥ だが俺は依頼の達成がほぼ不可能になったし、ベルガスはベルガスで、例え俺が依頼を達成したとしても捕まっていただろう。
そうなると依頼成功の金は受け取れないし、俺はお前達を殺せたとしても、殺し損という事になる。俺は本来無益な殺生は好まないんだ‥‥‥ 」
「どの口が言う! お前は暗殺者だろう!」
「あぁそうさ。俺は暗殺者で、依頼されて人を殺して来た暗殺者集団の隊長だ。 だがそれもお終いだ。お前達によって部下は俺以外死ぬか、逃げた‥‥‥
それに依頼の失敗は、暗殺者としての経歴の終わりを意味する。 暗殺業は本日をもって閉店だ‥‥‥ なら、最後くらい本来の自分らしく動きたくなっただけさ 」
「お前‥‥‥ 」
本来の自分らしく?
どう言う意味だ‥‥‥
「だが、俺はここで捕まる訳にはいかない。だから俺は逃げる」
「なっ! ま、待て!?」
満身創痍の刺青男は呟くように言えば、ポケットから出した煙玉を地面に叩きつける。
そして、白煙が消えると刺青男は消えていた。
「彼奴‥‥‥ 」
俺は微かに白煙が残る中庭を歩く。
そして、刺青男が立っていた場所に立った。
俺の目の前には目を閉じ、永遠の眠りに着いたベルガスが横たわっている。
地面には刺青男が流した血と、ベルガス本人から流れ出た血が交わった赤い水溜りが出来ていた。
終わったんだよな‥‥‥ これで全部‥‥‥
「はっ、ユリアナ! 急いでラルキア城の西門へ向かうぞ!」
「え‥‥‥ ?」
「反逆の首謀者ベルガスは死んだ! その事をまだ外で戦ってる筈の皆に知らせるんだ! これ以上の戦闘は無意味だって!」
「あ! わ、わかりました!」
「俺達も行くぞ!」
「「「「はいっ!」」」」
感傷に浸っている暇は無い。反乱の首謀者ベルガスが死んだとは言え、外ではカリーナさんや第7駐屯地の皆がまだ戦っている。
次はその戦いを終わらせなければ!
俺達は一息付く間もなく、一足先に走り出したユリアナの背を追いかけた。
▼▼▼▼▼▼▼▼▼
その後の展開はあっという間だった。
反乱軍の不意打ちを喰らい混乱していたラルキア王国の正規軍はあわや敗走寸前にまで追い込まれていたが、ベルガスが死んだ事で催眠魔法によって操られていた1部の反乱軍は正気を取り戻した。
その隙を突いた王国軍は部隊を再編成、指揮系統を回復させて反乱軍を瞬く間に足並みの乱れた反乱軍を鎮圧した。
並びにベルガスの私設軍団の面々も、立て直した近衛師団によって鎮圧された。
この時、ユリアナがラルキア城の西側の城門の上に躍り出で、眼下で戦う皆に対し‥‥‥
「此度の反乱の首謀者ベルガス・ディ・ローディアは死にました!
最早これ以上の戦闘に意味はありません!
大人しく武器を捨てなさい!」
と勝利宣言をした事で、大多数のベルガス軍団の兵士が降伏したのが決め手となった。
ちなみに‥‥‥ これは後日風の噂で聞いたのだが、ユリアナの勝利宣言から数時間後、数名のラルキア王国軍人と政治家がラルキア城へ赴き、自ら自分達はベルガスの反乱に協力していたと自白したらしい。
ラルキア城に赴いた軍人は若手と言われる佐官クラスの将校達で、金や昇進させてやると言う甘言に目が眩みベルガスに協力してしまったのだとか。
政治家達はベルガスの側近で、所謂ベルガス派閥の人間だった。
彼等も反乱が成功した後に、相応の役職に付けるという言葉に目が眩んでしまったと言っていた。
彼等が何故自ら罪を告白したのか‥‥‥
恐らくベルガスが死んだ事を受け、ベルガスとの関係がバレる事を恐れた彼等は、自らその事を告白して、反乱に加担した罪を軽くして貰おうとしたのかもしれない。
その後、彼等がどうなったかは知らないし興味も無い。彼等はベルガスの反逆と言うハイリスクハイリターンな賭けに乗り、負けた。
身から出た錆、自業自得。 それだけだ。
ともあれ‥‥‥ これにより、ラルキア王国全土を混乱と恐怖に陥れたベルガスの反乱は幕を閉じたのだった。
だが、俺やセシルを始めとした面々は、なんとも言えないもどかしさを感じていた。
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11:00
ラルキア城前
「ねぇミカド、 これで終わったんだよね?」
俺とセシル、マリアにレーヴェそしてドラルは、一部城壁と尖塔が崩れたラルキア城を外から見つめていた。
今、ラルキア城内は反乱軍の残党が潜んでいるかもしれないとの理由で、ユリアナと|戦乙女騎士団かっこワルキューレ・リッターオルゲン》が中心となり非戦闘員や部外者を全員城外へ退避させ、大規模な捜索をしている。
ゼルベル陛下やギルバードさん、ローズを始めメイド達は非戦闘員として、近衛兵団の本部へ行かれラルキア城内の安全が確認されるまで、其方で待機するそうだ。
そして俺達は名目上部外者と言う事で外に出されてしまった。
そんな状況になり、ボケっとラルキア城を眺めていたセシルが不安そうな声を俺に投げかけた。
「あぁ終わった。全部終わったんだ。
この後はユリアナやゼルベル陛下に任せよう。俺達に出来る事は終わったんだ‥‥‥ 」
「でも、まさかあんな結末になるなんて‥‥‥」
「あぁ、なんかスッキリしねぇよ」
「ん‥‥‥ 」
「まぁそうだな」
ドラル達が言いたい事は分かる。
まさか、最後の最後であの暗殺者が依頼主であるベルガスを殺す事になるとは思っていなかった。
そしてその暗殺者は姿を消した。
事件は全て解決した筈なのに、妙にスッキリしないのはこの所為だ。
「ミカドちゃん!? 何でこんな所に居るの!?」
「あ、カリーナさん‥‥‥ 皆‥‥‥ 」
「兄ちゃん達、第7駐屯地に戻ったんじゃねぇのか?」
「いや、えっと‥‥‥色々あって」
「もう! 危なくなったら逃げるってお姉さんと約束したじゃない!
でも‥‥‥ その様子を見る限り、ミカドちゃん達が何かしてくれたのね?」
俺の名を呼ぶ声に振り向くと、そこにはボロボロになったカリーナさんやシュターク等。 第7駐屯地の皆が立っていた。その姿が城外での戦闘の激しさを物が立っている。
「あはは、まぁその‥‥‥な 」
実は第7駐屯地へ逃ないで、ラルキア城でベルガス達と戦ってました!
なんて当然言える筈ない。取り敢えず適当に苦笑いして場を濁す‥‥‥ までもなく、カリーナさんは俺達が何をしてたのか察したみたいだった。
「もぅ‥‥‥ 無事だったから良いけど、もう危ない事はしたらダメよ?
なんて、上官からの命令を破った私が言える立場でもないかな」
「いえそんな‥‥‥はい‥‥‥ 」
「ごめんなさぃ‥‥‥ 」
「悪かったよ」
「その、申し訳ありませんでした」
「ごめん‥‥‥ 」
まるで大人に叱られる子供の様に、俺達5人はカリーナさんに素直に頭を下げた。約束を破ってしまった訳だし言い訳はしない。
怒られて当然だし。
「まぁまぁ姐さん。無事だったんだから良いじゃないですかい!
それより兄ちゃん達!兄ちゃん達はこの後どうすんだ?」
「反乱の首謀者ベルガスは死んだし、第3城下街での戦闘が終わったから、俺達は第7駐屯地に戻る所だったんだ」
この後か‥‥‥今日は朝から色々あって疲れた。今はベッドに入ってゆっくり寝たい。
と言うのが本音だが、俺達にはまだやるべき事が残っていた。
「そうだな‥‥‥ えっと、まだ陽が高いから今の内にゼルベル陛下達に別れの挨拶をして、ノースラント村に帰って‥‥‥ 今回の事を俺達に爆破事件の調査を依頼したミラ達に伝えに行こうかなと」
「そう言えば兄ちゃん達、ギルドで依頼を受けてたんだっけな‥‥‥ ならウチの馬を貸してやるよ!良いですよね姐さん!」
「そうね〜 後日ちゃんと返してくれるなら、別に構わないわよ。
早く戻って、ミラちゃん達を安心させてあげて?」
「えっと、良いんですか?」
「良いのよ。こんな事があった直後だもの。私達は暫くペンドラゴの復興や警備に就く事になるでしょうから、馬ちゃん達の出番も少なくなるでしょう。
それにミラちゃんから依頼を受けているのでしょう?
なら、少しでも早く依頼の報告をするのがミカドちゃん達の義務じゃないの?
それにミカドちゃん達が持って来た荷物も取りに行かなきゃ。 どの道一旦第7駐屯地には帰る事になるのよ」
「そうでした‥‥‥ ありがとうございますカリーナさん! 助かります!」
「「「「「ありがとうございます!!」」」」
「っし! そうと決まれば、第7駐屯地まで乗せてってやるよ!
兄ちゃん、嬢ちゃん達! 乗りな!」
「あぁ! 頼む!」
「よろしくお願いします!」
「頼んだぜ!」
「あ、あのよろしくお願いします!」
「よろしく‥‥‥ 」
「さ、第7駐屯地総員! 帰るわよ!」
「「「「「応っ!!!」」」」」
ボロボロだが、胸を張り意気揚々と第7駐屯地の旗を掲げるシュターク達の馬に同乗させて貰った俺達、爆破事件調査隊は第7駐屯地へ帰還する為に動き出した。
空から降り注ぐ太陽の陽が、俺達を清めるかの様に温かい光を降り注いだ。
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