第67話 報告完了




「戦争......」

「マジかよ...... 」

「信じられない...... 」

「戦争なんて...... 大袈裟過ぎませんか?」

「ふむ...... 」


薄暗い部屋の中に響いたミラの発言を聞いた面々からは、息を飲む音と、其々驚きの声を発する。

アンナだけは思う所があった様で、顎に手を当て、何か考え込んでいる様子だ。


しかし...... 驚くのも無理は無い。


俺はミラと同じ可能性を考えていたから、余り驚かなかったが、セシル達はまだこの爆破は、あくまでラルキア国内で起こった『事件』だと考えていた様で、この後に訪れるかもしれない最悪の結末『戦争』と関連付けれていなかったみたいだ。


俺からしたら、むしろこの流れから戦争...... またはそれと類似した事か起こるのは確実...... と確信に近い直感があった。


「いや...... 大袈裟なんかじゃ無いぞ。ここまで綿密な計画と実行力でラルキア王国に被害を齎した連中だ。

今はまだ思惑を断言出来ないとは言え、これまでの流れから凡その察しはつく...... そうだろう? ミカド」

「やれやれ...... 何でもお見通しってか? そこまでお見通しなら、ワザワザ俺達に捜査を頼む必要なんて無かったんじゃないか?」

「それは違うぞミカド。ミカドへこの件の調査を依頼した時には、此処まで大事になるとは思わなかった。

だが、可能性がゼロという訳でも無い。この調査は、その可能性が本当にゼロかを確かめる物でもあったんだ」

「どういう事?ミカド...... 」


セシルを始めとした面々が俺とミラを交互に見つめる。セシル達には、俺の考えた最悪の結末をまだ伝えていない。


昨日セシル達と話した時に、戦争になるかも知れないと頭の片隅で考えはしたが、決め付けるのは時期尚早と思い、伝えていなかったのだ。


だが、ミラも俺と同じ可能性を考えているなら...... 話は別だ。


「この事件には、それなりに力のある黒幕が居る...... これはほぼ間違いないだろう。

となれば、この黒幕が次に取るだろう行動は、考え付くだけで4通りある」

「4通りも......それは...... ?」

「順を追って説明する。まず可能性その1。

黒幕がラルキア王国首脳部に何らかの要求をする事。例えば金銭とかだな」

「なるほど...... 金銭目的で今回の事件を起こしたと仮定するなら、自分達の力を示し首脳部を脅せば、首脳部はその要求に応じる可能性が高くなる...... 黒幕はそう考えた訳ですね...... 」

「アンナの言う通りだ。今の時点で、ノースラント村を最後に爆破は確認されていない。

これは、黒幕が首脳部に要求する機会を窺っているとも取れる。

次に可能性その2。さっき言った要求を黒幕が行う、行わない、首脳部がその要求を呑む、呑まないで黒幕の動きは変わるかも知れないが...... 黒幕が断続的に爆破を続ける可能性だ」


実の所、俺はこの可能性その1も、可能性その2もそれに発展する事は、まずないだろうと考えている。

金目的でこの事件を起こしたとは考えにくいし、断続的に爆破を続けても黒幕には、何ら旨味が無いからだ。


金銭を得たいだけなら、もっと簡単な方法が幾らでもある筈だ......

例えば、この国の資金源となっている魔龍石の発掘地を襲ったり、魔龍石を奪う等だ。

繰り返すが...... 金銭だけが目的なら、必要以上に危ない橋を渡る真似はしないだろう。


逆にラルキア王国に混乱を齎したいだけなら、標的をギルドや軍だけに絞る事はしないだろう。爆破するなら、もっと人が多い市場等を爆破した方が、ラルキア国民や首脳部に強い精神的苦痛、混乱を与えられた筈だ......


それにノースラント村のギルド支部を最後に、爆破がキッパリと無くなったのも理由の1つだ。

断続的に被害を与えたいなら、爆破が途絶えるのはおかしい。



俺は頭の片隅でそう考えながら、言葉を並べ続けた。



「えっと...... つまりラルキア王国を攻撃するのが黒幕の目的なら、今後も爆破が続くって事...... ?」


頼りなく放たれたセシルの声は微かに震えていた。

俺達が実際に体験したあの爆破が、これからも起こる事を考えてしまったのだろう......


アレは下手をしたら一生のトラウトとなっても仕方ないくらいの衝撃だったからな......


「可能性は低いがな。 でも、古今東西、大勢の人が暮らす国には、その国の方針に不満を持つ人が一定数は必ず居る。 今回の爆破もそう言った不満を持ち、かつ金銭面等で余裕のある一定数の人達が暴走して起こった可能性も無い訳じゃない。

そして可能性その3......この黒幕が政権を奪取しようと蜂起する...... だ」

「それって...... 反乱......って事?」

「その通りだ。黒幕は、防衛の要の軍駐屯地や関連施設...... 有事の際に自警団を組織する権限を持つギルド支部を狙って爆破している。

となれば、防衛力が低下し、総司令部やギルド本部が混乱しているこのタイミングを突いて、反乱や内乱に発展する可能性も大いにある」

「な、内乱なんて!? でも...... 現状集めた証拠だけ見ても、充分にあり得ますね...... 」


マリアは相変わらず静かに、そして聞いている人にすんなり染み込む様な声色で言葉を紡ぐ。マリアは余り感情が表に出ない。

今もそれなりに衝撃的な事を言ったつもりだが、淡々とクールに言葉を返してきた。


ドラルは一瞬声を荒げはしたが、直ぐに状況を冷静に見極めた。

今居る面々の中で、どちらかと言えばドラルは幼い。だからこそ、必要以上に慌てず、物事を見極め考えようとする彼女の事を、俺は凄いと思った。


「ミカド様...... 最後の可能性その4は......?」

「この可能性その4は......俺が考え付いた中で1番最悪...... 1番実現して欲しく無いモノだ...... 」


アンナに促された俺は、可能性その4によって齎される光景を思い浮かべてしまった......


業火に焼かれる街......

逃げ惑う人々......

飛び交う絶叫......


眩暈と吐き気を催す程の光景が、俺の頭の中に広がった。


「...... 仮にこの黒幕が国外の敵対勢力...... 潜在的敵国の回し者だとしたら、この黒幕は、今回の爆破でラルキア王国の防衛力が落ち軍が混乱している間に、国外の味方に通達し、その敵対勢力がラルキア王国に侵攻してくる可能性がある...... だろう?」

「「「「っ!」」」」

「その通りだ...... 」


言葉を詰まらせた俺に変わり、ミラが俺の言いたい事を変わりに説明してくれた。

セシル達は、この言葉を聞き、先程ミラが戦争になるかも知れないと言った理由を痛感した様子だった。


俺はあげた候補の中で、この可能性その4か、可能性その3が起こる可能性が高いと考えた。


理由は先に俺とミラが述べた通りだ。


「で、でも待って下さい!この大陸には平和条約があります!仮に他国が攻めて来た場合は、平和条約に則り、他の国がラルキア王国を守る為に参戦します!

それは黒幕にとっても危険なのでは?」

「アンナの言う通り、この大陸には平和条約がある......

だが、明らかに計画的を立ててラルキア王国の施設を爆破した連中だ。

何らかの見返り等で他国を誑かし、傍観する様に要求していても、何ら不思議はないと思わないか?」

「はっ......」


ミラとアンナのやり取りを見て、俺はある事を思い浮かべた。


仮に、どこかの国がラルキア王国に侵攻してくるとしたら、必然的に当てはまるのは、ラルキア王国と国境が陸続きになっている潜在的敵国の西の軍事大国エルド帝国...... 人間大陸随一の技術力を持つルノール技術王国の2国だ。


北東にある小国、スノーデン公国はラルキア王国と同盟を結んでいるし、南にある農業国家マリタ共和国は、ラルキア王国と対等な貿易を行っているから攻めてくる可能性は低いだろう......


が、仮に...... もし仮に...... このどちらかの国が侵攻して来たとして、その他の国は本当に平和条約に則った行動をしてくれるのか?

傍観だけなら、まだ良いが...... 最悪侵攻して来た国と共闘してくる事も...... いや、流石に考え過ぎか...... ?だけど......


「......ど!おい、ミカド!聞いているのか!」

「あ...... すまないミラ......もう1回言ってくれないか?」


どうやら無意識の内に、俺はこの侵攻の可能性について考える事に集中していたみたいだ......


「しっかりしてくれよ? ただでさえ大変な時なんだ。くだらないミスはお互いにして欲しく無いだろう?」

「返す言葉も無い...... 」

「はぁ...... まぁ気を付けてくれればそれで良い。

それで、ミカド達はこの後どうする? 私としては一旦捜査を打ち切り、軍やギルドの指示を仰ごうかと考えているが...... 」

「そうだな...... 調査を続ける、続けないに関わらず、俺達がさっき言った可能性の事はゼルベル陛下達に伝えた方が良いと思う。

断言出来ないとは言え、俺やミラは同じ結論に至っている。

この可能性を伝える位はした方が良いと思うけど...... 」

「っ...... あぁ!もう!

さっきから難しい話ばっかで良くわかんねぇ!」

「レーヴェ?」

「要は黒幕が次の動きを起こす前に、僕達でこの黒幕を取っ捕まえれば、全部解決するって事だろ!」


この部屋に来てから、妙に大人しいかったレーヴェがいきなり声を荒げた。

あぁ...... 余り言葉を発しなかったのは、少し政治的な事も含めた話をしていた所為で、内容が余り理解出来なかったのか......


でも、レーヴェのこのポジティブな言葉や考えは、ネガティヴな思考になっている俺達にとっては本当に有難い。


レーヴェの考えは、どちらかと言えば物事をマイナスな方へ捉えてしまうセシルやドラル、マリアとは違い、良い意味で物事を悪い方へ捉えない。

それがレーヴェの力強い言葉や性格と相まって、無理矢理プラス思考に持って行かれる。


今、俺達を包み込む負のオーラを払拭するにはレーヴェ程の適任は居ないだろう......


「ふふっ...... そうだな...... 悪い事ばかり考えていても状況は変わらない...... レーヴェの言う通りだ!

よし、ミカド!さっきの話は無しだ!

ミカド達はこのまま調査を続行し、なんでも良いから、分かった事があれば随時報告して欲しい。並びに新たな命令を伝える!

ミカド達は調査を並行して行い、軍や警務局と協力し、この黒幕を捕まえるんだ!」


レーヴェのポジティブな言葉に感化されたのだろうミラは、静かに微笑むと朗らかな声で新たな指示を出した。


確かにレーヴェやミラの言う通りだ......まだ起こってもいない事をウジウジ考えて悲観的になるより、行動をする方が大切だ!


「っし!了解した!俺達に任せておけ!」


俺はネガティヴ思考になっていた自分に喝を入れるため、軽く頬を叩き気合を入れ直した。



▼▼▼▼▼▼▼▼



その後、俺達は今後の行動を話し合った。

そして決まったのは次の踊りだ。


○爆破事件に関する調査はこのまま続行。爆破関連で分かった事があれば、随時ミラとゼルベル陛下に報告する事。


○調査はペンドラゴを拠点として続行する事。理由はギルド本部や、軍総司令部並びにラルキア王国の警察機関である警務局と連携を強化し、意思疎通を図る為である。


○今回の件には、間違いなく黒幕が居り、俺達は軍や警務局と協力して黒幕の逮捕にあたる事。

ちなみに、ギルド職員や組員には、人を逮捕する権限が無いから、これはもっぱら軍か警務局に任せる事になるが......


以上の3点を改め、俺達は行動を再開する事になった。


クゥン......


「おっと、待たせて悪かったなロルフ...... それにしても、大分話し込んだな......真っ暗だ」


外に出ると、辺りは真っ暗になっていた。時刻は午後9:00近い。

ノースラント村に帰ってきたのが、大体5時くらいだから、4時間近くも話し合っていた事になる。

俺は、この数時間大人しく待っていてくれたロルフを労うように撫でまくった。

セシルやマリア達も同じ様にロルフを撫で回している。


「その様だな...... っと、そうだミカド。今直ぐにペンドラゴに行くなんて無謀な事はするなよ? 夜は盗賊の時間だからな」

「わかってるよ。ただでさえ、此処に帰ってくる途中に変な奴らに襲われたんだ...... 今日は大人しく帰って、準備を整えたらペンドラゴに向かうよ」

「えぇ!? ミカド様達襲われたんですか!?」

「あれ、言ってなかったっけ?」


そう言えば、暗殺者集団に襲われた事は伝えていなかったな。

正直な所、余りにも現実離れし過ぎていて、頭から抜け落ちてしまっていた。


「聞いて無いですよぉ!」

「あはは...... 伝えるタイミングが無かったからね...... 」

「ふむ...... 誰に襲われたんだ? 盗賊か?」

「いえ...... どうも暗殺者の類だとか...... 」

「ん...... 私達を狙ったのも仕事だって言ってたし、ミカドの名前も知っていた...... 」

「なんだと!? そう言えば、皆擦り傷があるな...... 良く大怪我をせずに済んだものだ...... そいつらの特徴はわかるか?」

「そうだな...... 全身黒づくめで、変なセリフを言ってたぜ? 確か...... 鷹の目がどうこうって」

「鷹の目は常にお前達を見ているぞ...... 」

「あぁ、それだ!」

「鷹の目...... アンナ聞いた事はあるか?」

「いえ..... 申し訳ありませんが...... 」

「そうか...... とにかく暗殺者に目を付けられたとは...... タイミング的にも今回の事件が関係していると見て良いだろうな...... その暗殺者の事は私達も調べてみるが...... 用心しろよミカド」

「言われなくても大丈夫さ。俺は死ぬ訳にはいかないからな...... それじゃ、明日の朝一で此処に来れば良いんだな?」


あの暗殺者のリーダーは俺の名前を知っていた。もしかしたら...... いや、今日はロルフも居るし大丈夫だろう......


たまネガティヴ...... と言うか、悪い方へ考えが向いてしまったが、何とかその考えを押し込めて、ミラ達に安心させる様に笑みを向ける。


「あぁ...... では、また明日。頼むぞミカド」

「おやすみなさいませ皆様」


不安げな表情を浮かべるミラや、アンナの目線を背中で感じながら、俺達はロルフと共に帰路に着いた。

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