第65話 俺達に出来る事
「っ!? なら、こんな所でダラダラしてる暇ねぇじゃねぇか!」
駆け付けてくれたシュタークに、これまでの調査でわかった事や、先程襲撃された経緯を断片的に、憶測も交えつつだが説明し終わるとシュタークは声を荒げた。
彼もこの国に住む人であり、かつ治安維持にも携わっている軍人なだけに、俺の説明した事の重要さを誰よりも深刻に感じたらしい。
「そうは言っても馬車が...... 」
「うん...... 」
レーヴェとセシルが目線を後方に移すと、そこには先程の戦闘で流れ矢に当たり、血を流す2匹の馬と御者さんの遺体が横たわっていた......
幾ら急ぎたくても、御者さんも馬車を引く馬も居なければ徒歩で移動するしかない......
今居る場所はペンドラゴとノースラント村のほぼ中間地点に位置し、
しかも、移動中にさっきの様な黒づくめの暗殺者集団に襲われる可能性ある。
何しろ先程俺達を襲った奴らは、『俺達は一度契約したら標的を殺すか、契約が破棄されない限り追い続ける...... 』と言っていた。
となれば、あの黒づくめの暗殺者達の様に、何者かに依頼された他の暗殺者達が俺達を襲ってくる可能性も無いとは言い切れない。
そうなれば注意して進まざる負えなくなり、ノースラント村に到着するのはもっと遅れるかもしれない......
「よし、なら俺達がノースラント村までミカドの兄ちゃん達を連れてってやる!」
「え、良いのか? 俺達からしたら願ったり適ったりなんだけど...... 」
「話を聞く限り、ミカドの兄ちゃん達は乗っていた馬車の進路を木で妨害されて、そこを襲われたんだろ?
しかもその黒づくめの集団...... 恐らく盗賊の類じゃねぇ」
「ん......」
「地面に刺さってる矢の数から推定しても、襲って来た奴等は20人近く居ただろ?
この周辺の地形を調べ上げ、俺達の尾行を巻く程の行動力と数倍の人数で襲う用意周到さ...... ミカドの兄ちゃん達を襲ったのは其れなりに名の通った暗殺者の集団かも知れねぇぞ...... 」
「暗殺者...... で、でも何で私達が標的に...... 」
「それはミカドの兄ちゃんや、お嬢ちゃん方が1番分かってるんじゃねぇかい?」
「...... 」
「あっ!」
俺はこの世界に転移した際に得た不思議な力で、さっきの奴等が暗殺者だと知っていたが、ドラルは悟った様に悲鳴の様な声を上げた。
考えれば直ぐに分かることだ。
俺達は、今この国を襲っている大規模な事件の調査をしている。
しかもこれは突発的な事件では無く、入念な準備と思惑がありそうな事件なのだ。
黒幕が居たとしたら、それを調査する俺達の存在は目の上のたんこぶ...... 出来る事なら、人知れず死んで欲しいと考えるに違いない..... 俺達が襲われた理由は、この事件に首を突っ込み過ぎた事に関係していると見て良いだろう。
あの黒づくめの暗殺者集団は俺達の事を知っていたみたいだし、依頼した奴はもしかしたら俺達の顔見知りの可能性も......
「そう言う訳だ。よぉし! てめぇら! よく聴け!
俺達、第7駐屯地即応機動小隊30名は、今から此処に居る5名をノースラント村まで護衛する事を主目的とした緊急任務を開始する!
第1分隊と第2分隊20人は道を塞いでいる倒木の撤去! 第3分隊10人は周囲に敵が居ないか索敵行動をしろ! 作戦開始!」
「「「「「応!!」」」」」
シュタークは俺達にニカッと暑苦しい笑みを浮かべたかと思えば、次の瞬間その表情は一変。
気持ちを切り替えキリッと頼もしい顔付きになれば、場慣れした鬼軍曹の様に連れ添ってきた部下達へ指示を飛ばした。即座に返事をして作業を始める部隊の人達も凄かったが、シュタークの指揮は惚れ惚れする程素早く、そして的確だった。
「凄い...... あっという間に木を退かした......」
「うん! さすが軍人さんだね!」
「そうだろう? まぁこの程度、俺の部下達なら朝飯前さ」
シュタークが指示をしてから僅か数分後。
見るからに重そうな大木は、屈強なラルキア王国軍の男達の手で脇に退かされた。マリアやセシルが驚きの声を上げ、シュタークは当然だと部下達の働きに胸を張っている。
木を退かす作業を見ただけだが、シュタークが指揮するこの即応機動小隊と言う部隊は、よく訓練され確かな団結力と実力を持っている事がよく分かった。
「隊長、倒木の撤去と索敵完了しやした! 並びに、周囲500メートル圏内に敵性勢力は確認出来ません」
「よし、これよりノースラント村まで移動を開始する! 第3小隊はこのまま先行し前方警戒!
第1、第2小隊はこの5名を囲むように方円陣形を組み、周囲を警戒!
奇襲されても直ぐに対応出来る様にしろ!」
「「「「「応!!」」」」」
「さぁ、ミカドの兄ちゃん達。待たせたな。生憎と馬の数に余裕が無いから部下達の馬に同乗する形になるが...... 」
「いやいや、護衛してくれるだけでもありがたいのに馬にまで乗せてもらって...... でも良いのか?シュターク達はあの黒づくめの男達を追っていたんだろ?」
「確かに、そう言う名目で部隊を引っ張ってきた訳だが......
今、俺達が優先すべき事はミカドの兄ちゃん達が撃退された彼奴等を追うより、爆破事件の手掛かりを掴んだミカドの兄ちゃん達を、無事に依頼主の所まで送り届ける事だと判断しただけさ。
亡くなった御者や馬達は後で俺達が弔っておく......お前達はお前達が出来る事をやれ!」
「シュターク...... 」
「はい......ありがとうございます!シュタークさん」
「礼は良いから早く乗りな! 少しでも早く着いた方が良いだろ?」
「あぁ! よろしく頼む!」
こうして素早く倒木の撤去と、周囲の索敵を終わらせた即応機動小隊の人達の馬に同乗し、守って貰う形で俺達5人はノースラント村まで移動を開始した。
どうでも良い話だが、セシルを始めとした女性陣を後ろに乗せた軍人はだらしなく顔が緩み、それ以外の人達は凄い形相で睨んでいた...... いくら軍人とは言え彼等も男だ。気持ちはわからんでも無いけども......
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「さぁ着いたぜ。何事もなくて良かったな」
「あぁ。ありがとうシュターク本当に助かった」
シュターク達の部隊と合流し、ノースラント村まで送って貰う事1時間後。
俺達は無事にノースラント村の前に立つ門の前に到着した。
心配していた暗殺者達の襲撃も無く、無事にここまで辿り着けたのはシュタークや彼の部下が、周囲に睨みを利かせ、隙無く守ってくれたお陰だろう。
まぁ、もしかしたらあの黒づくめの集団以外に暗殺者なんて居なかったのかも知れないが......
だが、彼等が俺達を守ってくれた事に変わりは無い。この仕事がひと段落したら、彼等にお酒でも奢ってやらないとな......
「ありがとうございました!シュタークさん!」
「ありがとう...... 」
「お陰で無事にノースラント村に帰ってこれました」
「ありがとな!」
「良いって事よ! さ、早くわかった事を報告しに行きな!」
「あぁ! 落ち着いたら皆に酒でもご馳走させてくれ!」
「ははっ! そいつは楽しみだ! 期待してるぜ! なぁ?お前達」
「「「「「うっす!」」」」」
シュタークや、部下の皆は楽しそうに微笑みを浮かべている。
はは...... こりゃ大きな店を貸切にしないといけないな......
「よし、それじゃ俺達はペンドラゴに戻るぜ。気を付けろよ兄ちゃん達!」
「おう!」
ピシッと、表情と気を引き締めたシュターク一行が、一糸乱れず右手を右眉に重ねる様に敬礼をする。
俺やセシル達もシュタークに習い、返礼をした。 その様子を見て、小さく笑みを浮かべたシュターク達は、巧みに馬を操り元来た道を全速力で駆け抜けていった。
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「ミカドちゃん! 大丈夫だった!?」
「ミラさんから支部が爆破された直後にペンドラゴに行ったって聞いて、皆心配してたんだぞ?」
「あぁ...... 王子が無事でよかった...... 」
「まぁ、怪我もなさそうで安心したよ」
「皆...... 俺達は大丈夫だ。なぁ?」
「うん! 私達は大丈夫だよ!」
ノースラント村の正面門を潜ると、満腹食堂の女将さんを始め、顔馴染みの村人達に囲まれた。
この村の近くで生まれ育ったセシルは元より、最近この村へ来たマリア達の周りにも人集りが出来ている辺り、マリア達も村の皆に大事にされ、村の一員と認められたんだなと感じる。
俺は、少し前の自分を見ている気分になった。
「それより、皆して外に出てて良いの? 今は極力外出を控えるようにって、命令が出ているはずだけど...... 」
セシルがそう言いながら、周辺を見渡した。
俺もつられて周辺を見渡してみたが、ノースラント村を離れて僅か数日で、村の様子が少し変わっている事に気が付いた。
具体的に言えば、数日前には無かった櫓の様な物が建てられ、村の周囲を囲っていた木の壁が、俺の背丈と同じくらいのレンガの壁に変えられていたり、先端を尖らせた木を等間隔に並べた馬防柵が作られていた。
「あぁ、私達はミラさんの指示で特別に外出出来るようにして貰ったんだよ。
その変わりに、村の防衛力を高めるのに協力してるのさ」
「ここには軍の駐屯地が無いからね...... この前みたいな事が無い様に、不審者が簡単に入ってこれない様に壁をレンガにしたり、不審者を早く見つけられる様に物見櫓を作ったりしてたのよ」
「ギルド支部の人達は支部の修理と治安維持の任務が出来たからな。
支部の連中だけじゃ人手が足りねぇと言われれば、これまで世話になった分、恩返ししてぇじゃねえか」
「今はどこも人手が足りて無いんだろ?なら、俺達も少しでも力になれる事があるかもってさ...... 」
そう言う事か......
女将さんや村の皆の話を聞き、なぜ極力外出を控える様に言われているのに、皆が外にいるのかがハッキリした。
ノースラント村のギルド支部は先日の爆破攻撃で入口付近が大破している。
それに伴い、ミラ達ギルドの職員は支部の修理に人数を割かなければならなくなった......
そうでなくても、ギルドには今周辺地域の治安維持の命令も出ている。
今のノースラント村ギルド支部は、猫の手も借りたい状況だろう。
それと並行してミラは、ノースラント村が2度とこんな被害を受けない様に、防衛策を講じたが、例によって人手が足らずに外出禁止令を例外的に解除して、村人に櫓や壁の建設を頼んだ訳か。
「大体わかりました...... 村の事は頼みます! 俺達はミラの所へ行かないと」
「えぇ。ノースラント村は私達に任せて、ミカドちゃん達も自分にしか出来ない事をやりなね!」
「「「「「はい!」」」」」
「よぉし! ミカド行こう!」
「ミラも待ってるはず.....」
「はい! 今後の相談もしないといけませんし!」
「急ごうぜ!」
「あぁ、行くぞ!」
「頑張るんだよミカドちゃん!セシルちゃん!
「マリアも頑張れよ!」
「レーヴェお姉ちゃん行ってらっしゃい!」
「ドラルちゃんファイト!」
俺達5人は其々村人の皆にエールを送られながら、俺達は俺達に出来る事をやる為、ノースラント村ギルド支部へ向かい走り出した。
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