第37話 シュバルツファルク
「おいおい、もうコートなんか着て...... ミカドは若ぇ癖に寒がりだな」
「あらセシルちゃんにミカド君。今日も仲良くお出かけ?」
「相変わらず仲が良さそうで羨ましいぜ」
コートを召喚した瞬間を見られているなんて考えもしなかった俺とセシルは、程なくしてノースラント村に到着した。
ノースラント村ギルド支部へ向かって真っ直ぐ伸びるメインストリートに足を踏み入れると、寒さに慣れている村の皆が笑みを浮かべ話しかけてくる。
村人達は俺の様にコート等の防寒具は着ておらず、中には半そで短パン姿の村人も居た。
俺の体感温度では確実に5度を下回っている筈なのだが......
それにしても、村の皆の雰囲気はだいぶ友好的になったな。俺を遠巻きからジロジロ見ていた頃と比べて雲泥の差だ。
俺がヴァイスヴォルフ・ルディを倒した事と、セシルが俺と村人の架け橋になってくれているお陰だろう。
苦笑いしながら、俺とセシルはすれ違う村人達と言葉を交わす...... セシルが皆が言う事を一々真に受けて、顔が真っ赤になっているのもご愛嬌だ。
「ようこそミカド様。どうぞこちらへ」
ノースラント村ギルド支部に着くと、いつもの門番さん達が居た。
相変わらず貼り付けた様な営業スマイルを浮かべる門番さんに、出入り口を開けてもらう。先週同様、今日は日曜日なのでギルド内に人は少ない。
あと、アンナは今日も居るみたいだ。
とりあえず、俺とセシルは顔見知りの受付嬢、アンナが座っている席に歩いていく。
「あら、ミカド様にセシル様。おはようございます。本日はどの様なご用件で?」
「セシルと一緒にポーン級クラスの依頼を受けに来たんだ。
ポーン
「かしこまりました。少々お待ちください」
アンナは綺麗に頭を下げると、机の下から電話帳程の厚みがある本を取り出し、ページをパラパラと捲る。
この分厚い本に依頼の詳細が書かれているのか。
そして数分後......
「大変お待たせ致しました。現在、ポーン級で受け付けている依頼は下記の通りになります」
「ありがとう。えっと...... 何々」
俺とセシルは、アンナが差し出してきた分厚い本を覗き込む。
俺は1週間かけてこの世界の文字を読み書き出来る様になっていたので、本に書かれている文字を難なく読む事が出来た。
差し出されたページには、今居るノースラント村周辺で出来る依頼が書かれている。主な内容は下記の通りだった。
〇放置されている家屋の解体作業:ノースラント村外れ
〇薬草の採取:始原の森西側
〇引越し手伝い:ノースラント村~城砦都市ピナム
〇荷車の製造手伝い:ノースラント村etc......
前にダンさんが、ギルドは何でも屋と言っていたが、家の解体から荷馬車の製造まで本当に何でもやるんだな......
「さて、どうするセシル?まずは楽そうな薬草の採取で肩慣らしするか?」
「ん〜。でも...... ミカド、薬草の見分けって出来る?」
「あぁ...... 無理だな...... 悪いアンナ。この依頼とは別に、討伐系の依頼は有るか?」
「討伐依頼ですか?少々お待ちください」
そうだ。確かに俺は薬草と雑草の見分けがつかない。雑草ならまだしも、間違えて毒草を採取でもしたら目も当てられない。
それに今日は現段階で自分達の持つ戦闘力を知る為に此処に来たんだ。
となれば、魔獣と戦った方が手っ取り早く戦闘力を知る事が出来る。
俺の言葉を受けたアンナはまた分厚い本をパラパラと捲り......
「お待たせ致しました。現在ポーン
『
「
「ですが、この依頼はポーン級がビショップ級に進級する為に受ける、いわばビショップ級への昇格テスト...... ギルドでは【指定クエスト】と呼んでおります。初めての依頼でいきなり指定クエストを受けるのは、依頼に慣れていない等の理由で余りお勧め出来ません」
アンナは静かに話し続ける。
「本来でしたら
お2人は初めての依頼という事ので、ここは比較的安全な依頼を受けることをお勧めしますが...... 」
アンナはキリッとした目付きのまま、依頼の詳細が書かれた本を閉じた。
なるほど..... 討伐依頼はハードルが高そうだ......
俺だけならまだしも、セシルが一緒に居る事を考慮すると、今回は無茶せず荷車の製造の手伝い等の重労働を甘んじて受けるか......
そんな具合で悩んでいると、セシルが俺の服をクイクイと引っ張った。
「ミカド、指定クエスト受けよう。私足手まといにならない様に頑張るから」
「でも大丈夫か?」
「うん!私だって鍛錬して強くなったんだから!」
ふむ。セシルがやる気になっているのに水を差すのは気が引ける。
何よりセシルが言う通り、セシルは僅か1週間の間に驚く程強くなった。
今朝方召喚したばかりのレイピアでさえ、まるで練熟した武芸者の如く扱って見せた位だ。
今のセシルならこのギルドの指定クエストでも何とかこなせるだろう......
それに、セシルが危ない目にあったら俺が守ればいいんだ。
よし、やるか!
「忠告感謝するよ。でも、俺達はこの『
「うん!」
「よろしいのですか?1度依頼を正式に受注しますと、受注した依頼を完遂するまで別の依頼を受けられませんし、途中で依頼をキャンセルする場合には、依頼受注時に発生する契約金が依頼主の物になりますが......」
「あぁ。大丈夫だ」
「かしこまりました...... ではこちらの用紙に、ギルド級とお名前のご記入をお願い致します」
「了解」
俺とセシルは、アンナが差し出した【依頼受注用用紙】と書かれている紙に、名前と今のギルド級を書き込み、用紙をアンナに返した。
「はい、確かに。ミカド・サイオンジ様とセシル・イェーガー様。
ちなみに依頼には期限があり、この期限を過ぎても目標の討伐が出来なければ、依頼は不達成となります。
依頼不達成の場合は、再度ギルドで依頼を受注して頂く必要がございます。尚契約金は返ってきませんのでご了承を」
そう前置きしたアンナは、初めて依頼を受ける俺達に詳細の説明を始める。
「
討伐場所は始原の森の西側にある【嘆きの渓谷】周辺。
ここで最近出没している
性格は比較的大人しいのですが、この時期は繁殖期......
雑食で何でも食べ、全身が真っ黒なのが特徴です。 討伐が終わりましたら、討伐完了の証拠となる白い飾り羽を持ち帰って下さい。
この飾り羽は
では、最後に今回の依頼の契約金1000ミルのお支払いをお願い致します。」
「了解。えっと1000ミルっと...... はい」
流れる様に言葉を発したアンナに、俺は腰にぶら下げている麻袋から銀貨を1枚取り出し、手渡した。
「セシル様はこの
と...... 長くなりましたが、これで今回の依頼に関する説明はお終いです。ご健闘をお祈りしていますよ」
「おう」
「はい、ありがとうございます!」
俺とセシルは丁寧に依頼の詳細を説明してくれたアンナにお礼を言うと、ノースラント村ギルド支部を後にした。
▼▼▼▼▼▼▼▼
依頼の受注を終えた俺達は早速、明日依頼場所の【嘆きの渓谷】に向かおうと、早めに家へ帰って狩りの準備をする事になった。
家に帰る間、俺とセシルは今回の黒隼討伐について話し合った。
「さっきのアンナの話だと、今回の黒隼って鳥だろ?
って事は今回は刀とかの出番は無いかもしれないな...... 」
「そうだね。前お父さんが黒隼は、寝る時と食事の時しか地面に降りないって言っていたし」
「となると今回は銃や弓をメインで行くことになるな...... なぁセシル、ダンさんとかは鳥類を討伐する時ってどんな武器を使ってた?」
「基本弓かな~ 極稀に攻撃魔法で狩っている人も居たけど...... でも銃があれば弓よりも楽に狩れるよ!」
「なるほど、ならショットガンが使えるな」
「ショットガン?」
「あぁ、ショットガン。散弾銃とも言うんだが、これはベレッタとは違って、1度に複数の鉛球を打ち出せるんだ。
俺が元居た世界では、鳥類の駆除とかに使われてたから、今回みたいな依頼にはうってつけの銃なんだよ」
「なんて言うか...... 改めてミカドの元居た世界って色々凄いね...... 」
なんて言いながら帰り道の半ばで差し掛かった時......
「あんた達ちょっと待ちなさい!!」
「あ?」
なんか生意気な奴に呼び止められた。
声のした方向に顔を向けると、腰まで伸びた見事な銀髪をツーサイドアップにした可愛い女の子が、俺達を指差しながら立っていた。
セシルと同じ、青い色をした瞳と目が合う。
身長や年齢は俺やセシルとそう変わらないだろう。生意気そうなつり目が特徴的だ。
「なんだお前。どこかで会った事あるっけ?お前みたいな生意気そうな奴、1度見たら早々忘れないと思うんだけど」
「会った事は無いわ。今日が初対面よ。って言うか! 初対面の人に向かってお前とか生意気とか失礼じゃないの!?」
「同じく初対面の俺達に向かって、あんた呼ばわりした奴がよく言うぜ」
「あぅ..... ごめんなさい.....」
いきなり初対面の奴に「あんた」呼ばわりされてちょっとムカついたので、少々棘のある言い方で返事をしてみたが、コイツ面白い。
ちょっと生意気な所があるけど根は素直そうだ。
「まぁそこはお互い様だから気にすんな。俺の名前は......」
「ご、ゴホン!ミカドでしょう?ミカド・サイオンジ。
そっちの子はセシルだったかしら?私はティナ。
ティナ・グローリエよ。その...... さっきはあんた達なんて言って悪かったわね...... 」
俺が自己紹介しようと思ったら、このティナとか言う奴は俺達の名前を既に知っていた。
何者だコイツ...... ノースラント村では見た事が無いから、村人の可能性は低い。
何故俺達の名前を知っているんだ.....?
俺は警戒心を隠さず、距離を取ってティナと名乗った少女を見つめる。
「んで、そのティナ・グローリエちゃんはなんで俺達を呼び止めたんだ?」
「ふふふ..... 私見ちゃったのよ..... 今日貴方達がノースラントへ向かう途中で、何も無い空間から服を出現させた所を! 後ちゃん付けは止めなさい!」
ティナの言葉を聴いた俺は思い出した。
今日街道で寒さに耐え切れず、コートを召喚した事を。
そしてその場面をこのティナに見られたのだ。
「み、ミカドぉ......」
「そんな不安そうな顔しなくても大丈夫だって......」
セシルが凄い不安そうな顔で俺を見上げる。そんなセシルの頭を安心させるように撫でながら、俺は頭の中で対処方法を考えた。
さて、どう乗り切るか......
「あぁ、あれを見てたのか。あれは俺の住んでいた地域特有の魔法でさ。何も無い空間から、色々な物を召喚出来るんだよ」
考えた結果、俺は初めて会った頃のダンさん達に説明した様に、咲耶姫から授かった加護の事を俺が住んでいた地域特有の魔法として説明した。
しかし......
「へぇそれは興味深いわ!私このラルキア王国で魔術の研究をしている魔術士なのよ!
そんな魔法が有るなんて聞いた事無いわ!もっとその魔法の事を教えてくれないかしら?」
マズイ!マズイ!!マズイ!!!
選択肢を完全に間違えた!逆に凄い興味を持たれちまった!!
凄い瞳をキラキラさせながら食いついてきたんですけど!!!
セシルもどうしたら良いか分からずにオロオロしてるし!!
「え、えっと...... そうしたいのも山々なのですが...... 俺達は明日、
動揺で口調がおかしなことになっているが気にしない!
とにかく今は変に勘繰られない内に諦めて帰ってもらうしかない!
「あぁその点は大丈夫よ。その
だから、ミカドの魔法は実戦で見る事にするわ!」
「「えっ......」」
ティナの発言に目を点にした俺とセシルの間抜けな声がノースラント村の街道に響いた気がした。
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