第28話 銃火器召喚



セシルと今後の方針を決めた俺は、日向ぼっこでもしながら咲耶姫から授かった加護で、新たに召喚出来る武器や防具の確認をしようと思い外に出た。


ルディとそのつがいを倒し、レベルが18に上がった事で、必要レベルが15の銃火器、火縄銃【種子島】を召喚出来る様になった訳だが、更にレベルが3も上がったから、他にも召喚出来る銃火器が増えたのでは?と考えたからだ。


外に出て、手ごろな大きさの木の下で幹に寄りかかる。木漏れ日と、時折吹く風が頬を撫でる感覚が気持ち良い。


ルディの子供ロルフも俺の後ろを付いてきて、俺の隣で丸くなって一緒に日向ぼっこをしている。

そんなロルフの頭を撫でながら、俺は思いつく限りの銃火器を想像する。


結果レベル18で召喚出来、かつ威力が高めで扱いやすそうな銃火器候補は以下の通りだった。


○ワルサーP38

○ルガーP08

○マウザーC96

○コルトガバメントM1911

○二十六年式拳銃

○南部十四年式

○ベレッタ92FS などなど。


うん、ハンドガンくらいしか召喚出来る物が無かった......


それにレベルが低いせいか、第1次~第2次世界大戦頃のハンドガンが多い気がする。

召喚候補の中で、【ベレッタ92FS】だけが、唯一世界大戦後に開発された銃だった。


上記の他にマスケットなども思い付いたが、ハンドガンより威力はあるが、連射性が低い上に、持ち運びに不便だから召喚候補からは除外した。


ん~...... 銃火器召喚候補を見る限り、副兵装セカンダリウェポンとしては使えそうだけど主兵装プライマリウェポンとしては頼りないな.....

今まで通り、メインは短弓にしてサブで太刀や脇差を使うか? それとも短弓も太刀も脇差も持たず、ハンドガンだけを使うか。


「いや待て。そもそもこの世界にまだ銃火器は存在していないだろうから、ハンドガンだけでも充分役に立つんじゃないか?」


そう思った俺は、試しに【ベレッタ92FS】を召喚してみようと、頭の中で召喚の項目を開く。


これを選んだ理由は、趣味のサバイバルゲームでガスガンタイプのベレッタをよく使っていたし、グアムなどの射撃場で実弾を何十発も撃った事があり、召喚候補の中でベレッタが射撃時の反動なども鑑みて、1番扱いやすそうだと判断したからだ。

ちなみに、召喚候補に挙がったコルトガバメントM1911と言う銃は、ベレッタ92FSより威力のある弾丸を撃つ事が出来るが、俺はこの銃を扱った事がないし、反動や装填できる弾の少なさもあり今回は召喚は見送った。


ベレッタ92FSはベレッタM1951の後継機として1970年に開発がスタートし、1985年にアメリカ軍で正式採用され、その後人気が爆発的に広がり、世界各国の軍や警察組織などで今でも使われている傑作拳銃だ。


俺は元居た世界で、造りがリアルなモデルガンタイプや、BB弾を撃てるガスガンタイプのベレッタ92FSを持っていたから、内部の構造や性能を事細かに想像する事が出来た。


いつものピロンという機械音がして、召喚画面が頭の中に広がる。


【「本体」と「弾」の数を決めてください。※「本体」上限:2丁。「弾」上限:150発。

※弾を一度に召喚出来る最大数は90発。召喚した弾の総数が150発に達すると、レベルが上がるまで弾は召喚できなくなります。】


やはり銃火器も短弓と同じく、召喚出来る弾の数に制限があった。


ベレッタは銃本体に弾を差し込む為のマガジンと言う部分に、15発の弾を込める事が出来る。

つまり1度に召喚出来る弾の数はマガジン6本分で、マガジン合計10本分の弾を召喚したらレベルが上がるまでベレッタの弾は召喚出来なくなる...... と言う訳か。


大事に使わなくては.....


今回は試しなので銃本体を1丁と、弾を15発。マガジン1本分を召喚した。


ポゥ......


足元が一瞬光り、その光が消えると俺の足元には太陽の光を浴び、怪しげな光沢を放つ黒いベレッタ92FSと9mmパラベラム弾が15発、マガジンに装填された状態で鎮座していた。


「ごくっ...... 」


俺は唾を飲み込みながら、地面で太陽を反射しているベレッタ92FSを手に取る。

ずっしりとした重みが心地良い。

ベレッタを右手で持ち、左手で地面にあるマガジンを取り本体に差し込む。

実銃のベレッタを扱うのは初めてではないが、やはり緊張する。


緊張する反面、元居た世界で趣味だったサバイバルゲームを思い出した。


「玩具の銃を人に向けて撃つのが趣味だった俺が、まさか本物の銃を人に向けて撃つかもしれない世界に来るなんてな...... 」


自分の運命を皮肉りながら、俺は家とは真反対の場所に生えていた大きな木に照準...... リアサイトと言う照準器を向ける。


今は丁度、家を背に向けている状態だ。

ベレッタのグリップを優しく包み込むように握り、グアムやハワイの射撃場で指導員の人から教わった事を思い出しながらゆっくり構える。


「すぅ.....はぁ......」


深呼吸して息を整えた俺は、優しく絞る様にトリガーを引いた。


バァァアアアアアン!!


『キャゥン!?』


小鳥達の囀りと草木が風に揺れる音しか聞こえなかった森に、落雷でも落ちたかのような轟音が響き渡った。


放たれた弾丸は俺の狙い通りに幹に命中し、周囲に木片を飛び散らせる。


鳥達は一斉に飛び立ち、獣達は遠吠えを上げる。


近くで寝ていたロルフは直ぐに飛び起き、俺から数mも離れて喉を鳴らし、もの凄い形相で威嚇している。

今はまだ頼りない細い前足に、力を込めているのが分かった。


これまでコイツの事をただの子犬だと侮っていたが、威嚇する様はルディを思い出させた。


「っく~..... やっぱイヤーマフが無いとダメか?耳が痛ぇ..... 」


キーンと高い音が耳に響く。

反動などは前に体験済みだから、そこまで違和感は感じない。構え方も問題は無かったようで、手のひらが反動で微かに痺れているくらいだ。

顔を顰めながら後ろを見るとロルフが凄い顔をしていた。歯茎を上げて睨みつけてきている。小さいながらも鋭い牙が見えた。


「あ!すまんロルフ...... 驚かせたな......」


俺は持っていたベレッタを地面に置きロルフに俺は何も持ってないから安心しろ、と言うように両手を挙げてゆっくりロルフに歩み寄る。

始めは警戒していたロルフも、俺が何も持っていない事をわかったら、いつもの可愛らしい顔に戻っていった。


「これから銃を扱う時は、お前が近くに居ない時にするよ」


警戒心を解いてくれたロルフの体を撫でる。太陽の光とロルフの体温が合わさりロルフは温かかった。ロルフを撫でていると、家の玄関が勢い良く開け放たれた。


「ミカド!ロルフ!大丈夫!?」


ドアの向こうには金属の鍋を被り、水が溢れんばかり入ってる桶を手にしたセシルが立っていた。

なんとも珍妙な姿である。


「あ、あぁ...... どうしたんだその格好......」


俺は我慢できずに聞いてしまった。

セシルが真剣な表情で鍋を被っている姿が可笑しすぎる......


「どうしたって...... 今さっき庭から雷が落ちたような音が聞こえたから!心配して!」


なるほど。セシルはさっき俺が撃ったベレッタの発砲音を落雷と勘違いしたのか。


こんな晴れた日に落雷なんて早々起こる物ではないが、ここはまだ銃が存在していない世界なのだ。

落雷と勘違いしても無理ないだろう。

で、発砲音を落雷と勘違いしたセシルは鍋で頭を守り、落雷で木々が燃えていたら手に持っている水で鎮火させようとした...... といった具合か。


でも待てよ......

確か金属製の物は、電気が通りやすい筈だ。もし今のが本当の落雷でそれがセシルの近くに落ちたら......


考えただけでもゾッとする。

科学がまだ進んでいないから知らないのも仕方ないか。


「すまん。さっきの音は俺が原因なんだ。雷が落ちた訳じゃないから安心してくれ。

それと、落雷があった時は出来るだけ金属性の物は身に付けない方が良いぞ?雷は金属の物目掛けて落ちてくるから」

「そ、そうなの?って、えぇぇ!?それを早く言ってよ!!」


セシルはきょとんと俺のほうを見て次の瞬間奇声を上げた。


雷は金属目掛けて落ちる、という部分に反応したのだろう。鍋を頭から外すと勢い良く投げ捨てた。


あぁ...... 鍋が地面を転がっていく......


そもそも落雷なんてないのだから、そこまで慌てなくても良いと思うぞ......

セシルは雷が苦手なのか?


「はぁ......はぁ......そ、それで?今の音がか、雷じゃないなら何の音なの...... ?」


鍋を放り投げたセシルは息を荒くしながら、俺に近寄ってくる。雷という単語を言う時、セシルの顔が強張っていたのを俺は見逃さなかった。

セシルはやはり雷が苦手なようだ。意外な発見。


「コイツの音さ」

「これは?」


俺は地面に置いていた黒いベレッタを拾い、セシルに見せる。念の為にマガジンは抜き、薬室に装填されていた弾丸も取り出す。

セシルは興味深そうにベレッタを見つめているが、多少腰が引けている。

ベレッタがさっきの音の正体と知り、怖がっているのかもしれない。


「これは俺が元居た世界の標準的な武器で、ハンドガンって言うんだ。ハンドガンってのは片手で保持出来て、照準し弾丸を発射できる物って意味だけど......

まぁ簡単に言うと、この弾丸っていう物を凄い速さで飛ばして、攻撃する武器なんだ。これが弾丸」


銃を知らない人に何と説明して言いかわからなかったが、とりあえずこんな感じの武器だと伝われば言いか。


俺は薬室から取り出した9mmパラベラム弾とベレッタ本体を見せながら説明する。


この先端がもの凄い速さで飛んで行く。それこそ風よりも早く。

そしてこれはこの丸っこい弾丸を、狙った所に正確に撃ち込む為の装置だ。と説明していく。


ちなみに、想像した物を形にする能力の加護の事はセシルに説明済みだ。

こちらの世界に転生する際、神様からこの加護を授けてもらったと、包み隠さず全て昨日の内に話した。


「な、なるほど?」


我ながら超簡単な説明だと思ったが、セシルの頭では理解不能だったようだ。


さて、どうした物か。これが怖い道具だという事はわかったと思うが、不安だ。

銃が簡単に人の命を奪える怖い物...... という認識が無く、ふざけて俺にベレッタを向けて発砲でもされたら......


よし、一度実際に撃つところを見せて、これが危ない物だという事を見ていてもらおう。


「セシル、今から俺がコイツを撃つ。

セシルはロルフを家の中に入れて、離れた所から見ていて欲しい」

「わ、わかった!」


セシルはロルフを抱きかかえるとロルフを家の中に入れドアをちょっと開け、その隙間から顔を微かに出して俺の方を見た。

俺とセシルはだいたい10m程離れている。これくらいの距離なら大丈夫だろう。


俺は再びベレッタにマガジンを差し込みスライドを引く、薬室にパラベラム弾が装填された事を確認し、先程狙った木の隣に生えている別の木に狙いを付ける。


「すぅ......はぁ......」


息をゆっくり吸いゆっくり吐く。そしてトリガーを引いた。


バァァアアアアアン!!


再び静かな森に轟音が轟き、薬室から薬莢が飛び出す。

ベレッタから放たれた弾丸は先程と同じ様に、狙った所に吸い込まれ木の幹を大きく抉った。 

セシルは「キャッ!?」と小さな悲鳴を上げ両手で耳を塞いでいた。


家の中からロルフが吼えている声が聞こえる。


後でまたロルフに謝んなきゃな......


俺は再び安全の為マガジンを抜いたベレッタを持ち、セシルの下に歩み寄る。


「今のがさっきの落雷の正体だよ」

「す、凄い音だね.....」


セシルは目をパチクリさせながら俺が手に持つベレッタと、抉られた木を交互に見る。


これでコイツが危ない物だという事がわかっただろう。

一応興味本位で勝手に触るかもしれないから、本体と弾丸は別の場所に保管だな......

俺が銃や弾の隠し場所を考えていると、セシルがジーッと俺を見ている事に気が付いた。


「ねぇ、ミカド...... 私もそれ...... 使ってみたい」

「...... はっ?」


セシルの予想外の発言を聞いた俺は、間抜けな声を出してセシルを見つめた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る