第21話 ギルドへ
「ん...... 」
太陽の光に顔を照らされ、俺は静かに目を覚ました。極度の疲労感からか、いつの間にか眠ってしまったらしい。
目を覚ますと同時に、ムワッとした臭気が鼻をつく。部屋の中は白狼達から浴びた返り血や、自らの汗の匂いが混じり合い酷い臭いが充満していた。
俺はゆっくりベットから立ち上がると、まず部屋の窓を開け放った。
涼しい風が体を撫でる。
「臭い......」
そして改めて自分の体の臭いを嗅ぐ。
やっぱり臭い。
今日は、昨日起こった事を近くの村にあるギルドの支部に報告しに行き、カルロさん達の家族に彼等の最後を伝えに行かなければならない。
でもこんな臭いと、返り血に塗れた身体で行ったら、下手したら門前払いになってしまう。
まずは水浴びをしよう。
そして昨日あった事を全て割り切ろう。
ダンさん達の死は悲しいが、どれだけ嘆いてもダンさん達は帰ってこないのだから。
今この瞬間を我武者羅に生きるのが、生き残った俺の務めだ。
「よしっ!まずは水浴びだ!」
俺は気合を入れ直すために自分の頬を叩いた。痛い。
俺は防具を纏ったまま、ルディと出会った池に向かった。朝の始原の森は木々が青々と輝いており清々しい。
昨日この森で死闘が繰り広げられていたとは思えない程、清らかな空気が俺を包み込んだ。
「ぷはっ!冷てぇ〜!」
俺は着たままだったレザーアーマーや腹巻と小手、臑当など防具や衣服を全て脱ぎ、生まれたままの姿で池に飛び込む。元居た世界ではなかなか真似出来ない貴重な経験だ。
ちなみにダンさんの家にも風呂はあるが、この世界に水道なんて便利な物は無い。
なので風呂に使う水は此処から何往復もして湯船に水を貯めなければならないのだが、流石にそれは面倒だったし、少しでも早くサッパリしたかったから、今日は水浴びで我慢する事にした。
これが、俺にとっては元居た世界以来初めての風呂だ。
いや、水浴びか。
俺は冷たい水で、血や汗を洗い流す。
今日は気温が少し高いから、冷たい水が気持ち良い。
久しぶりに体全体を水に浸け、汚れを落とした俺は自分の体を見る。
こちらの世界に来た初日、ルディの攻撃で出来た傷は完全に治っていた。
余り深い傷ではなかった事と、セシルの看病の賜物だ。
だが、昨日ルディ達との戦闘で出来た切り傷や痣は所々まだ残っていた。
塞がりきっていない切り傷に水がしみて少し痛い。
ルディの番の白狼に吹き飛ばされた際に背中を強打したが、打ち身程度で済んだようだが大きな痣が残っていた。
「痛っ...... ふぃ、サッパリした」
改めて自身の怪我の具合を確認しつつ水浴びを終えた俺は【想像した物を形にする能力】を使い、新しい服と体を拭く用のタオル、防具に付いた血を落とすための布を2枚召喚した。
タオルで水に濡れた体を拭き、新しい服を着る。そして血が染み込んだ服を洗濯する。次に2枚召喚した布を1枚池に浸し、防具に付いた血を洗い落とす。
汚れがだいたい落ちたら、渇いている方の布で水気を取る。後は暫く天日干しにしておけば錆びないだろう。防具の方の汚れは落ちたが、服に染み付いた血は落ちそうになかった。
防具と服の洗濯を終わらせた俺は、防具と服がある程度乾くまで日向ぼっこをする事にした。池のほとりに座り、滝から落ちる水音を聞きながらセシルの事を思う。
昨晩泣き疲れて気絶するように眠りに落ちたセシル。
父親が亡くなったのだ。
その心の傷は大きいだろう。
俺はダンさんが死ぬ間際にセシルを守ってくれと頼まれた。俺はこの言葉を心の中で何度も繰り返し再生させる。
この感情はセシルに対する哀れみか......ダンさんを救えなかった罪悪感か......
色々な感情が俺の中で交差するが、俺は決めた。
俺はこの先セシルを守っていこうと改めて誓う。
セシルからしたらお節介だと言われるかもしれないが、命の恩人に頼まれ了承したのだ投げ出す訳にはいかない。
今日ギルドから帰ったらこの事を話そう。
そして俺はもう1つの事を考えていた。
それは俺が元居た世界で見つける事が出来なかった『俺が本当にやりたい事』についてだ。
昨日の出来事を通し、俺はこの世界に居る間だけでも、親しい人を亡くす...... そんな悲しい思いを他の人達にさせたくないと感じる様になった。
俺に出来る事はないのか......
暫く考えた結果、俺は答えを見つけた。それは俺もダンさんと同じ様にギルドに所属し、自分の部隊を組織する事だった。
そうすれば魔獣に襲われ、困ってる多くの人を助ける事が出来る。俺やセシルの様に涙を流す人は居なくなると考えた。
だが、これをやればセシルを守れずに俺は死ぬ事になるかもしれない......
俺はどうするべきか、考えた。
▼▼▼▼▼▼▼▼▼
それから1時間程経ち、考えをまとめた俺は、ある程度服も渇いたので家に帰ろうと立ち上がる。
水気が飛んだ腹巻を手に取った時俺はある事を思い付いた。
【想像した物を形にする能力】で召喚した物体は元に戻せるのか。
もといこの場から消す事が出来るのか。というものだ。
鉄で作られている腹巻や小手等は、持ち運びをするのにも多少だが体力を使う。必要ならその度召喚し、必要が無くなったら消せれば持ち運びに無駄な体力を使わず楽だと思ったからだ。
俺は頭の中で【想像した物を形にする能力】の【装備】項目や【召喚】項目がまとめられたメインメニュー画面を開く。
「あ...... レベル上がってる......」
メインメニュー画面に表示されているレベルを見るまで気がつかなかったが、俺のレベルが15から18にレベルアップしていた。
ルディの番を倒し経験値を得たおかげだ。
このレベルアップにより、武具召喚上限数と召喚個数制限の一部が解除された。
レベルが15を超えたお陰で、ようやく銃火器を召喚できるようになった。
と言っても、まだまだレベルが低いので威力の高いものは召喚出来ないが。
それはさておき
メインメニュー画面に出ている項目を確認しても、召喚した物を消すと言う項目は無かった。
次に俺は【装備】の項目を開いてみた。
ピロン♪
何回も聞いた音がして装備している物の一覧が出る。
【西園寺 帝が現在装備しているメイン装備:4個。サブ装備:1個】
~メイン装備~
頭…未装備。
胸部…上着。
腕…未装備。
腰…皮のベルト。
足…ズボン。
靴…黒牛のブーツ。
~サブ装備~
●馗護袋
どうやら身に付けていない防具等は、例え目の前にあっても装備された事にはならないらしい。
そして、ここにも召喚した物を戻せそうな項目は無かった。
と言うことは一度召喚したら2度と消す事は出来ないと言う訳か......
良く考えて召喚する物を選ばないと、そのうち荷物がとんでも無い数になりそうだ。
気をつけよう。
新たに幾つかの発見をした俺は、面倒だが再度腹巻、小手、臑当を装備しタオルや血で汚れた服を小脇に抱え元来た道を戻っていく。
▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼
家に帰り、防具を脱いで一息つくとセシルが起きていないか確認する為に家の中を歩き回る。
リビング、台所、物置。
家の中を粗方探したがセシルの姿は見つからない。いつもこれくらいの時間なら、必ず起きている筈のセシルだが、その姿はどこにも見えなかった。
もしやと思いセシルの自室に向かう。
俺と同年代の女の子の部屋に勝手に入るのは気が引けたので、コンコンと軽くノックをする。
反応は無い。
再度コンコンコンコンと先程より少し大きな音を出す様にノックした。
だが反応は無い。
俺は心配になってきた。父親を失った悲しみから自らの命を絶ったのでは......
そんな不吉な考えが頭を過ぎった。
居ても立っても居られなくなった俺はドアノブに手をかけ、セシルの自室に入った。
部屋に鍵はかかっておらず、そしてその部屋の中にセシルは居た。
自ら命を絶った様な形跡は無い。
セシルは昨日俺が寝かしつけた時とほぼ同じ姿勢で、深い眠りについていた。
目元が真っ赤になっており、枕も涙で濡れていた。
「良かった......」
少し不安になっていたが、何事も無くて良かった......
昨日はいきなり辛い事を言ってしまったから、今は少しでも夢の中で嫌な事を忘れてほしい...... そう思いながらセシルの頭を軽く撫でる。サラサラとした髪が手を流れる。
「ちょっと出掛けてくるよ」
眠っているセシルにそう告げて俺は少し前に召喚したメモ帳を1ページ破り、そこにギルドに行ってくると伝言を書き、茶狼や白狼の牙が入った袋を持つ。
胸ポケットには咲耶姫から貰ったお守りと、先日セシルに描いてもらった始源の森とその周囲の地図を入れる。
俺は家を出ると近くにある【ノースラント】という村に向かう。
ここはギルドの支部があり、ここから比較的近い位置にあったからだ。
近いと言っても片道徒歩で1〜2時間はかかるが......
「行ってきます」
俺は家を見上げながら、部屋に寝ているセシルと天国にいるダンさんに挨拶し歩き出す。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます