第16話 レベルアップ




茶狼を狩り、その亡骸を集めていると不意に頭の中で『ピーン』という音が響き、文字が浮かんだ。


【ブラウンヴォルフ15頭討伐。経験値を獲得。レベルアップ。レベル : 1→レベル :10。レベルアップにより武具召喚上限、並び召喚規制の1部解除】と言う文字が出てきた。


おぉ!狩ったブラウンヴォルフはほとんどレベル1や2だったが、想像以上にレベルが上がったぞ!


でも銃火器を召喚できるようになるまではまだまだレベルが足りないか......

HK416Dを持てる日はまだ遠いな......


そんな事を考えながら、想像した物を形にする能力の【召喚項目】を念じて開く。

レベルが上がった事で、召喚出来る物が増えただろうからそれを確認する為だ。


これらの項目を開く時に聞こえるピロン♪と言う音も、段々気にならなくなってきた。

慣れって凄い。


そして確認した武器系統は下記の通りだ。


刃物系

○スペツナズ・ナイフ

○ククリナイフ

○太刀

○クレイモア

○コサックサーベル

○バイキングソード

○臥龍剣

○槍

他数種類


鈍器系

○鉄扇

○モーニングスター

○戦棍

○バトルアックス

○ランス

他数種類


飛び道具系

○クロスボウ

○大弓

○コンポジットボウ

○弩

○クナイ

他数種


「マジかよ!やったぜ!」


俺はレベル1の頃より、圧倒的に増えた武器の一覧を見て声をあげた。

それと同時に、小さい時からこう言った武器の事を調べたりするのが趣味でよかったと心から思った。

広く浅くだが、ある程度の武器の特徴などを知っているお陰で武器がドンドン想像できる。


まぁ召喚できるかは別として......


数多くの武器を召喚出来る事を確認した俺は、ウキウキしながら次に防具を想像した。

今のレベルで召喚出来る物は......


○鎖帷子

○腹当

○具足

○プレートアーマー

○フリューテッドアーマー

○鉄楕円盾

他多数


大体こんな感じだった。


「おぉ!防具も召喚出来る種類と質が上がってる!」


召喚出来る防具を確認して俺は再度歓喜の声をあげた。

それに【具足】や【プレートアーマー】などに至っては全身込みで召喚できるようだ。召喚できる上限が1着のみと言う点を除けばいう事無しだ。

まぁ、どうせ俺しか着ないからこの防具に至ってはこの上限なんて関係ないか......



▼▼▼▼▼▼▼▼



一通り召喚出来る武具の確認が済んだ俺は、意気揚々と新しい武器と防具を召喚する事にした。


今回召喚するのは中脇差の代わりの太刀と、いつの間にか無くなっていたサバイバルナイフの代わりにスペツナズ・ナイフ。

レザーアーマーの代わりで腹巻と脛当、篭手だ。


太刀は攻撃力の低い中脇差の代わりだ。

ブラウンヴォルフには通用したが、白狼ルディにはそれ程通用しなかった点も考えて太刀を召喚する事にしたのだ。


刃渡りは森の中で使用するかもしれないことを考慮し二尺(約60cm)程で想像した。

スペツナズ・ナイフはサバイバルナイフの代わりだが、刃が飛び出す構造にロマンを感じ、いつか持ってみたいと思ったのでついでに召喚しすることにした。


腹巻は日本の鎌倉時代に発展した防具の通称だ。

兜などは付属せず、装甲は胴体部分にしか無いが、簡単な構造で何より歩兵戦に特化した作りなので動きやすい。

今回のような森の中での戦闘に向いているのだ。素材は鉄なので、皮で作られているレザーアーマーより断然心強い。


プレートアーマーや鎖帷子は重いだろうから今回は除外した。

そして腕や足を守る為に、腹巻同様鉄で作られた脛当と篭手を召喚した。

飛び道具は今回は短弓があるので召喚しない。


上記の物を想像し、召喚する個数を決め「召喚......」と念じる。

もう当たり前になった光に包まれながら想像した太刀、スペツナズ・ナイフ、腹巻、脛当、篭手が姿を現した。

本で見た知識のお陰で腹巻の付け方などは分かっていた俺は、今着ているレザーアーマーの上から腹巻を身に付ける。


実際に甲冑を身に纏うのは初めてだったがすんなり着る事が出来た。

始めて着た筈の防具だが、どこか馴染んでいる様な気がする。


これも知識と血筋のお陰か......


脛当と篭手を付け終えると、俺は【装備】の項目を開いた。


「この画面開くの久しぶりだな」


そして今身に付けている物の最終確認をした。


【西園寺帝が現在装備しているメイン装備:8個。

サブ装備:1個。武器:太刀、中脇差、スペツナズ・ナイフ、短弓。】


~メイン装備~

 頭…未装備。

 胸部…上質な上着+レザーアーマー+腹巻

 腕…篭手。

 腰…皮のベルト。

 足…上質なズボン+脛当

 靴…黒牛のブーツ。


~サブ装備~

●馗護袋


~武器~

●太刀

●中脇差

●スペツナズ・ナイフ

●短弓

●矢筒(残り本数23本)


なぜ余り矢が減っていないかと言うと茶狼を狩り終えた際に、折れたりしてない矢を回収した為だ。撃った後で再度回収すると、表示される数は戻る仕組みらしい。


俺は召喚した防具に身を包み、太刀や短弓を一旦地面に置くと茶狼ブラウンヴォルフの牙や皮の剥ぎ取り作業をする。


「お、スペツナズ・ナイフって結構使い易いんだな」


グッグッと、適度に力を加えながらスペツナズ・ナイフを動かし、ブラウンヴォルフの亡骸から皮を剥ぎ取る。


自分で召喚しておいてなんだけど、スペツナズ・ナイフは刃の部分が弾丸の様に飛翔する珍兵器の1つだ。だが、そんなナイフでも、意外や意外。存外使い易かった。


まぁ、トリガーを引いて刃を飛ばさない限りは普通のナイフと変わらないから当然か。


そんな事を考えつつも、討伐したブラウンヴォルフの剝ぎ取りが半分程終わると、森の方から声が聞こえた。


「お~~い!!」

「兄ちゃん!」

「アンちゃん大丈夫か!?」


その声はダンさんや仲間の狩人の声だった。先程の茶狼達の声を聞いて駆けつけてくれたのだ。


「はい。今の所大丈夫です」

「そうか......これはアンちゃんがやったのか?」


俺の元へ駆け寄ったダンさん達は、山積みになっている茶狼に目をやる。

剥ぎ取り作業などをしたお陰で辺り一面血の海になっていた。


「はい、いきなりこの数の茶狼が丘の麓に出てきたので......」


俺は事の顛末を説明した。


「ほぉ~そいつはすげぇな!

アンちゃん本格的な狩りは今回が初めてなんだろう?

初めてにしちゃ命があるだけでも上出来なのに、この数のブラウンヴォルフを狩れるなんてな!狩人としての才能があるぜ!」

「こりゃ今回の狩猟数の1番は兄ちゃんだな」

「狩りの先輩として負けてられねぇな!」


俺の話を聞いた皆は、まるで自分の事のように喜びそしてライバル心を抱いたようだ。

ダンさんや狩人のみんなは俺の肩をバンバン叩く。


痛い。


そんなやり取りがあり、みんなで俺が狩った茶狼の剥ぎ取りをして、一旦休憩しようと言う流れになった。


「って言うかアンちゃん防具変わってねぇか?」

「言われて見れば......」


気づくの遅っ......


俺はダンさんやセシルに言った様に、咲耶姫さくやひめから授かった加護の事を【防具や武器を召喚出来る、俺の育った地域特有の魔法】という感じで猟師のみんなに説明した。


例によって魔法が在るこの世界。

珍しがられたが、それ以上のことはなかった。


そんな事を話しながら剥ぎ取り作業が終わると、不意に仲間の1人が口を開いた。


「そう言えばカルロが戻って来ないな......」


カルロとは今回一緒に依頼をこなしているダンさんの狩人仲間の名前だ。

カルロさんは森の北側で狩りをする事になっているのだが、言われてみれば確かにここで別れてから数時間、1回もここに戻って来ていない。


基本的に茶狼を狩ったり、怪我を負ったらここに戻ってくる事になっているが、それでも1回も戻ってきていないのは気がかりだ。


「もしかしたら、カルロに何かあったのかも知れねぇな......」


俺が考えている事と同じ事をダンさんが口にする。他の仲間も頷く。


「よし、なら俺達がカルロを探してくる。

ダン達はカルロが戻ってきたときに備えてここに残っててくれ」


仲間の1人が提案する。俺もこの提案に賛成だ。

この森を熟知している人が散策に行ったほうが良いに決っている..... カルロさんの事は心配だし、探しに行きたいがここで俺が行って迷子にでもなったら笑えない。


「そうだな...... んじゃ悪いが頼む。何かあったら【角笛】を吹いてくれ。直ぐに飛んで行く」

「わかった。行ってくる」

「さくっと見つけて戻ってくるさ」


ダンさんが角笛に目をやる。これは読んだ通り動物の角を加工して作られた小さな笛だ。特徴的な高い音を発する。

ダンさん達は、何か非常事態が起こったらこの角笛を吹いて危機を知らせる事になっていた。


提案した1人と、その付き添い計2人でカルロさんの探索に向かう。


「何事も無けりゃ良いんだがな......」


ダンさんの小さな呟きが辺りに響いた。



▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼



プォ~~!!


2人がカルロさんの探索に向かってから10分もしないうちに、非常事態を告げる角笛の音が聞こえた。


「ぎゃぁぁぁぁあああ!!!!」


そして悲痛な断末魔も......


「なんだ!?も、もしかして!?」


ダンさんは弓を手に取るとダッと声の聞こえたほうに向かって走り出した。


「ダンさん!?」


俺は一瞬ここに残るか考えたが、一緒についていく事にした。

1人でここに残っているより、ダンさんと一緒に行動した方が安全だと判断したからだ。


瞬時にそう判断した俺は、太刀と中脇差を腰に差し、短弓と矢筒を持ってダンさんの後を追った。


「はぁ!はぁ!」


息を切らしながら走っていると辺りに血の匂いが充満してきた。


近い......


俺とダンさんは異変が近くにいると察した。そしてこの血の匂いの持ち主の事も......


「やっぱりお前か......」


ダンさんは目の前に現れたそいつの姿を見て声を出す。目の前にいる其奴が、少し前に感じたいつもと違う森の雰囲気を作っていた正体だと分かっていたように。


其奴は白い毛の所々血で汚し、血塗れの巨大な牙を覗かせていた。

そして、其奴の足元には少し前まで笑顔で話していた仲間の2人と、捜索していたカルロさんが大量の血を流しながら倒れていた。


もう助からないと、素人目にも分かるほどの血を流しながら......


白狼ルディ!」


そう。其奴は数日前、俺に怪我を負わせた巨大な白い狼。

猟師達から『名高い狼』『栄光の狼』の意味を持つ【ルディ】と呼ばれている狼だった。

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