60.報酬は――――

 ――殺してください。



 その言葉が真意であったかどうか。今となっては分からない。

 賀堂は事の始まりを知った後、東京から福岡までを思い出していた。

 沙耶と出会い面倒だと思った場面は数えきれず。だが、それが心底退屈しないことであったのも事実。複雑な感情だ。



 結局は扇の手のひらで踊っていたに違いないが相変わらずなところを見られた分、嬉しさが勝っているだろう。何だかんだで人は変わることはない。適合者ラスターであってもだ。根底は覆ることはない。



「間抜けな顔だな」



 既に起きた舞が沙耶の表情を見てそう言った。賀堂はだらしない顔と思っているが両者とも誉め言葉ではない。

 このまま起きないのではないかと思えるほどだ。



「これで終わったのか?」

 舞は賀堂に尋ねた。



「あぁ俺の仕事はおしまいだ。要望通りこいつを福岡に届けたからな。後はゆっくり帰るとするか」

「そうだな。にしても起きないなこの小娘は」



 沙耶の頬を突いた。するとうねり声を上げてゆっくりと目を開けた。



「まい……ちゃん?」

「やっと起きたか。貴様は寝坊助だな」

「あの……私は一体……」



 自分の置かれた状況が理解できていない。記憶は扇を庇ったところで止まっている。その後、どうなったかは知らず、ア・モータルと化していたことも覚えてはいない。

 賀堂はため息をついた。



「よう……。気分はどうだ?」

「え、えぇ、大丈夫です。あの、私、どうしていたのでしょうか?」

「おめでとう。てめぇは実験に成功した。晴れて俺たちの仲間だ」



 賀堂は呟いた。淡々と。



 それは祝福しているわけではない。もちろん理解者が増えることは十分喜ばしい事だが、この先待っている適合者のみが味わう苦しみ。それを示唆しての言葉だ。

 今すぐに症状は現れない。徐々に滲み出てくる。それがグラトニーかスリーパーか、それともラスターか……。どれになったとしても一生その体で生きることになるのは変わらない。



「その、何と言えばいいのでしょうか。私……賀堂さんを騙していたのです」

「それはいい。もう聞いている」

「扇……ですね」

「さぁな。俺は何となく分かっていた」

「本当ですか?」



 怪しい……と言った表情で賀堂の顔を覗き込むが視線を合わせないようにそっぽを向く。ひたすらムスッとした顔で腕を組んでいつも通り平然を装っていた。



「では、そういうことにしておいてあげます」

 ニコリと笑った。

「さぁ、行くか。もう福岡に用はない」

「あの……賀堂さん」



 少しばかり言いにくそうに口ごもる。立ちあがった賀堂の裾を引っ張って制止させた。



「私も……ついて行ってはダメですか?」

「俺はてめぇを福岡に運ぶまでが仕事だ。それ以上は何も言われてねぇ」



 賀堂の答えは相変わらずだった。



 名古屋で見た光景。舞はその状況を鼻で笑う。素直ではない奴めと思う事だろう。

 だが、それが賀堂奏である。人知を超えた存在の適合者。見た目の中身が釣り合わない不器用なお人よし。

 その姿を見てきた沙耶には分かった。賀堂には頼み方がある。分かればとても単純なやり方だ。



「賀堂さん! お願いしま~す!」

 元気はつらつの声で頼んだ。

「嫌だ」



 もちろん回答は想像通り。ふざけた言い方ではひねくれ者の賀堂は断るに決まっている。だから次は違うやり方。確実に頷く言い方をする。



「賀堂さん。依頼をしてもいいですか?」

「……一応聞こう」

「私を……連れて行ってください。この先もずっとです」



 厳つい賀堂の頬が緩んだ。



 賀堂奏は面倒な男だ。素直になれないひねくれた人間。にも関わらず子供が好きでお人よしである。常に眉間にしわを寄せるほど厳つい顔をしているほど笑みに乏しい。


 だが、最後は手を差し伸べる。それが関わった人間ならなおさらだ。

 長い人生の旅を得て、適合者としての苦しみを味わう人間。弱き者には慈悲を与える。それが賀堂奏である。



「報酬は?」

 その賀堂が返した言葉。



「い、いやー参りましたね。そうですよね。依頼ですから報酬が必要ですよね……」



 思っていたこと。適合者として生きているならば賀堂に恩返しをしようと。それがどれほどの確立か分からなかった。

 ごく一握り、一つまみの確立で振るいに掛けられた結果、自分は生きている。

 ならば言うことはただ一つ。ずっと決めていたこと。



「報酬は――――」



 この世は崩壊世界。

 未知のウイルスが蔓延し人間が過ごすのに過酷な環境。その世界でも強く逞しく生きる者がいた。

 これは運び屋の物語。依頼は少女と共にすること。



 報酬は片桐沙耶……。



 END

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終末世界の不死商隊 稚葉サキヒロ @chiba-saki-005

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