51.貴様の商隊に入れてくれ!

「それで? もう行ってしまうのかい?」

「かなり遅れてんだ。行かねぇとまずいだろ」

「僕が連絡しておいたからそれは大丈夫だと思うけどね」



 賀堂邸のリビングにてソファに座りながらくつろぐ二人。

 ガルバニス討伐が完了し数日が経つ。事後処理のため名古屋から離れることが出来ないでいたが大方の雑務が終わったため賀堂は出発の準備を整えた。

 目的は研究国家福岡。沙耶を届けるための仕事が残っている。



「あとこの子はどうするんだい?」



 横になって寝ている舞を指す。元々、各地を回っているらしく家が無いので賀堂邸に今は住んでいる。それ以前はどこで何をしていたのかは知る由もない。



「風間の商隊にでも行くだろう。どうも、今は連絡が取れないらしい」

「なるほど。終わった直後だとごちゃごちゃしているからね。軍も人探しに割く人員は残っていないわけか」

「そういうことだ。それまで面倒見てやれ」

「了解した。この家は自由に使わせてもらうよ」



 合鍵を勝手に作っている時点で自由に使っていることは変わりない。ため息はつき「あぁ」と返事を返した。



「賀堂さん。お手紙が来ましたよ」



 扉を開けて入ってくる沙耶は一枚の封筒を持っていた。賀堂に手渡した沙耶は隣に座る。



「手紙だ? 一体誰だよ」



 封を開けて中身を確認する。手紙を広げて読んでいく賀堂は軽くうなずいて折りたむと封筒に入れ直しため息をまたついた。



「何が書いてあったんだい?」

「不幸なニュースだな。舞を起こせ」



 スリーパーの発作ならどれだけたたき起こしても目を覚ますことはない。今はただの昼寝だ。体を揺らすと起き上がる。



「んん? なんだ?」

「お前宛ての手紙だ」



 賀堂は舞の前に封筒を出す。既に破られた封筒から手紙を取りだす。そして中を確認する。

 視線は食い入るように左から右へと動かす。最後にたどり着くと紙を下ろし項垂れた。



「おめぇはこれからどうする?」

 賀堂は尋ねた。舞は肩を震わせて答えない。沈黙が訪れた。

「私は……、私はまた一人になってしまった」



 ようやく話した言葉は重々しい。



「何があったんだ?」

「率直に話せば風間の青風が解散だ。風間がもう歩けないらしい」

「それって……」



 沙耶は言葉が詰まる。舞の噂を目の前にしたからだ。噂が現実になる瞬間だ。



「それじゃ俺たちはそろそろ行くか。おい、準備はできたか?」

「できていますけど……」



 非情な賀堂に戸惑いを見せる沙耶。普段は手を差し伸べる賀堂はなぜか舞には厳しい。綾崎の顔をふと見るが彼女もまたにこやかな笑みを浮かべるだけだった。



「賀堂さん! 舞ちゃんをこのままにするのですか?」

「俺には関係ねぇ。見てくれに騙されんな。こいつは適合者だ。てめぇよりもずっと長い事生きている人間だぞ」

「でも……、でもでも!」

「もういい!」



 舞は声を出した。



「もういい。確かにいつものことだ。笑ってしまう。また最初に戻ってしまった」

「……舞ちゃん」

「世話になったな。私はまた商隊を探すとしよう」

「あぁ、次こそは当たりを見つけろ」



 舞は立ち上がる。そして背を向けて部屋を出ていこうとした。賀堂は舞の背中を見てため息をついた。



「……もしかして」



 沙耶は一つの答えを思い立った。再び綾崎を見るとニコッと沙耶に笑みを浮かべた。あぁ、やっぱり賀堂さんは最初から……。



「舞ちゃん! 待ってください。商隊を探すなら情報屋を使うのが一番ですよ」

「そういえばそうだな。綾崎。私がいても問題ない商隊を探してくれないか?」



 綾崎はニヤリと笑い頷いた。



「いいとも。目の前にいる男の元はどうだ?」

「……盲点だな」

「どうだい奏。商隊デストロイヤーを一匹飼う気はないか?」

「面倒事はごめんだ。だが、どうしてもって言うなら考えなくもない。人手が欲しいところだったからな」

「またひねくれたことを……」



 どうするんだと言わんばかりに綾崎は舞に顔を向けた。賀堂が素直でなければ舞も素直ではない。そっぽ向いている。



「私がいれば不幸になるぞ」

「今に始まったことじゃない。めんどくせぇ仕事を押し付けられるわ変な人間に絡まれるわでもう不幸な人間さ」



 賀堂は綾崎を見て笑う。



「ひどい話だ。僕をそんな風に思っていたなんて。ぐすん」



 バレバレのウソ泣きをする。しかしその顔は賀堂同様笑っていた。



「なら……、私を入れてくれ。貴様の商隊に入れてくれ!」



 賀堂はゆっくりと頷いた。そして右手を差し出した。



「あぁ、歓迎しよう。俺の仕事は面倒な物ばかりだ。きっちり働いてもらう」

「構わん。私はそれでいい。よろしく頼む」



 舞は賀堂の手を取った。強く握った。絶対に離さないつもりで。もう、商隊を潰さないと誓って。

 隣で見ていた沙耶は一息を付いた。舞は表面上、ムスッとしているが内心は嬉しいはず。賀堂も同じように無表情な男だけど仲間が出来ることは悪く思っていない。その姿を見て笑みを浮かべた。



「支度は済んでいるか?」

「私は荷物が少ないから問題ない」

「そうか。なら出発しよう。福岡で客が待っている」



 舞は仕事内容を聞かない。返事をして賀堂の後ろについて行った。



「じゃあな。終わったら帰ってくる」

「行ってらっしゃい。戻ったら飲みに行こうではないか」

「あぁ、そうだな」



 賀堂は部屋を出ていった。残るのは沙耶のみだ。



「それでは綾崎さん。お世話になりました」

「うん。沙耶ちゃんも元気でね。それと本当の事は話さないとだめだよ。これ、忠告ね」

「……分かりました」



 反応に困る言葉を掛けられる。沙耶は作った笑みを浮かべ綾崎と別れた。扉を閉じる。

 まだ話していない事。綾崎はやはり気が付いている。でも言及はしない。最も賀堂は気が付いていない。福岡の事が終わったどうなるのだろうか。扇が一枚噛んでいるのも気にかかる。

 そもそも福岡で門前払いがあるかもしれない。いざ、目の前にすると不安で仕方ない。



 もう遅い。ここまで来てしまった以上嘘を押し通すしかないだろう。

 沙耶は自分を最低な人間と感じつつも進むしかなかった。


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