47.敵襲! 敵襲!

 平地、荒野、爆撃痕。大地を表すにはいくつかの言い方があった。第一大隊はLEに投下された大量の爆撃により遮蔽物が一つもない野ざらしになった地点まで進行した。それもすんなりと。

 予想では平地では銃撃が行える人間が有利であるから手前の住宅街でゲリラ戦を仕掛けるだろうと斥候を出し慎重に歩みを進めていたが結果、戦闘になることはなかった。



「おかしいな。何もいない」




 賀堂は地面に伏せ双眼鏡で観測をする。しかし生物がうろついているかと思えば一匹もいない。遠くの上空にクラウノスがこちらを警戒しているだけだ。鳴き声一つ出さないのでまだ位置は知られていないと判断した。

 進軍の合図。大隊は立ち上がり目的の丘を占領すべく走り出す。賀堂ら小隊は大隊の後方に位置する。



 散開行動を取る大隊員は一か所に密集せず間隔を取りながら進む。先頭の様子は定かではないが発砲音が鳴らない。まだ、生物らは襲ってきていない証拠だろう。

 そんなことがあり得るのか。ガルバニスは何か仕掛けてくるはずだ。賀堂は周囲を警戒する。どこかに罠があるはずだと。



「……なんだ?」

「どうかしたかい?」



 気が付いた。それは大地の先でも空でもない地面だ。地響きが鳴るような感覚。直線に盛り上がり近づく何物かがやって来た。



「敵襲! 敵襲!」

 前方から銃声が鳴り始めた。同時に人間の断末魔を耳にする。

「賀堂さん! あれは何ですか!」



 沙耶が目の前からやってくる複数の地面の盛り上がりを指した。何人かが地面に向かって発砲をするが土に突き刺さるのみで何物かには届いていない。

 ボンッと音を立てて現れたのは長く発達した鋭利な爪を持ち、大きな体を持つ土竜だった。荒廃世界では『アンダークロウ』と呼ばれる凶悪な生き物だ。姿を出すなり周囲の人間を割き爪を血で濡らした。



 ここぞと狙いを定めて撃ち始める大隊員。何匹かには命中するが外れた弾が仲間に命中する。むしろそちらのが多いぐらいだ。



「むやみに撃つな! 同士撃ちになる!」



 誰か指示を出した。しかし、撃たねばやられる。大隊の後方にアンダークロウの姿があることは中央にも何匹もいる事だろう。大隊中央に現れ銃が使えないことがパニックを引き起こす。

 聞こえるは人間が引き裂かれる音。目にするのは血まみれの大地。残酷な情景が作り出されていった。



「上空! クラウノス接近!」



 見上げると一体何羽存在するか分からない量のカラスが飛んでくる。急降下し鋭いくちばしで人間の肉をえぐり取り始めた。



「まずいぞ! 私たちはどうする。下がるか!」

 舞が頭を伏せながら賀堂の元へ駆け寄った。



「今更ここから逃げない! 綾崎と沙耶はクラウノスを撃て。当たらんでもいい。とにかく撃ちまくれ。舞は俺と土竜を叩くぞ」

「承知した!」



 綾崎と沙耶は頷くとクラウノスに向けて弾をばら撒き始めた。被弾させるよりも急降下を抑制する事が重要だ。次第に周りにいる人間たちも弾を上空に撃ち始めるとクラウノスが被弾し落下する。急降下攻撃も減り始めた。



 しかし問題点はそれだけではない。地上には今も鋭い爪で暴れまわるアンダークロウがいる。応戦する人間は銃器を鈍器替わりにし爪を回避しながら殴っていた。

 賀堂と舞は手持ちの重たい銃器を放り投げ取り回しの良い拳銃へと持ち替える。近くにいるアンダークロウの周りには応戦する大隊員がいるが押され気味だ。死傷者の山が出来上がりつつある。



「俺は左。お前は右をやれ。出来るか?」

「当たり前だ。私を誰だと思っている」



 賀堂と舞と分かれアンダークロウに相対をする。賀堂が持つのは装弾数六発の『H2-雷針』そして腰にぶら下がるナイフだ。



 素早い動きで周囲の人間を切り裂き賀堂に狙いを定めるアンダークロウは駆ける。右へ左へと照準を狂わせる動きで賀堂は狙いを定められない。

 数メートル。引き金を引いた。弾はアンダークロウ目がけて真っすぐと進む。当たる。そう思った矢先右手爪を前に出した。



「んだと!」



 右手を犠牲にして弾き飛ばした。アンダークロウの右爪を破壊することは出来た。肩からぶら下がる姿からもう使うことは出来ない。しかし、左手は残っている。

 地を這うようにして賀堂の足を狙う土竜。賀堂は後ろに勢いよく飛びさらに二発を撃ち込んだ。またしても右手で銃弾を弾くがもう一発は眉間に食い込んだ。ぐらりと倒れる。



「賀堂! 後ろだ!」



 片付け終わった舞が叫ぶ。賀堂は瞬時に後ろを振り向くと両手を広げ宙を飛ぶアンダークロウの姿があった。素早くナイフを抜き爪を弾いた。そのまま地面に叩きつけられた土竜の背中に残りの弾をすべて撃ち込んだ。



「くそっ。厄介すぎる」



 空薬莢を捨てた弾を込める。残りのアンダークロウを探すが他の大隊員が対処したであろう土竜が頭を割り、被弾痕を晒して何匹も横たわっていた。無論、落下し痙攣をするクラウノスの姿や明らかに被害が多い人間側の死傷者もだ。



「残りを片付ける」

「もちろんだ。ここよりも前の方がヤバそうだな」



 賀堂と舞は残りのアンダークロウを殲滅するために大隊後方より中央に向かう。移動の際に倒れる人間の姿やアンダークロウの死骸の数が戦場の残酷さを物語っていた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援した人

応援すると応援コメントも書けます