43.一言目は『クソ親父』って決めているのだ

「別に気を利かせなくてもよい。どこへ行っても聞いてくる輩はいるから慣れたものだ」

「舞ちゃんは……その、嫌じゃないのですか? 変な噂が立つのが……」



 どちらでもない反応。頷くわけでもなく首を振るわけでもない。沙耶の横に座り虚ろな表情だ。



「そうだな……、気にしていないと言えば嘘になる。事実だから仕方がないと諦めているさ」



 舞は割り切ったように笑顔を作った。自分を偽るため、強く見せるために。しかし沙耶の目に映った舞はどことなく寂し気な印象だった。



「私が関わった商隊はことごとく消滅したな。大体が大きな仕事で死んでいった。それで生き残ったのは私だけってやつさ」

「で、でも、今回は違います! 風間さんは生きています。それに清水さんもです」

「……そうか。それは良かった。本当に良かった。私はまた自分のせいで商隊を潰してしまうのかと思っていた」



 過去、舞が関わった商隊の結末は仕事中の落命。舞が加わったことにより戦力が上がったと勘違いし身の丈以上の依頼を受けてしまう原因だろうと舞は分析する。

 そして今回、加わった商隊『青風』もまた筆頭商隊としてガルバニス討伐隊を結成したときには嫌な予感がしたはずだ。



「結局、どう繕っても第二先行大隊が壊滅したのは事実。青風もその二人以外は死んだのだろう。数人は目にしたが……。全く、私は運の無い人間だな」

「そんな事ありませんよ。舞ちゃんは一人残って戦っていたのでしょう? それに運ならあるじゃないですか」

「どこにだ?」



 分かっていない舞は首を傾げた。沙耶は胸を張り、ドンと叩いて見せる。



「私が助けに来たことです!」

「ブフッ! くくっ……、そうだな。全く頼りにならない奴が来たんだ。私の運も捨てた物じゃないな!」

「ちょっと! その言い方はひどいですよ!」



 少しだけ吹き出した舞の表情は先ほどの堅苦しい感じではなく顔つき相応の明るい物となった。その姿に沙耶も一安心をする。



「貴様は変な奴だな。お前を見ていると考えるのが馬鹿らしくなる」

「もう……、人を馬鹿扱いしないでください!」

「違うのか?」

「違います!」



 即答する沙耶はムスッとした。確かに舞と比べたら人生経験が少ない分、無知な人間と思われるのは仕方がない。でも、馬鹿ではないと自信を持って言えると一人で頷く。



「救援はいつ来るのでしょうか」



 二人が閉じ込められてからしばらくたつが壁の外から物音はしない。舞は焦る様子はなく弩と一緒に持ってきた小さな袋に手を突っ込んでいた。



「そう急ぐのは無理だろう。まぁ、これでも食って気長に待てばいい」



 取りだしたのは軍が支給していた固形食の缶詰だ。舞が蓋を外して中身のスティックビスケットをボリボリと食べ始めた。



「うわぁ、喉が渇きそうですね。お水を持ってて良かったです」

「確かに乾くな。そしてあまり美味くない。ジャムがあればいいのだが嵩張るからおいてきてしまった」

「仕方ないですね。それではいただきます」



 軍用ビスケットなので栄養価は考えられているが味はいまいちだ。ボリボリと嚙むたびに口の中の水分が奪われていく。腰にぶら下げていた水筒を取りだして水分を含ませながら流し込んでいった。



「小娘はなぜ商隊なんかに入ったんだ?」

 口をモゴモゴとさせながら舞が尋ねた。



「うーん。最初から話すと長くなるのですけど正確には商隊ではなくて運び屋の賀堂さんお一人だけで……」

「あれか、即席商隊だな」

「はい、そうです。綾崎さんは情報屋ですし私はどちらかというと荷物でして」

「まぁ、事実だがそう自分を蔑むものでもないぞ」



 舞は腕を組んで言う。沙耶もどう説明してよいのやら、どこまで行ってもよいのやらで困り果てる顔になった。



「いえ、言葉の綾ではなくて物理的に荷物なのですよ」

「はぁ? お前自身がか?」

「一応、そうなります」



 舞は沙耶の会話の内容がすんなりと頭に入ってはいなかった。人間が荷物である仕事を聞いたことが無いのだろう。



「お前……どこかに売られるのか?」

「違いますから! それ賀堂さんにも言われましたし」

「その話を聞かされたらそう思うのが自然だろう」



 沙耶も冷静に第三者となって今の会話を聞いたら確かに人身売買に聞こえても不思議ではないと思った。しかしどうやって自分の立場をうまく言葉にしていいのか見当がつかない。



「詳しい事は聞かないが同意の上での荷物ってやつなのだろう?」

「えぇ、そうです。舞ちゃんはなぜ運び屋稼業をしているのですか?」

「私には色々あるが……」



 黙りこくってしまう。様々な想いがあって今を生き続けているに違いない。出なければスリーパーの舞は何処かで人間を諦めているはずだ。



「スリーパー、稼ぎがいい、やっぱりこの身なりが原因だな。身寄りのいない私が食っていけるのは運び屋が一番だと思った」



 舞は丁度小学生ぐらいの身長だ。この世界で身寄りのいない人間なら多数いることだがスリーパーであること、一人で生きねばいけないことを考えると運び屋稼業を選ぶのも納得できる。

 荒廃した世界は損得で物事を考える。赤の他人を拾う物好きな人間は数少ない。



「それに、一番は私の父親だな」

「えっ? 身寄りがいないのでは?」

「確かに身よりはいない。生き別れてしまった父親の顔を見たことがないんだ。けど、もしかしたらまだ生きているかもしれない」

「それって……」



 沙耶は察した。舞は出会った時に百年以上も生きている適合者だ。それでも生きていることは即ち、父親も適合者であると言う事だ。



「恐らく一生会えないだろうな。死んでいてもおかしくない。見たことも名前も知らない。それでも探しているっておかしいか?」



 この時ばかりの笑顔は真に迫っていた。にこやかで希望に溢れた表情。それを否定する人間はいやしない。



「とても素敵だと思います」

「そう言ってくれて嬉しい。一言目は『クソ親父』って決めているのだ」

「それは考え直したほうがいいのでは?」

「考えに考えたのだがな……」



 談笑している最中に外から物音がし始めた。もしかすると助けかもしれないと沙耶は瓦礫の塊に向かい近くの壁に耳をあてた。

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