35.ところでなんで老狼なのですか?

招集先の広場には多くの人間が集まっていた。その多くが商隊の一員か傭兵を生業とする者たちばかりだ。武器を掲げ名古屋を守らんと志しを共にするがため討伐隊が結成される。

 名古屋司令部は何段もの階段あり恐らく正面出口から今回の指揮官が登場するのだろう。まだなのかとざわつき始めた。賀堂らは人込みを避け集団の最後尾辺りにいる。



「全く、うるさいね。少しは静かにできないのやら」

「そういうな。長い事待たされているんだ。分からないでもない」



 綾崎は血の気の多い男たちにうんざりしている。自分たちの栄光を語る者、第一功になろうと小隊員と話し合う者。過ごし方はそれぞれだ。賀堂らもここにいる顔も知れぬ奴らとしばらく共にすることになるので面倒ごとは避けたい。



「お嬢ちゃん、出は商隊かい? それとも傭兵か何かか?」

「い、いえ。どちらでもないです。私は賀堂さんの小隊の一人で……」

「そりゃ、いいな。賀堂君といったら名古屋では誰もが知っているさ」



 沙耶は見知らぬ中年の男たちに囲まれていた。広場に女性はいることは確かだが圧倒的に少ない。いたとしても気の強い女性ばかりで沙耶のような女の子らしい女性は少ない。すぐに男たちの注目の的になるのも致し方ない。



「おめぇ、何してんだ?」



 沙耶がやっと賀堂らの元に帰ってきたかと思うと両手に一杯の食べ物や飲み水を抱えていた。



「知りませんよ! なぜか皆さんが持ってけ、持ってけってくれたのです」



 沙耶が向いた方向にいるのは顔こそそこらにいる中年男性と変わらない男たちだった。気さくに沙耶に手を振ったり投げキスをしたりしている。見るから悪い奴らではないと分かるが本当に戦える人たちなのだろうかと心配にもなる。



「あれは『竹トンボ』じゃないか。沙耶ちゃん、あの人たちはいい人だよ」



 綾崎が『竹トンボ』と呼ばれるおっさん4人組に手を振った。すると気が付いたおっさんたちは綾崎らに正面を向き全力で手を振っている。



「てことは山下のおっさんもいるのか」

「そんなに有名な方なのですか?」



 何も知らない沙耶はあの異様なおっさんたちを細い目で見ながら尋ねた。



「まぁ、人数からして大きな仕事には参加しないけど昔から名古屋を拠点にしている商隊でね。きちんと仕事をこなしてくれるから困ったら『竹トンボ』と言われることもあるね」



 情報屋としての血が騒ぐのか綾崎が真っ先に答えた。本当か? と疑ってしまうほど信頼をおけるような人たちではない気がするという疑問がどうにも沙耶からは消えないようだ。



「普段はあんな感じだから気にしないことだ。久しぶりの女の子が嬉しいのだろう。あ、僕も女だから手を振ればこんな感じさ」



 また、綾崎はおっさんたちに手を振った。反応は先ほどと同じだ。本当に気の良い人たちだと沙耶は思った。



「見てください。誰か出てきましたよ」



 沙耶がふと司令部を見上げると正面出口から黒を基調とした軍服にいくつもの勲章を付けた老年の男性が現れた。続くように、恐らく高級士官と思われる軍人が次々と足を揃えて出てくる。

 中には軍服を着ない人間が何人かいた。その一人は以前、街を出歩いているときに見かけた『青風』の風間の姿もあった。つまり、筆頭商隊の面々だろう。



「諸君! 集まって頂き感謝する。私は今回の討伐隊を指揮する伏見である。此度の結成に参加する以上命令に従ってもらうことを頭に入れて頂きたい」



 伏見は如何にも将校という顔つきである。白い髭を生やし睨みを効かす眼差し。老体にも関わらず背は曲がることなくキビキビとした動きだ。

 その後、伏見の副官である男が今回の任務の説明をする。余りにも長く賀堂は半分以降は頭の片隅にも置いていなかった。しばらくの休息を取ったのち、編成が始まる。



「それで綾崎。簡潔に説明してくれ」

「やはり聞いてなかった。まぁ、いいだろう。今回の異形種の名前が決まったようだ。破城王ガルバニス。初めて名古屋の壁に穴を開けたからだそうだ。王は……なんでかな?」

「あれですよ。生物たちを統率するからです。そう言っていたじゃないですか」



 どうやら一番話を聞いていたのは沙耶のようだ。綾崎も半分耳に残るぐらい細かなところまでは聞いていない。

 破城王ガルバニス。ヤドカリのような生き物が全長20メートルを超す怪物として君臨する。厄介なことに名古屋近郊の町を根城にしているらしく野戦とはいかずゲリラ戦になる恐れがある。つまり、人間が銃器を使ってくることを予測しての陣地作成らしい。



「それで、俺たちはどこに編制されるんだ?」

「まぁ、前線ではないことは確かだね。たった3人だから補給部隊か戦線防衛のどちらかじゃないかな。どちらにしろ先に筆頭小隊らが進むから僕たちは尻について行くだけだね」

「なんだ、暇になりそうだな」



 賀堂がそうつぶやいたが綾崎は浮かない顔をした。



「そうもいかないと思うよ。指揮官が伏見だからね。あれは良くない」



 賀堂は首を傾げながらなぜだと尋ねた。すると綾崎はやっぱり何も知らないんだねと答えた。



「あの御仁は伏見八介中将だ。まぁ、ここでは閣下とでも呼ぶか。若いころから猪突猛進だね。任務はこなすし最大火力を生む。だけど、死人が多いことで有名だからね。嫌な予感しかしないよ」



 そうかと言いかけたところで休息の時間は終了する。詳しい話は追って話すと言われ小隊ごとに名前が呼ばれる。

 賀堂らの小隊『老狼』が呼ばれると3人は歩き出した。



「ところでなんで老狼なのですか?」



 沙耶が賀堂に尋ねるが知らんと一蹴りされた。なので綾崎に尋ねると



「そりゃ、一匹狼だからさ。結構、いいと思ったんだけどな」

 小隊の申請書を出したのは綾崎のようだ。

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