6.さて、これからどうしましょう。

 さて一人になってしまった沙耶はこれから何をしようかと考えていると皐月が声をかける。



「賀堂って名前で人を呼ばないでしょ」

「でも皐月さんはきちんと呼んでいましたよ」



 少し不満げにつぶやく。なぜ自分だけは名前で呼んでくれないのだろうか。



「私も昔はおい、とかおまえとか言われていたわ」

「どうしたら沙耶と呼んでいただけるのでしょうか?」



 うーんと皐月も答えが明確に見つからないようだ。



「私もよくわからないわ。でも付き合いが長いと徐々に呼んでくれるはずだけど。まぁ、気長に待てばいいわ」



 わかりましたと沙耶は返答をする。自分よりも付き合いが長い人に言われるのだから助言には従っていた方がいい。そうも焦ることはない。これからの旅は長いのだから。



「他に困ったことはない? あるならおねぇさんが聞いてあげるわよ」



 そこで一つ言いたいことがあると沙耶は皐月と面を向かう。



「とてもえっちなことばかり言います!」



 突如、何を言い出したかと思ったのだろう皐月は発言に驚いたようだ。しかし沙耶の体を見て静かに何度もうなずいた。



「うーん。そればかりは私も奏に同意するわ。沙耶ちゃんっていい体してるもの。後、その服もね」

「皐月さんもですか!」



 賀堂もそうだが皐月もそろって外の世界を知らない初な少女をいたぶるのはさぞかしい楽しいようだ。沙耶も危険を察知してか皐月に対して身構える。



「沙耶ちゃんは外の世界に慣れていないね。なんとなくだけど雰囲気で分かる気がするよ」

「そうでしょうか。私は慣れたような気がしますが」



 首を振る。



「残念だけど本当の世界は見ていないわ。まぁ、見ない方がいいのだけどね」

「本当の世界ですか……」



 それは想像もできない。怪物と化した動物ならここ数日で何度か遭遇しているし人気のいない場所では死の街と表現していいほど荒れている街も見てきた。これ以上の事があるのかと疑問に思う。



「特に可愛らしい女の子ほどね。沙耶ちゃんは気を付けたほうがいいわ」

「それは何にでしょうか?」



 首を傾げて尋ねるが皐月も口ごもる。



「それは奏が何度も沙耶ちゃんに言っているはずよ。この世界で一番恐ろしいのは生物でもないウイルスでもない。理性をなくした人間なのだから」



 同じ女性だから通じる部分がある。皐月が沙耶に言いたいことは伝わるだろう。賀堂が何度も沙耶に言いつけていること。ここ数日で耳にタコができるほど聞かされていることだ。



「この世界は女性が住みにくいですね」



「全くそうね。だから私たちは自分を守る術を身につけなければいけないの。沙耶ちゃんの足に着けているそれがきちんと使えることね」



 沙耶は右足に取り付けたホルスターに触れる。まだ一度も取り出したことはない。いざという時にためらいなく銃を抜けるのだろうか。いや、抜いてやる。抜いて見せる。私はもう大人なのだから。自分の身は自分で守らなくては。東京を出るときにそう心に決めたはずだ。



「じゃあ、私は夕飯の支度をしないといけないから。時間になったら呼ぶからね」

「あ、はい! ありがとうございます!」



 皐月は手を振った後に背中を見せてコミュニティーの中でも大きな家に入った。

 さて今からどうしようとあたりを見回していると賀堂を取り囲んでいた子供たちが沙耶のところにやってきた。何か話すかと思ったが沙耶を見上げて口を開けている。



「どうしたのかな? おねぇちゃんに何かご用かな?」



 しゃがみ込んで笑顔で話しかけた。



「おねぇちゃんってガドーのあいじんなの?」

「ち、違うよ! おねぇちゃんは賀堂さんの……えーっと、お友達なの」



 危うく荷物と言いかけるところだった。さすがに子供たちの前で堂々と私は荷物ですとは言えないので適当に誤魔化す。



「ほんとう?」

「本当だよ」



 別の男の子が首を傾げるので念を押した。これでも無邪気な子供たちなのだ。沙耶も孤児院で最年長だったから子供の扱いには慣れている。そう過信した沙耶は外の世界の子供たちを疑いもしなかった。



「うそだ! だっておねぇちゃんえろい恰好してるもん」

「えっ!」



 まさか子供の口から思いもよらない言葉が出てきたことに驚きを隠せない。



「これ、せーらーふくって知ってるもん。えらい大人が女の子に着させるものだってとーちゃんがいってた」

「いや、違うから! これは制服! 立派な服だよ!」



 外の世界の住民は一体どうなっているのだ。心の底で一括をした。賀堂や皐月が言ってた言葉を思い出す。この世界は性欲の塊なのだろうか。



「しかもスカートも短いし」



 また別の男の子が沙耶の後ろに回ってスカートの裾を持ち上げていた。



「こ、こら! スカートをめくってはいけません!」

「へへん! スカートをはいているほうがわるいんだよ」



 男の子に囲われて凌辱される沙耶の顔は真っ赤だ。なぜ自分よりも一回りも二回りも小さい子供たちにこのようなことをされないといけないのか。自分が恥ずかしい。孤児院のころはこのようなことはなかったはずなのに。



 子供たちの中にも女の子はいる。確かにスカートは履いていない。そういえばコミュニティーで女性も何人か見かけているが全員スカートは履いていなかったと気付く。皐月もジーンズだった。



 どうやら外の世界の子供たちは壁の中で育った子供とは違うようだ。でも子供は子供。純粋であることは間違いない。

 沙耶はセーラー服についてここまで考えることは今までになかった。しかしたどり着いた答えは確かにある。



「……一体外の人たちはどうなっているのでしょうか」



 何か身の危険を感じる瞬間であった。



 まぁ、まだ幼いからスカートめくりに興味がある年頃だとは思う。でも大人が子供に変な事を教えていることもまた事実である。

 この先の事を考えると目まいをしそうになる。



 目に手を当てているとスカートの裾を引っ張り感じがするので沙耶は手をどけると小さな女の子が目の前にいた。



「ねぇねぇ、どうしたらおっぱいがおおきくなるの? 何を食べたらおおきくなる?」



 目をキラキラさせながら沙耶に尋ねる。男の子の後ろでもじもじとしていたのでまともな子供だと思ったらそうでもなかった。



「え、えーとね。おねぇちゃんにも分からないかな」



 さすがに分かるわけがないだろう。

 その言葉に小さな女の子は不満そうな顔をした。やはり何か答えを出してあげないといけないようだ。



「そ、そうだ。ご飯をたくさん食べればいいと思うよ」



 すると少女の笑顔が戻る。



「うん! わかったよ。ありがとう! おねぇちゃん!」



 あぁ、何とかなったと安堵する。根拠はない事を言ってしまったけど間違いではないからいいだろう。

 子供たちの行動は気まぐれで唐突だ。また別の遊び場を探しにどこかへと行くようだ。



「またね! おっぱいの大きいおねぇちゃん」

「でかぱい! でかぱい!」



 沙耶は顔を真っ赤にさせて子供たちに一喝した。



「そんなことを言ったらいけません!」



 だが笑いながら去っていった。沙耶に顔を向けているせいで男の人にぶつかってしまっている。子供たちが謝ると男性は笑って手を振っていた。

 無邪気なのもいいけどこの環境化で子供を育てる人はどんな教育をしているのか気になってしまう。

 はぁ、とため息をつく。



 慣れているはずの子供の相手をするだけで疲れてしまう。これがもし大人だったらどうなるのだろうかと思ったに違いない。

 今からは一人でゆっくりしようと安らぎの場所を探すために歩いていく。

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