5. が、賀堂さんが!

「ガドー! ガドーだ!」


 賀堂がコミュニティーに到着したことを聞きつけてか子供たちが騒ぎ出し走り賀堂を囲い始めた。


「おう、お前らも少し見ねぇうちにでかくなったな」

「こ、これは一体! 賀堂さんが子供に人気なの?」



 思ってもいなかった光景。賀堂はしゃがみ子供たちの視線で触れ合う。出会って本当に嬉しそうにはしゃぐ子供たちが異様だ。

 賀堂はあらかじめ積み荷から降ろしていた袋から飴玉やチョコレートを取り出して配り始めた。

 沙耶には見せなかった姿の賀堂がここにいる。どういった風の吹き回しなのかとまじまじとその光景を眺めていた。



「ねー。不思議でしょう?」

「うわっ、さ、皐月さん」



 沙耶の後ろからぬぅっと幽霊のように現れる。



「驚かさないでくださいよ!」

「あら、ごめんさない。沙耶ちゃんって奏とどれくらいの付き合い?」

「えーと、十日ぐらいでしょうか」

「ほほぉ、それぐらいか」



 なぜそれほどニタニタと笑っているのか不気味に思う。



「じゃぁさ。奏ってどんな人間だと思う?」



 不敵な笑みを浮かべながら賀堂を見つめる皐月。子供たちはとても嬉しそうにもらったチョコレートを食べて賀堂と話し込んでいた。当の本人はすんとも表情は変わらない。



「まさにあんな感じですね。不愛想で口が悪くて。おまけに何か言えばお前を売ってやるだのガキだの言ってきます」

「ふふっ。奏らしいわね」



 やはりかと言わんばかりに再び笑う。



「どこで会ったか知らないけど一緒にいるってことは訳ありなわけでしょ」

「えぇ、その通りです」



 なぜ分かるのか。心を見透かされているのかと鼓動が早くなる。



「本当に愛人だったらどうしようかと思ったわ。奏が誰かと一緒にいるのって久しぶりに見たものだからね」

「賀堂さんっていつも一人なのですか?」



 沙耶が尋ねると皐月は子供たちと触れ合う賀堂に暖かい眼差しを向けてうなずいた。



「昔は商隊を組んでいたのだけど解散しちゃったから。まぁ、仕方ないのだけどね。そういえば奏が適合者だって聞いている?」

「はい。出会ったときに言われました」



 うんうんと頷く。



「この際だから知っておいて欲しいな。奏は口も悪いしお世辞にもイケている顔でもない。でも根は良い奴なんだよ。ただ不器用なだけ」



 沙耶も何となくそう察する場面はあった。外の世界の初夜でも出来事もそうだったと思い出す。いつもは厳格な態度を取るが触れ合う内にどのような人間かということは分かるはずだ。



「確かに押しに弱い気がする」

「でしょ! 特に美人に弱いからね」

「では皐月さんの言うことは聞きそうですね」

「そうなのよ。私、自分でも美人だと思うし! っておねぇさんをからかってはいけません!」

 と沙耶の背中を叩き始める。だがその表情はどことなく嬉しそうなものだった。



「あ、あの。つかぬ事をお聞きしますけど皐月さんと賀堂さんってどのような関係なのですか?」



 あれっと言わんばかりにとぼけた顔をし始める。



「私と奏ね……。昔馴染みってところかしら」



 あまり詳しく覚えていないというところだろうか。それともそこまで考えたことがないというところだろう。恋人などの類ではないことは分かる。



「それに奏はこの村に物資を届けてくれるの」

「あ、お得意様だって言っていましたよ」

「そうね。もう何年も取引しているもの。ほんと助かっている」



 皐月は沙耶と話している間も賀堂の方に目をやる。不器用にも子供と接している姿に慈愛の目を向けているのだろう。



「こんな辺ぴなところに来てくれるのって奏ぐらいだからね。沙耶ちゃん。なんでだと思う?」



 そう聞かれて頭を悩ます。賀堂がこのコミュニティーに来る理由があるとすれば何だろうかと。今の姿を見て一つ思い当たるものがあった。



「……子供ですか?」

「正解! よくわかったね」

「何となくですけど」

「あぁ見えても子供が好きみたいなのよ。どうやら昔、子供がいたみたい」



 その言葉を聞いて目を開いて驚いた。



「き、既婚者だったのですか!」



 あまりの驚きで皐月に言い寄る沙耶。気圧されたのか皐月は後ずさりをして落ち着きなさいと両手で制止する。



「わ、私も聞いた話よ。昔、奏とお酒を飲んでいるときに呟いていたのよ」

「が、賀堂さんでも結婚できるんだ。今、子供さんはどちらに?」

「LE以前のことらしいわ」



 ため息をつく。沙耶自身も口を開いてから気が付いた。



「ご、ごめんなさい」



 たとえ子供がいたとしても生きているはずがないのだ。適合者の寿命は身が果てるまで続く。つまり果てなければ永遠に続くものなのだ。



「まぁ、適合者が異常なのよ。機会があれば奏にでも聞いてみたら? たぶん教えてくれると思うわ」

「少し賀堂さんの奥さんがどのような人だったかは気になりますね。いつか聞いてみたいと思います」



 ただの興味本位ではあるけどあの賀堂に愛想よく付き合える人間がいたものだと感心している。同時に世界の広さと様々な人間が居るのだなと沙耶は感じている。



「よかったわ。いつまでも一人にさせておくのは心配でね。沙耶ちゃんがいると心強いよ」

「いえ、私こそ賀堂さんにお世話になるのですけど」

「いいのよ。あんな奴使い倒せばいいわ」



 なんとなくだが沙耶は賀堂がどのような扱いを皐月からされているのかを知ったような気がした。信頼からなるものだろうか。本気で突き放しているようには感じない。



「何が使い倒せばいいだ」



 最後の言葉が聞こえたのか賀堂も二人の元へ歩み寄る。



「俺が聞こえない所で好き放題だな」

「いいじゃない。ガールズトークってやつよ」



 鼻で笑う。



「ガールズだ? おめぇ……。オーケー。ガールズだな」



 皐月のただならぬ殺気を感じ取り賀堂はあえなくガールズとした。隣にいる沙耶には見えていたはずだ。瞬時に手の中にはナイフが握りしめられていたことを。またこの人も外の世界の住人で過酷な環境化を生きてきた人間なのだと。



「ところで奏。ここにはいつまでいるのかしら。しばらくぶりだからいろいろ話がしたいな」

「俺もゆっくりしてぇところだがなんせ仕事があってだな」



 沙耶の方を見て仕事内容を口にするのはやめる。皐月に話したらどういわれるか分からないと判断したのだろう。



「残念ね。その仕事が終わったらまた顔を見せて頂戴」

「あぁ、また厄介になる」

「いいわよ。馴染みだもの。今日は止まっていくよね?」

「当たり前だ。一日ぐらいゆっくりさせてくれ」



 それもそうねと手を腰に当てる。



「おい」

 賀堂は沙耶に呼びかける。



「おい、じゃないですよ。沙耶と呼んでくださいって」

「あぁ? なんでもいいだろ。俺は積み荷を下ろしてくるからお前は好きにしてろ」



 返答は待たずに賀堂はムーの積み荷を下ろしにどこかへ行ってしまった。

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