第百六十四話 焼けた部屋に

 かつて消防士をしていた、Tさんという男性から聞いた話だ。

 ある一戸建ての家で火事があった時のことだ。

 幸い避難が早かったため死傷者はなく、火も短時間で消えたのだが、その火元となったリビングで、Tさんは奇妙なものを見た。

 ……手の跡だ。

 すすけたような、真っ黒な手の跡――。それが、焼け焦げた天井に、いくつも残っていたという。

 なお住人の話によれば、火事になる前にこんな手形はなかったそうだから、燃えている最中さなかに付いたとしか考えられない。

 しかしその時間、家の中は無人だった。

 果たして燃え盛る炎の中、手の跡を残したのは誰だったのか。

 そして――どうやって、天井に手の跡を残したのか。

 住人はもちろん、消防士達もそろって首を傾げるばかりだったという。


 現在その家は、中古で売りに出されている。

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