第九十話 祖父と焼かれたもの

 Kさんの、父方の祖父が亡くなった時のことだ。

 報せは夜中に来た。当時中学生だったKさんは、急遽学校を休み、両親と連れ立って、T県にある父の実家に向かった。

 実家には、すでに大勢の親戚が集まっていた。もっとも、通夜や葬儀の準備があるため、挨拶もそこそこに、すぐ手伝いに駆り出されることになった。

 おかげで、あまり悲しみに暮れる暇もなかったのだが、さすがに葬儀が始まると、神妙な気持ちになる。

 やがて出棺を迎え、ひつぎの蓋を開けて祖父と最後の対面をし、別れ花を納めた。

 棺の中には他にも、祖父が生前気に入っていた品々がいくつか、副葬品として納められた。それから蓋が閉じられ、棺が霊柩車れいきゅうしゃに載せられた。

 当時の霊柩車は、まだ宮型が一般的だった。金ピカの屋根を背負ったかのような黒塗りの車が棺を運び、Kさん達の乗ったマイクロバスがそれを追って、火葬場まで向かった。

 火葬場は、うねり曲がった山道を延々と登った先にあった。ものがものだけに、町中まちなかにあるわけにもいかないのだろうが、おかげでKさんはすっかりバス酔いしてしまった。

 祖父が焼かれている間、控え用の和室で横になり、しばらく眠った。

 やがて「終わった」と言うので、起き上がって、みんなで連れ立って収骨室に向かった。

 灰の中に、祖父の骨がきれいに並んでいた。

 火葬場の人が丁寧に、「これはどこそこの骨」と説明してくれた。

 足の辺りに太い金属片があった。以前手術をした時に埋めたものだ、と父親が言った。

 残るものなんだなぁ――と妙に関心しながら、Kさんはふと、祖父の足元に目を留めた。

 小さな頭の骨が見えた。

 半ば灰に埋まるようにして、転がっていた。

 大きさは握りこぶしほどで、もちろん祖父の骨ではない。よく見れば頭だけでなく、手足やあばらのような細い骨も落ちている。

 人の形に似ているが、それにしては、頭の部分だけが獣じみて見えた。

「あれ何?」

 小声で母親に囁くと、周りにいた大人達が気づいて、サッと表情を硬くするのが分かった。

 火葬場の人が、小さな骨を急いで片づけた。それから何か唱えごとを口にして、あとはごく普通に骨上げがおこなわれた。

 結局あの小さな骨が何だったのか――動物なのか、それとものかも――誰からも教えてもらえなかった。

 ただKさんの記憶が正しければ、祖父と最後の別れをした際には、棺にあんなものは入っていなかったという。

 霊柩車で運ばれてから火葬場で焼かれるまでの間に、釘を打ちつけたはずの棺に入り込んだもの――。

 大人になったら、その正体を教えてもらえるのだろうか。

 Kさんは来年、成人式を迎える。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る