11.

「しつけー、ガキだなぁ。おい」

「っ……」


 どかり。傷口の開いた腹に、岩のような堅さを持った膝が減り込み、思わず咳き込む。

 身体中に痛みが走り、足も最早限界で、桐人はがくりと膝から崩れ落ちた。


 阿神谷通り。野次馬のように群がる妖たちの中心で、桐人は一方的な暴力を受けていた。


 桐人を甚振るのは先程、肩がぶつかってしまった鬼。

 気が済むまで少年を甚振った後、満足した奴は、鬱陶しそうに浴衣の裾を払いながら、そのままその場から立ち去ろうとしていた。

 ざわりと群がっていた野次馬たちは一歩後退しながら、鬼へと道を開けようとした。「おら! 見せもんじゃねぇんだぞ! 退いた退いた!」と怒鳴りながら、大股でズンズンと歩く鬼の手には『東八町亭の通行証』。

 ――それは、桐人がたぬまから預かったものだった。


 がしり。遠ざかろうとしていた眼前の足首を桐人はもう一度、掴む。

 すると鬼は動くにも動けず、顔を顰めながら振り返った。

 ギロリと眼球を動かしながら、ドスの効いた声で桐人を脅す。


「何だ、ガキ……殺されたいのか?」

「つうこうしょうを、返せ」


 自分の不注意で相手に肩をぶつけてしまったことは謝罪する。だが、それとこれとは話が別だ。何があろうとも通行証を渡すわけにはいかない。

 返せ。

 痛みに呻きながらも桐人は、必死に追い縋った。


 だが鬼はそれが気にくわなかったのか、げしりと、掴まれていないもう片方の足で、少年の顔を蹴り上げた。鈍い打撃音は、周囲の野次馬たちにも聞こえた。


「なめた口を聞いてんじゃねぇぞ、ガキィ……これは俺が拾ったものだ。よって俺のものだ。何か文句あるか? あ゛あ?」


 ――大ありだ。馬鹿野郎。


 あまりの理不尽さに腹が立ち、桐人はそう吐き捨てたくなったが、口元が痛くて出来ない。多分、さきほどの蹴りで咥内が切れたのだろう。鉄の味がした。


 それでも奴の足だけは決して離さず、桐人は逃がさないとばかりに必死にしがみついた。

 そんな少年を退かせようと、げしげしと煩わしそうに蹴る鬼。その青い肌は真っ赤に染め上がっており、奴の怒りが見て取れる。余程短気な性格をしているようだ。


「いい加減離さねぇか、われぇ! しつっこいんだよ!!」


 がつりと少年の頤を蹴り上げる青鬼。その暴挙に野次馬に混じる何人かの妖が眉を顰めた。


 ――ねぇ、ちょっとやり過ぎじゃない? 可哀想よ、あの子。

 ――ていうか、あれ。ちょっと、人間っぽくない? 

 ――ああ、確かに。ちょっとそれっぽいわね。こっちに迷い込んだのかしら?


 ひそひそと袖で口元を隠しながら囁き合う。どこか同情的な顔はしているが、少年を助ける気はないようだ。

 ただ、「可哀想に。それぐらいにしてあげれば良いのに」と言うだけで、動こうとするものは誰一人いなかった。



♢  ♢


「……騒がしいわね」


 東八町亭。

 酒も大分入り、久しぶりのほろ酔い気分を味わっていた万葉は、もう帰ろうと席を立っていた。

 外から聞こえてきた騒音が、以前に増して大きくなったような気がして、小首を傾げる。


(まあ、いいか……)


 別に気にするほどのものではない。

 目の前のバーテンダーに「ごちそうさん」とだけ言葉を残し、勘定を済ませる。

 もう行くのかと目を丸くする土竜にひらりと手を振って、店を後にした。あのモグラ爺の頬も随分と赤くなっていたので、一応「ほどほどに」と忠告を残していく。


 暖簾をくぐって、すう、と外の空気を吸った。

 ここは、独特の匂いがする。先程の酒臭い飲み場と打って変わって、店の外は様々な匂いが入り混じっていた。

 焼き鳥の匂いがすれば、甘いお香の香りがし、果てには汗臭いのが漂ってくる。カオスだ。だが、裏新宿らしい匂いだと思った。


 それとなく湿気はあるが、飲み場と比べればすっきりとした外気に、万葉は頬を緩ませる。偶に吹く風が火照った頬を冷ましてくれ、とても心地良い。


 気分が浮上した万葉は、ふんふんと鼻歌を歌いながら、するすると、人混みならぬ妖混みをすり抜け、大通りへと躍り出た。

 そうすれば、先程の複雑な匂いは消えていた。

 今、万葉が歩いている阿神谷通りはどちらかというと清潔感が漂っている方で、まだ『新宿』の出入口に近いからか、穏やかな妖種が多く、ここらでは平和な場所……の、はず、だった。


(なんだ……?)


 歩いた先に、ふと大きな妖混みが見えて、万葉は眉を顰めた。

 どうやら、喧嘩のようだ。

 こりゃまた珍しいと思いながら、興味本位でその野次馬の衆へと足を進めてみる。

 少し背伸びをして、つま先立ちになりながら、後列からひょいと野次馬の奥を覗きこんだ。

 円になって固まる妖たちの中心には、図体のデカい鬼一体と、床に這いつくばる影が一つ見えた。


「このガキが! 離せよ! 離せって言ってるだろうが!」


 ボロボロの背中を踏みつける鬼に遠慮は無い。衝動の赴くがままに一方的な暴力を、小さな存在に振るっていた。


 相手を痛めつけはじめてから、もう既に数十分は経過している。鬼の息も切れ切れだ。

 だが、それでも足から少年の手が離れることはない。

 それに対して鬼の苛立ちが沸点を超えそうになった。額に幾つもの太い青筋が浮き、鬼の形相が更に凶悪なものへと変わる。


 目下の小さな背中はもうボロボロだ。短い袖から覗く腕も、顔も、肌には彼方此方と青紫色の痣が見え、それは土と埃で汚れていた。アスファルトの地には小さな血痕が点々と散らばっている。


「こんのっ……!」


 ――こうなったら、このまま頭を踏みつぶしてしまおう。と、鬼は足を上げた。


 セメントで固まっているのではないかと疑ってしまう程、足首を以前と掴む小さな手。それを引き剥がすために、鬼の足が宙に浮く。


「……セ」


 しかし足を振り下ろす寸前に、不意に小さな呟きが、鬼の耳元まで届き、一瞬だけ動きを止めた。


「かえ、せ……」


 地面から上げられた少年の面差しは汚れていた。血と痣と小さな小石の欠片が肌に貼りついている。

 黒い前髪の下から覗く双眸は別に鬼を睨み上げているわけではない。


 だが、ほんの刹那――鬼が怯んだ。


(な、なんだ、こいつ……)


 鬼を見つめる眼に特に変わった特徴はない。普通の目だ。

 ただ、瞳には未だ強い意志が宿っており、諦めたようには見えなかった。身体はもう限界に達しているはずなのに、だ。

 身体中、相当痛いはずだ。それなのに少年は怖気づいた様子も、屈服する気配も見せなかった。


 黒い眼が真っ直ぐに、鬼を見上げた。

 その黒い瞳は深淵のように深く、人の意識を引き込むような力を持っていた。

 ほんの一瞬だけ。男はその目に呑み込まれるのではないかと錯覚した。


 ガキのくせに生意気な。


 こんな子供に、ほんの一瞬でも怯んだと思うと、許せなくて、鬼は今度こそ止めを刺すようにその大きな足を掲げた。


 ――踏みつぶされる。

 大きな黒い影が視界を覆い、桐人は今度こそもう駄目かと、目を強く瞑った。


 途端、どさりと何かが倒れる音がした。

 風圧が起き、顔に当たる。薄らと桐人が目を開けば、さきほどの鬼の足裏が見え、倒れているのが分かった。


(なにが……)


 何が起きたのか、桐人にはわからなかった。

 ただ、一難が去ったことをなんとなく察し、知らず、肩の力を抜く。

 ざり、と近くで誰かがアスファルトを踏みしめる音がした。視界に靴が映る。


 女の物だ。


 誰だと不思議に思いながら桐人は視線を上げるが、影に隠れて顔がよく見えない。

 長い髪をしていることはなんとなく分かったが、身体はもう限界で――意識が徐々に落ちそうになった。


 そうして、思考が闇へと落ちる中、桐人は誰かに頬を撫でられた気がした――。






♢  ♢


「……あれ?」


 唐突に、なんの前触れもなく、桐人の意識が浮上する。

 パチリと瞼を開けた先には木製の天井。卍型になっている骨組みに、軽く目を瞬く。


(……俺、確か)


 自分が先程まで何をしていたのか思い出し、桐人は瞬時に起き上がった。が、腹に激痛が走り、そのまま床へと逆戻りする。

 背中から感じる感触と、この嗅ぎ慣れた匂いは恐らく疊だ。頭の下には半分に畳まれた座布団が敷かれていた。

 見知らぬ部屋に桐人が首を傾げる。


(ここは、どこだ……? 俺、どうしたんだ?)


 あの青鬼にコテンパンにされていたところまでは覚えている。だがその後、一体何をどうしたのか全く思いだせなかった。

 把握しきれない状況に、桐人が頭を悩ませる。――すると。


「おや? 目を覚まされましたかな」


 しわがれた声がした。


 急に話しかけられたことに吃驚しながら、桐人は目線を動かした。

 部屋の襖が唐突に開き、小人のような老人が姿を現す。これまた、見知らぬ人物の登場に桐人は目を見開き、狼狽えた。


「え、あの……」「片瀬殿ぉお!!」


 刹那。《ミサイル》が再び顔面を直撃した。

 ちかちかと視界が点滅し、再びせりあがる痛覚に桐人は呻き声をあげる。


「か、から、かさ……」

「片瀬殿! 片瀬殿! かだぜどのぉ! 申し訳ありばぜんん!」

「いだいだいだいだい!」


 ぐりぐり。傘の骨組が頬を抉り、咥内に鋭い痛みが走る。口の中を切っていたのだ。痛いに決まっている。

 涙と鼻水で喚くこの唐傘を必死に引き離そうにも、力が入らず助けを求めるように、桐人は震える腕を伸ばした。

 すると、それに気がついたのか、一人の救世主が手を差し伸べる。


「あーあ、だめですよ。からかささん。片瀬さんの傷口が開いてしまいやす」

「た、たぬま、さ……」


 助かった。

 肉球で傘の頭を叩きながら、たぬまが、からかさを引きはがしてくれた。軽くベリッと言う音がしたが、それどころではなかったので気にしないことにする。


「有難う、たぬまさん……助かった」

「いや、こちらこそすいやせんでした。気付くのが遅くなって。

 ……こっちもからかささんがチンピラにちょっか……コホン。絡まれてしまいやしてね」

「え、大丈夫だったのか!?」


 謝罪と共に判明した事実に、桐人が目を剥く。


 大方、からかさの奴が『理想のマッチョ風』の輩でも見つけてちょっかいを出したのだろう。それで相手の機嫌を損ねたに違いない。

 からかさは別に良いが、それに巻き込まれてしまったたぬまを気遣わしげに見ると、からかさが「問題ない」と口を挟んだ。


「だ、だいじょうぶでふ。たぬまさんが、蹴散らしてくれたんで」

「え、そうなの……?」

「安心してくだせぇ。絡まれたっつっても唯のチンピラ。大した問題じゃあありやせん」


 ぱしりと、己の力こぶを叩くたぬま。

 頬の十時傷に鉢巻をした愛らしいフォルムをした彼は、実は、けっこう腕っ節の強い化け狸だった。


「それより心配なのは片瀬さんです。まさか鬼に絡まれていたとは思わず……本当にすいやせんでした。しかもあっしの通行証のために……」

「いや、いいよ。前見てなくて、はぐれっちゃった俺も悪いし」


 深く頭を垂れるたぬまに、桐人は慌てて顔を上げるように言った。

 「通行証なんて渡してしまえば良かったんです」なんて零すたぬまに、そうはいかないと頭を振る。あれはたぬまの物だ。それを見す見すと他人に明け渡してはいけない。


「って、そうだ! 通行証!」

「此処にありますよ」


 ぷらりと鬼灯の紋が彫られた通行証をぶら下げるからかさ。

 返ってきた通行証を見た瞬間、桐人はホッと安堵の息を零した。


「良かった……本当にごめんな、たぬまさん」

「いえいえ、そんな……」


 気にしていないといった風に手を振るたぬま。

 そんな奴に対して頭が上がらない気持ちでいると、桐人はふと、我に返り、疑問を抱いた。


「それで……此処は」

「東八町亭の個室ですよ。片瀬殿」

「え、ここが!?」


 言われて初めて気がつき、室内に視線を走らせる。

 目の前には座卓に叉布団、卍型の天井に淡い光を放つ照明に、真っ白な襖。


 清閑とした雰囲気が漂う室内は、外の通りとは、まるで別世界のように見えた。表通りの騒々しい雑音は聞こえず、外界から切り離されたような心地がした。


(そうだ、情報……!)


 はっと、自分の目的を桐人は思い出した。

 ぼーっとしている場合ではない。自分は菜々美から蟲を取り除く方法を見つけに来たのだ。

 時間がない。気絶していたことで更なる時間を削ってしまった桐人は、焦燥感に駆られながらも立ちあがった。

 だが膝を立てた瞬間、激痛が身体を襲い、思わず蹲る。


「っ……」

「駄目ですよ、片瀬殿! ほら、薬を……」


 差し出された器を受け取り、沼色の液体を飲み干した。

 苦い。あまりの苦さに顔を顰める。


「焦る気持ちは分かりますが、あまり無理をなさらない方が良いですよ。片瀬殿」

「その通りです、片瀬さん」

「けど……」


 宥めるように背中を摩るからさか達に、桐人は口籠った。


 けれど、本当にこんな所で時間を潰している場合ではないのだ。

 こうしている間にも阿魂や陰察官たちは動いている。早くしないと、間に合わなくなるかもしれない。

 苦虫を噛み潰したような顔をする桐人に、たぬまは困ったように頭を掻いた。


「心配せずとも、情報収集ならあっしらが既に済ましておりやす……」

「本当か!?」


 まさか代わりにたぬまたちが仕事を既に終わらしてくれていたとは思わず、桐人は驚いた。

 たぬまとからかさには本当に頭が上がらない。感謝してもしきれないほどだ。そして、本当に申し訳ない。


 切羽詰まったような、期待したような眼差しを向けられたたぬまは、だが、口を濁らせた。


「ただ……有力な情報は」


 歯切れ悪く言葉を紡ぐたぬま。隣のからかさは、居心地悪そうに目を逸らした。

 その意味をなんとなく察し、桐人は静かに目を伏せる。


 ――ああ、そっか。駄目だったのか。


「そっか……」


 そりゃ、そうだ。あの土御門でさえ匙を投げた問題だ。解決法などそう簡単に見つかるわけが無い。


(けど……)


 ぎゅっと、拳を握る。


 それでも、諦めるわけにはいかないのだ。

 からかさに時刻を確かめれば既に朝の三時半。かなりの時間が経っている、もう休んでいる暇などない。

 けれど、かと言って他に当てがあるわけではない。


 なにか、なにか無いのか?


 桐人は素早く思考を展開させた。記憶を辿り、ヒントを探すように己の知識を引っ張り出しては、模索する。


 なにか、きっとなにかあるはずだ。

 風間菜々美を救う方法が。あの蟲を綺麗に取り除く方法が――。


 ――『……状態を見るに、相当な範囲まで侵食されてたみたいだけど、よく取り除けたわね。あと少しでも広がってたら、彼女、人に戻れなくなってたわよ』


 不意にある女医、いや、霊視官の言葉が脳裏を過った。


(そういえば……)


 思考を占めるのは以前の『蟲事件』。

 あの霊視官は朽木文子の肉体を目にした時、驚いていた。小さな痕さえも残さずに綺麗に取り除かれた蟲……。


 土御門春一は彼女の時とはと言っていた。だけど、それでも、もしかしたら――。


 ほんの小さな可能性。否。極僅かどころか、あるかさえも分からない可能性だ。

 だけど迷っている暇など無い。例え無駄足に終わったとしても今は我武者羅に動くしかないのだ。

 他人に。彼女に頼るのは間違っているのかもしれない。けれど、それで躊躇するわけにはいかない。


「……」

「片瀬殿?」


 黙って床を睨みつける桐人に、からかさは心配になって声をかけた。

 心ここにあらず。何処か遠い先を見つめているような瞳に声をかけずには居られなかった。

 ――途端。今まで空気と化していた老人が、助け舟を出す。


「蟲を取り除く方法。なくはないかもしれませんな……」

「え……?」


 前触れもなく口を挟んだ小人に、桐人は目を瞬かせた。


「……土竜さん。そりゃあ、本当かい!?」

「といっても、わたくしめも正直ちょっと自信はないのですが」

「あ、あの……」


 戸惑ったように、老人を見やる少年。その視線の意味を察し、老人は、いま気づいたかのようにポンとその小さな手を叩いた。


「おっと……これは失礼。私、しがない情報屋を営んでおります。土竜と申します」

「あ。ど、どうも」

「自己紹介は後で! それで土竜さん。あんた、方法ってのは……」


 たぬまが興奮したように小人に詰め寄った時だった。

 閉じられていた襖がまた音も無く開き、現れた人物に桐人は瞠目した。


「ごめんなさい。眼鏡、忘れた」

「え……!」


 その秀麗な顔にいつも常備していた眼鏡はなく、一瞬誰だか分からなかった。だが、その声は忘れるはずもない、『彼女』のものだ。

 現れた存在に気づいたからかさが、悲鳴を上げた。


「出ましたな! 蟲喰い!!」

「……」


 現れた途端。ビシリと指を指された女は、表情を削ぎ落したような顔で桐人達へと視線を投げかけた。その視線の先には、泣き喚くからかさが居る。 


「こら! 失礼にもほどがありやすぜ、からかささん」

「で、ですがな……」


 咎めるたぬま。だが、からかさは納得がいかないと言うように口を窄めた。


 二人が口喧嘩をしているにも関わらず、どこか上の空で彼女を見つめる桐人。

 その視線に気づいた彼女が、目を丸くした。


「あら? 目が覚めたのね」


 首を傾げながら、彼女が桐人に話しかけた。さらりと流れる彼女の黒髪を横目に、桐人は、無意識に拳を強く握った。じわりと汗が掌に滲む。


「佐々木先輩……」


 何故、ここに彼女が居るのかも、全てはどうでも良い。そもそも本物なのかさえも分からない。それほど桐人の頭は一つの思考に没頭しすぎていて、他のことを考える余裕などなかったのだ。


 ただ無我夢中だった。タイミング良く。本当にタイミングよく現れた彼女に、桐人は無意識にも話し掛けていた。

 彼の頭を占めるのは、あるかもしれない一つの可能性。

 もしかしたら、風間菜々美を救えるかもしれないと、桐人は微かな希望を抱いた。


「――お話が、あります」


 かしこまったように口を開く少年に、『彼女』――万葉が目を細めた。 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る