帰るためなら強い奴の言うこと聞くしかないだろ。

イコ

序章

第1話 召喚された

クラス丸ごと異世界召喚。

本で読んでいるだけなら面白いって思ったさ。他人事だからな。

だけどな、実際に巻き込またらたまったもんじゃないって話だ。

言わせてもらえれば、絶対に自分は異世界になんか行きたくない。

だって、そうだろ。金が有れば何でも買える世の中なんだぜ。

二十四時間営業のコンビニやカラオケ、インターネットなら二十四時間どこにいても買い物ができるだろ。運動や遊びだってそうだ。

やりたいときにやれる、夜も朝も関係なく安全な施設が提供されてるんだ。

なのに、どうして不便な異世界に移動しなくちゃならない?冗談じゃないって思っただろ。


おいおい、反論を考えた奴。

異世界に行けば、科学の知識が生かせる?チートを手に入れて魔法を使うことができる?可愛い異世界美少女にモテる?そんなこと本当にあると思うのか?実際にあったとして、本当にお前は自分が主人公になれると思ってるのか?

ありえないって。俺みたいに冴えない奴が主人公になれるはずがないっての。

普通の思考を持っている奴ならありえないってわかるだろ。


ハァー、愚痴ってすまん。どんなに叫んでもこれは現実なんだ。

受け入れなければならない事実なんだ。

ここは異世界。そして俺は異世界に巻き込まれて召喚された。


「よくぞお越し頂きました。この世界はエクセリアスと申します」


異世界に召喚された俺たち、神高等学院(シンコウトウガクイン)二年一組一同は、召喚したであろう女性のことばに出迎えられる。

 

歓迎しているとは思えない無表情の美少女。

顔はまるで作り物の人形のように整っていて美しい。

髪は青く、瞳も青い。黒いローブで体のラインは分からない。

かなりの上位美少女だ。


「エクセリアス?何を言っているんですか。いったいここはどこなんですか?」


唯一の大人であり、担任教師であるミッチョンこと、三井(ミツイ) 都(ミヤコ)が美少女に問いかける。

歳は俺たちよりも十ほど上だが、見た目だけなら学生と言っても通る見た目をしている。

この見た目でも、国語の教師としては優秀な人材として重宝されている。

学生たちにも人気の先生だ。

そんなミッチョンの言葉を、美少女は完全にスルーして通り過ぎる。

打たれ弱いミッチョンは膝を地面に突いて項垂れた。

数名の女生徒に介抱されているので、そのうち復活するだろう。


ミッチョンを無視した美少女は、クラスで一番人気のイケメンの前に立った。


「あなたが勇者様でしょうか?」


クラス一のイケメン、名前はマサキ・シンタロウ。

性格は天然で優しい系イケメンだ。

誰にでも優しくクラスの女子たち人気が一番高い。

俗にいうラブコメ主人公のようなラッキースケベや、女子が困ってる場面に出くわす確率が極めて高い主人公体質持ちだ。


「勇者?えっと、いきなりそんなこと言われてもわからないんだけど」

「ステータスオープンと言ってみてください」


美少女の小さな唇に誘導されるようにマサキが言葉を発した。


「ステータスオープン?うわっ?えっ!画面?」


何かしらの変化があったようだ。

マサキの行動を見て、他の生徒たちも同じように唱える。

もちろん俺にも出ましたよ。

目の前にゲームなどに使われるウィンドー画面が表示されている。


名前 ミツナリ・オオカネ

年齢 17歳

固有職業 バイトリーダー


スキル 経験値二倍(異世界補正)、言語理解(異世界補正)

個人スキル 器用貧乏、腰巾着、小心者


おい、職業のバイトリーダーってなんだ。

おい、ニート、Neatのことか。

おい、俺はまだ学生でNeat志望はしてないぞ。


「どうでしょうか?」

「確かに書いてありますね」


問いかけられたマサキの画面には、どうやら勇者という表示がされているようだ。職業勇者ってどんだけ主人公なんだよ。


「……スキルは、どんなものがありますか?」


彼女は一瞬言葉を詰まらせ、無表情だった瞳が潤む。

美少女の表情に、男子も女子も見惚れてします。


「スキル?あのスキルと個人スキルがあるんだけどどっち?」


天然であるマサキだけは動じることなく、質問を質問で返した。


「個人スキルも持っておられるのですか?個人スキルはその人しか持っていないスキルなのです」


俺も持ってるぞ。でも、明らかに弱そうなスキルだけどな。


「そうなんだ。えっと、普通にスキルって書いてあるのは、経験値五倍、言語理解、肉体強化、精神異常無効、自動回復、剣術、光魔法かな。個人スキルは」

「待ってください。個人スキルは言わないでください」


おいおい、スキルの量が俺とは比較にならんだろ。

てか、光魔法って、やっぱ異世界だわ。

一応個人スキルは特別みたいだけど、絶対に俺とは格が違うだろうな。


「もう十分です。エクセリアスへ来ていただきありがとうございます。

勇者様、どうかこの世界をお救いください。

そのためならばこの身あなたに捧げます。どうかこの世界を救ってください」


マサキの前で美少女が片膝を突いて懇願するように発した。

クラスメイトたちが色めき立つ。ほら、見たことか、凡人と主人公では住む世界が違うのだよ。

物語の主人公とはどこに行っても主人公でいられるんだ。

そして、どこにでもいるモブキャラ、俺はどこに行ってもモブキャラでしかない。


「ちょっと待ちなさいよ。捧げるってどういうことよ。シンタロウは私の彼氏なのよ」


話がまとまりそうだった雰囲気をぶち壊した声は、一切空気を読まない。

マサキと美少女の間に割り込んだ。

彼女の名前は、ハーヴィー・クロード・キサラギだ。

女子たちの中でリーダー的な存在であり、父親がイタリア人、母親が日本人のハーフという生粋の美少女だ。

高校生とは思えない美貌とプロポーションは、同じ高校男子から美の女神と呼ばれ、ファンクラブができるほどだ。


「あなたは?」

「私はハーヴィー・クロード・キサラギよ。

さっきから聞いてればシンタロウとばかり話してるけど。いったいなんなのよ。

あなた自身は名乗りもしないし、なんの説明もしない。

自分の要求だけ告げて勝手じゃない?」


おいおい、お前がそれを言うのかよ。

普段、周りのことなどお構いなしに好き勝手してるのはお前だろ。

超お金持ちのお嬢様は我儘放題に振る舞っているじゃないかよ。

正直、常識なんて持ち合わせていないだろ。

今だって男を取られそうだからプライドが傷ついただけだろ。


「あなたが言っていることは正しいです。ですが、私には時間がありません」

「それもあんたの都合でしょ」

「ハーヴィー」


二人の美少女が睨み合う光景はハラハラするような、ドキドキするような役得満載である。

そんな二人をマサキが止めてしまった。余計なことをする奴だ。


「だけど、わかったわよ」

「……私も、事を急ぎすぎました。すみません」


マサキが止めたことで、美少女の方も落ち着いたのか折れた。


「この世界についてお話します。

まずは、あなた方が住んでいた世界から言えば異世界になります。

名前をエクセリアスといいます。

そして、エクセリアスは現在滅びに向かっているのです」


世界が滅ぶと聞いて少なからず、クラスメイトに衝撃が走った。


「そんなところに私たちを召喚したっていうの?帰れるんでしょうね?」

「帰る方法も後でお話しします。

ですが、滅びに向かっていると言っても、それは今すぐではありません。

緩やかに、しかし確実に滅びに向かっているのです。

この世界を救うには方法が一つだけしかありません」


美少女は決意を込めた瞳で、ハーヴィーを見つめ返した。


「何よ?」

「世界樹を占拠している魔族を滅ぼし、世界樹に聖水を与えることです」

「わけがわかんない。そんなこと、どうしてシンタロウがしないといけないわけ?勝手にこの世界の人たちがやってればいいじゃない」


もっともなことをいうハーヴィーに、正直俺は拍手を送りたい。

異世界に来てここまで堂々としてられるこの女の神経は凄い。


「できません。この世界の人間はもういません」

「ハァー?あんたがいるじゃない」

「私は……人間ではありません。名前はM-109。

魔力と機械、そしてあなた方がいう人間の魂で作られた紛い物なのです」


これまた衝撃的な発言に、一同が困惑した表情になる。


「えっ?どういうことよ?」


美少女ことMー109が来ていた黒いローブを脱ぎ捨て自らの体を晒した。

体中に縫合跡があり、継ぎ接ぎだらけの体を晒した美少女は一筋の涙を流した。


「もう、この世界を救う人はいません。いるのは魔族とそれに従う者たちだけですどうか、どうか、この世界を救ってください」


美少女の涙に応えない主人公はいないだろう。


「M-109さん。僕がこの世界を救います」


マサキ・シンタロウとはこういう男だ。

だが、全員がマサキのような奴なわけがない。

俺は反対だ。危険なことはしたくない。だから言おう。俺は絶対に戦わない。


「トシ、ミツナリ、一緒に来てくれるよな」


マサキは一切の疑いを持たない瞳で、俺と俺の横に立つ主人公の友人キャラの名前を呼んだ。

どうして、俺が拒否するとは考えないのか?どうしてこの場で嫌だと言わせない雰囲気を作り出すのか?主人公が大嫌いだ。


「おう」

「もちろんだろ」


トシこと、ヒジノ・トシロウが応じたことで、俺は断ることが出来ずに流される。わかってるよ。自分でもわかってる。強い奴、怖い奴、そしてイケメンで人気のある奴の腰巾着が俺なんだ。

俺の人生はいつも誰かの引き立て役でしかない。


結局やりたくないとすら言えないのだ。

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