第百五十八話◆三叉の洞穴
「目を覚ましたか!」ベッドから起き上がる好矢を見て声を掛けるロサリオ。
「あぁ、ロサリオか……俺、どうしてたんだ?」
「お前…覚えてないのか?」
「……あぁ。バハムートは……ええと……倒したな。……その後が思い出せない」
「バハムートは皆で倒したさ。その後お前が眠ったまま起きなくなって……」
「そうなのか?……心配掛けてすまなかったな」
「気にすんな。……それより、皆を呼んでくるから、それ食って待ってな」ロサリオはベッドの近くに置いてあった青いリンゴを指差してから部屋を出て行った。
「何だか、かなり身体の力が抜けた気がするな……」
「好矢くんッ!!」バンッ!と扉を開けて入ってきた沙羅。他の皆もゾロゾロと入ってくる。
「全く!心配かけさせやがって……」ダグラスが笑いながらそう言う。
「あぁ、皆心配かけて悪かったな。俺はもうこの通り元気だ」
「ヨシュアくん、私とダラリアさんでご飯作ったから後で食べてね」そう言ってくれたのはアウロラだった。
「あぁ、ありがとう。ダラリアも」
「いえ……当然のことをしただけです」
「ヨシュアさん、ボクたちは明日になったら五大魔器を探しに行くことになりましたが……一緒に行きますか?」今度はメルヴィンが声を掛けて来た。
「五大魔器……」
「この大陸にいる間、私とロサリオで本を漁ってたら見付けたの。最後の五大魔器……獄弓ジュデッカがこの大陸にあるんですって」アウロラがそう言って本を取り出した。
伝説の装備について記されている本らしい。
「見つからないって言われてたけど……ハルティート大陸にあるんじゃ、見付けられる訳がないな……」好矢はそう言って、ベッドから降りた。
「もう立っても大丈夫なの?」沙羅が心配そうに顔を覗き込んでくる。
「あぁ、大分寝てたみたいだしな……身体が鈍ったのか力が抜けちゃったよ。……もちろん、明日は付いて行く」
「…………そっか。それじゃあご飯食べて明日に備えなくちゃね。今持ってくる!」沙羅はそう言って部屋から出て行った。
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――その日の夜。
「う~ん……ずっと寝てたから眠れないな……どうしよう?」好矢はそう言ってから、一つ思い付いた。
ずっと寝ていたせいか、力が抜けてしまったのに、疲労感が無くて眠くはない。
だったら、疲れておこう。と思った。
「満優弐優不空五やっておくか」今だに魔力を抜かれている事に気が付いていない好矢は、あろうことか自分の身体に負荷を掛ける満優弐優不空五を行った。
「そういえば、俺の魔力ってどれくらいまで増えたんだろう?……まぁいいか、ちょっと工夫すれば使えるだろ」
(満優弐優不空五……消費魔力…全て…)「発動!」……いつも通り、ヘソから頭の上まで、ズオォッ!という音と共に何かが突き抜けていく感覚、そして強烈な疲労感と眠気に襲われた。
そのまま好矢は吸い寄せられるようにベッドに倒れて、眠りについた……。
――数ヶ月後。
「……大陸見て回ったけど、中々見付けられないな……」今は好矢と沙羅、ロサリオ、エヴィルチャーが森を探して回っている。
「あぁ……」
「本当にあるのかのう……?」
エヴィルチャーはそう言ったが、ハルティート大陸に眠っているという文献があるわけだし、この大陸から出たことがある人間はいないわけだから、確実にこの大陸の何処かにあるわけだ。
「おい、エヴィルチャー。ハルティート大陸に未開拓地はあるか?」好矢の質問にエヴィルチャーは少し考えてから「ある」と答えた。
そこへ案内してもらうことにした。
そこから更に一ヶ月ほど、未開拓地を優先的にチームメンバーで探し回った……するとある日……
獣道のような道に倒れた巨木があり、段差のようになっていた。下へ飛び降りて倒れた巨木の方を見ると、丁度人が一人ギリギリ通れそうなサイズの横穴が空いており、その空洞は奥まで続いているようだった。
「……これ、洞窟か?」それを見つけたロサリオが指をさす。
「だろうな……とりあえず軽く中を調べて、まだ奥まで続いているようなら仲間たちを呼びに行こう」好矢はそう言うと、ロサリオが皆の頭の上に熱を感じない火球を創り出してくれた。
メルヴィンが龍の渓谷の洞窟や、アーギラ黒山の洞窟で内部調査をする時に出してくれた火球魔法の文章と使用魔力をロサリオに教えたのだ。
それを明かりとして使いながら洞窟へ入っていく……。
少し歩いてから、好矢は軽く念じて頭上にある火球をふわふわと前方へ飛ばす……。
奥には三つの道が分かれており、明らかに道の奥に何かがあるような雰囲気を漂わせていた……
「……仲間を呼びに行こう」後ろにいたロサリオがそう言った。それに賛成して仲間たちを呼びに行く事にした。
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「ホントにこんな所にあるの…?」未だに半信半疑な沙羅。
「本当だって……あ、ほら、あの倒木を飛び降りたら後ろに振り向いてみてくれ」好矢は例の洞窟が隠れていた倒木を指差す。
ぞろぞろと仲間たちを引き連れて進む。大きな倒木を飛び降りて振り向くと、そこには真っ暗で狭い空洞があった。
「……この洞窟……?」アウロラが聞いてきた。
「あぁ。たぶんだけど…この奥にあるんじゃないかと思うんだ。少し進むと三つに別れた道がある」好矢は見たままを説明した。奥に何かがあるということに関しては根拠はなく、ただ漠然とそう感じただけだ。
「まぁ、準備は整えたし行ってみるか!」ロサリオがそういうと、メルヴィンと協力して二人で火球を創り出してくれた。
「……よし、行くぞ……!」
前に来た時に見つけたように、火球を飛ばした前方に三つの別れ道があった。
「別れ道……どうする?」
「どうする?チームを三つに分けるか?」ダグラスがそう聞いてきたので、その提案の通りにした。
龍の渓谷へ行った時よりもチームの人数に余裕があったので、それでも大丈夫なはずだ。
そして、メルヴィンとロサリオが創り出してくれた照明用の火球は、術者が離れていても発動し続けるそうなので、チームを分けること自体に問題はなかった。
右の道をメルヴィン、ダグラス、アンサ、ダラリアが行く。
左の道をアウロラ、ロサリオ、ガリファリア、オルテガが行く。
そして真ん中の道には、好矢、沙羅、エヴィルチャーが進んだ。
今現在最弱なのは好矢な為、一番強い沙羅とエヴィルチャーが付いて行くというわけだ。
ここ数ヶ月の探索で、エヴィルチャーはある程度の信頼度は勝ち取っていた。これは彼の野望が成功したのにも関わらず好矢たちに負けてしまったからだ。
……厳密には、エヴィルチャーが負けたのはバハムートにだが……。
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右の道へ進むメルヴィンたち……
「……何の変哲もねぇ道続きだな……」辺りを見回しながら、呟くダグラス。
しばらく歩いていくと、明かりが見え始めた。
「!? あっちは何だ!?」明かりがする方へ駆け出していく……!
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しばらく走っていると、壁は土からレンガに変わっていた。
そしてそこから少し歩くと、くぼみに火が灯されており、それが照明として等間隔に並んでいた。明らかに人工物である……。
「コイツぁ……人がいたってことだよな……?」ガシャリとハンマーを構えながら前へ進むダグラス。一番後ろからはダラリアが後方警戒をしながら斧を構えて付いて来ている。
だが、人どころか、魔物すら全く出てこないし、トラップも無い。ただただ長い回廊が続いていた。
「こんな隠れた場所に人がいたんでしょうか……?」メルヴィンは不思議そうにしながらも辺りを見回しながら付いて行く。
「おい……この洞窟の入り口……やけに狭かったのに、この通路は広くないか……?」アンサは呟く。
確かに、レンガ調の壁と床に変わってからは、身長が2mを超えているダグラスが余裕で歩ける上に、横幅はダグラスが三人分並んでも少し余るほどの広さだった。
「入り口が倒木で潰されたのでは……?」それをアンサに言うメルヴィン。
「……それが気になっているのだ……あんな巨大な木が倒れているのに、何故周りの普通の木や細い木には何も起こっていなかったんだ?」
「誰かが意図的に入り口を隠した……ってことですか?」
「その可能性はある……」
「でもよ、仮にそうだとしてもあの倒木の様子じゃ、随分と長い間地面に横たわっていたみたいだぜ?」
「長い間地面に横たわっていた……とは言っても、あの木は土に分解されていなかった……」考えながら付いて行くアンサ。
「なるほど……それは確かに気になりますね……」
そんな話をしながら、一本道を進んで行く……。そして目の前には小さな台座が見えてきた。
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