第百四十五話◆ひしめくゾンビ軍
「…………」ガリファリアさんが飛び立って数分の後……
うぁ~……うぅ~……と言った呻き声が聞こえてきた。
「!?……なんだ……?」辺りを見回す……特に誰も見当たらな――いや、いた!人だ!
メルヴィンは謎の不安感に駆られ、その人へ駆け寄り周りで異常がないか聞くことにした。
しかし――
「グゥァ~!!」人だと思っていたそれは、先ほどと同じ呻き声をあげ、腐敗臭を撒き散らしながら、焦点の合っていない目でメルヴィンを見付けると物凄いスピードで接近してきた!!
「うわっ!?ゾンビ!!」突然の事に驚きながらも、詠唱を始める!
(業火に焼かれるゾンビ……火力は高め……魔力120使用)「発動!」
ズゴオォォォ!!という業火の音とともに、ゾンビは炎に包まれ、熱風はメルヴィンを襲った。
「あつっ……!まさかもうゾンビがここまで来ていたなんて……!でも…町の人はどうして気が付かなかった……!?」
「ぐぅぅ~……!!」爆炎から姿を表したのは、着ていたボロボロの布切れが燃え、半裸状態になっているゾンビだった。
「ひっ!?」基本的にアンデッドは火属性の魔法や光属性の魔法攻撃をすれば、燃え尽きるか浄化されて動かなくなるはずだが……目の前のゾンビは黒焦げになりながらも立っている。
そして、またゾンビは走って追い掛けてくる!
「うわあぁぁぁ!!」追い掛けられる恐怖が身体を支配しながらも、必死になって逃げながら打開策を探る……!
そういえば、ヨシュアさんが頭を潰さないと倒せないと言っていた……!
メルヴィンはそれを思い出すと、走りながら頭の中で詠唱文を考える。
「ええと…頭を潰すには……ええと……これでいいや!」
(炎の槍……ボクの手から発射される……魔力100使用……)
炎の槍の魔法を詠唱したメルヴィンは振り返り、既に至近距離まで迫っていたゾンビの頭に手を向け言った「発動ッ!!」
バァン!と軽い爆発音と共に手から炎で出来た槍が飛び出し、ゾンビの頭を貫いた!
そのゾンビは動きが止まり、そのままバタリと前のめりに倒れた。
「はぁっ……はぁっ……!あ、危なかった……」そう言うと、緊張の糸が切れその場に座り込んだ。
「……っと、そうだ…仲間の所へ行かないと!」
「ウグアァ~ッ!!」
声が聞こえ、ふと後ろを振り返ると既にゾンビが至近距離におり、メルヴィンに対して腕を振り下ろそうとしていた。
「しまっ――!?」
しかしそのゾンビは「グビェッ!?」と言いながら物凄い勢いで上半身が横へ吹き飛んでいった!そしてその場に残されたゾンビの下半身はメルヴィンの目の前でバタリと倒れた。
「……大丈夫か?」
飲み物を二つ左手で持ち、魔法を放ったのか右手からは煙が出ていた……ガリファリアさんだ!
「ガリファリアさん!!」
「全く、ベンチにいろと言ったろうに……」
「すみません……」
「まぁいい。妾の上に乗れ。ハァッ!!」ガリファリアはそう言い、発声と共にドラゴンへと変身した!
「失礼します!」そう言いながらメルヴィンは素早くガリファリアの背中へ乗る!
「行くぞ、しっかり捕まっていろ」そう言うとバサァッ!と翼を羽ばたき、一気に上空へ上昇する!
「うわぁっ!?」メルヴィンは体勢を崩し、落ちそうになるも何とか座り直せた。ガリファリアはそんなメルヴィンを気にも止めずに周囲の様子を探ろうとしている。
「……これくらいの位置なら良いだろう……仲間やゾンビがどこにいるか解るか?」
「……死人なので気配がありませんが……丁度前方の下にある木と木の間にゾンビがいます!」メルヴィンはそう言った瞬間…
ガリファリアは「そうか……」と一言返してきたかと思えば、口から高熱のビームのようなものが発射され、一瞬で木と木の間にいたゾンビは蒸発して消え去った!
しかし、木はどちらも焦げ痕すら付いていない…。口から発射しているとはいえ、かなりのコントロールだ。
「ゾンビは一体どこから湧いて出てきているんだ……!?」
「メルヴィン、このままスピードを出してホテルの方へ行く!しっかり捕まっていろ!」
「は、はい!」
ゴォォーという風の音が耳を通り過ぎて行き、物凄いスピードでホテルへ飛んでいくガリファリア。
・
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下を確認し、ゾンビや人がいないことを確認すると、ガリファリアはバサァッ!と翼をたたみ、ホテルの裏に降りた。そしてすぐにドラゴンから元の姿へ戻る。
何の合図もなく元の姿に戻った為、メルヴィンはガリファリアにおんぶされている状態になっていた。
「……いつまで妾の上に居るつもりだ?」
「ガリファリアさんが勝手に戻ったんじゃないですか!」そう言いながら降りる。
「早くヨシュアにこの事を伝えに行くぞ!」「はい!」ガリファリアとメルヴィンはそう言ってホテルの入口へ走って行く。
ホテルの前へ移動するまでにはゾンビとは遭遇しなかったものの、ホテルの前では戦闘が繰り広げられていた。
「…くっ!何なんだこのゾンビどもは……!」そう言いながら剣を振るう町民たち!
(上空から氷球が落下…ゾンビの頭に直撃する…魔力100使用)「発動ッ!」
メルヴィンの発動の合図と共にゾンビの頭上に直径1mほどの大きな氷球が落下し、ゾンビの頭を潰す!
ガリファリアは「ハァッ!」と言いながらドラゴンに変身している時に出していたドラゴンブレス…ではなく、ドラゴンビームをゾンビの上半身に放っていた!
ドラゴンの状態よりは小さいし威力も低いが、それでもゾンビを一瞬で蒸発威力には変わり無かった。
メルヴィンとガリファリアによってゾンビ達は一掃され、ホテル前にいたゾンビの群れはいなくなった。
「危ない所でした……ありがとうございます!」最前線で剣を奮っていた町民のおじさんがお礼を言ってきた。
「いえ、無事で何よりです。それよりも、このゾンビたちは何なんです…?」
「我々も解らないのです……どうして急にゾンビ達が現れ――うぐっ!?」話している途中におじさんはいきなり気持ち悪そうな仕草をする。
「大丈夫ですかッ!?」
「ぐッ…ハァッ…!だ、大丈夫です……」そう言いながら、彼はフラッとしてメルヴィンの前へやって来た。
「…?どうかしましたか?」メルヴィンが声を掛けた瞬間おじさんは突然剣を振るってきた!
「うわっ!?」突然の事で対処が出来ず、ガシュッ!という鈍い音でメルヴィンが斬り付けられる!
「ぐわぁぁぁぁっ!!」
「メルヴィン!?」ガリファリアも突然の事に驚く!
周りにいた町民も驚いていたが、次第に他の皆も苦しそうにし始めた……そして、みるみるうちに町民たちの身体は腐敗し、ゾンビとなってしまった!
ガリファリアは事の異常性を察知して、傷を負ったメルヴィンを抱えて、翼を使い、好矢たちがいる部屋の窓をパリンと割って入った!
「大変だヨシュア!急いで皆を集めろ!」
「ガリファリア!?……俺も今の状況は少しは理解している。今ちょうどメルヴィンとお前にMMを送る所だった。他の皆には今送った所だ」
今ホテルの部屋にいるのは好矢、沙羅、ガリファリア、そして傷を負ったメルヴィンだ。
ガリファリアはすぐにメルヴィンを下ろし、好矢に治療を頼んだ。
「すまないヨシュア…メルヴィンを守れなかった……治療をしてやれないか?」苦痛に顔を歪めるメルヴィンを心配そうに見つめるガリファリア。
それを聞いてすぐに治さなければ!と立ち上がった好矢。すぐにカバンから布を取り出し、メルヴィンの傷口を抑えて止血をする。
「ガリファリア、これを押さえていてくれ!」
「あぁ!」
さて、止血は難しい程の傷だ…俺はヒールは使えないし……どうする……?
「何をやっているんだ!早く治してやってくれ!」ガリファリアは叫ぶ。
「俺はヒールが使えないんだ!どうやって治せばいいやら……!」
「妾でもヒールくらいは使える!だが、これほどの傷……ヒール程度でどうこうできる傷ではない!」
「えっ…!じゃあ…どうすれば……!」
「傷を癒やすポーションか何かはないのか?」ガリファリアからそう言われたので、好矢はカバンの中で治療出来そうなポーションを探す。
……すると、一冊の本が手に触れた……。
「これは……!」
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