第百三十話◆アグスティナ魔帝国へ

「そういうことか……」


「どうなの?入れてくれるの?」エリシアが続ける。皆の視線は好矢に向けられる。


「……ソフィナ。俺たち皺月の輝きが敵対しているのは何だ?」好矢は聞いた。この質問の意図を理解が出来るか……少し意地が悪いが、試すことにした。


そんなの解って当然!という表情を浮かべながら、ソフィナは答える。

「アグスティナ魔帝国と、邪悪なる者!」


「……他にはあるか?」好矢は続ける。


「えっ?他……?……えっと……」考えたまま黙り込んでしまうソフィナ。好矢は周りを少し見渡す……やはり、解っていないのはソフィナたちだけのようだ。

他人に興味のなさそうにしているロサリオですらも、解って当然という顔をして平然と座っている。


「…………」残念そうに目を伏せる好矢。


「…トール、どういう意味だ?」ガブリエルが聞いてくる。


「ガブリエル、お前にも解らないか?」好矢は彼にも聞く……少なくとも解ってくれていると思ったからだ。


「いや……」しかし、好矢のそんな思いとは裏腹に、ガブリエルはその一言だけを返した。


好矢は皺月のメンバーに対して言った。

「お前たちは俺のさっきの質問の意図が解るか?」……オルテガ以外、全員が自信満々に首を縦に振る。


「すまん、俺には解らない……」


「オルテガ……ヒントを与える。……俺たちの仲間に一人だけ人種族とは似て非なる種族がいる」


「鳥人族だな?」


ここは敢えて魔力を使わず、アンサに聞き取れないように話した。言葉の解釈の仕方の問題で、バカにしていると思われてしまう可能性があるからだ。


「あぁ……つまり?」


「……なるほど、そういうことか……俺は乗るぜ!」


オルテガは鳥人族がいるというヒントだけで気が付いた。ソフィナたちはそのヒントを聞いても解らないようだった。



「ソフィナ。……この質問の意味が解れば、俺たちのパーティへ来い」


「え、ちょっと待って!考えるからもう少し時間をちょうだい!」ソフィナはそう言って好矢の袖を引っ張る。


「……悪いけど、即答できなきゃ意味が無いんだ」そう言って、皺月の輝きは酒場の代金だけ置いて立ち去る。



「私達の何が間違っていたの……?」ソフィナは震えながら呟く。


やっと見付けたのに……ようやく好矢くんと旅が出来ると思ったのに……

いつしかソフィナの心には、好矢を奪った沙羅へ対してだけでなく、好矢へ対しても憎悪の心が芽生えていた……。



――魔王都ガルイラ大通り。


「…あんなに突き放した感じで良かったの?久しぶりの再会でしょ?」沙羅が好矢の横に並び、前を見ながら言う。


「沙羅……俺たちが酒場でやっていたのは同窓会じゃない。未来を望む者たちの集まりのはずだ」


「……」


「そのパーティへ入ろうというのにアイツの口から、皺月の輝きの敵は人種差別だ。……という話が出なかった。それが全てを物語っている」


正直、ロサリオ自身も気付いていたとは思っていなかった。アデラの事ばかりで頭を埋め尽くされていたが、質問の意味を考える力はもちろん残っていたようだ。

でなければ、あんなに落ち着いた表情で首を縦に振れない。

少し彼を過小評価し過ぎていたのかもしれない……過去のことは水に流して、しっかりと仲間として向き合っていってやる必要がある……好矢はそう感じていた。


ソフィナとガブリエル……二人はトーミヨの学生の時にゴブリンのエンテルの所へ会いに行っていた。俺たちと合流することに躍起になって、あの日々を忘れてしまっているのではないだろうか?

好矢はそんな事を考えていた。


「話の腰を折って悪いんだが……ヨシュア、今後の行き先はどうするんだ?」ダグラスが聞いてきた。


「……アグスティナ魔帝国へ行く」


「ず、随分急な決断ですね……」ダラリアが見上げて言う。


「ここで一旦ケリをつけたい……って所かしら?」アウロラが聞いてきた。


「あぁ。邪悪なる者と戦っている間に邪魔をされたら困るからな……説得だけでもしよう」


「そうだな」そう言って行き先に同意するロサリオ。


「ふ、船旅……」沙羅は思い出しただけで気持ち悪くなっているようだ。


「ごめんな、沙羅。でも行かないとお前の力も十分に発揮出来ないかもしれないだろ?」


「分かってる……頑張るよ」


こうして、好矢たち皺月の輝きは、魔王都ガルイラを出て、港へ向かう。



そして、港へ着くと船員に声を掛ける。


「アグスティナ魔帝国の近づける所まで頼む」


「分かりました」



皺月の輝きは船へ乗り込む…………



――船内。


「ダラリア、アンサはアグスティナ魔帝国へ行くのは初めてか?」


「えぇ」「あぁ」二人は返事する。


「ここからおよそ二週間の船旅になる……長く感じるかもしれないが、これはこれで良いもんだよ」好矢はそう言って、客室の大部屋へ向かって荷物を置く。

パーティ用に貸し出ししている大部屋の客室だ。

男性用と女性用の客室を用意していたので、少し落ち着いていると……



……ドォォン!!


近くに爆発音のようなものが聞こえてくる………



「な、何だッ!?」ロサリオは寝転んでいたベッドから跳ね起きて、ドアを開けるロサリオ。


女性陣も、ただならぬ雰囲気を感じた順番から部屋を出る。


「さっきの音聞いたか?」好矢が聞く。


「えぇ……」頷くアウロラ。好矢たちはとりあえず、甲板へ行くことにした。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る