第百二十九話◆失恋と希望と


「えっと……好矢くん、沙羅さんとはどういう関係なの!?」



「「………………」」

予想外の質問に固まってしまう好矢と沙羅。


「今、それ関係あるか……?」好矢が聞く


「ある!……私はずっと貴方が好きだった!それに、いつかエレンの街に帰ってくるって言ってたのに……」

ソフィナは今にも泣きそうな顔をしていたが、それを擁護することは躊躇ためらわれた。理由は、それを助けてしまっては、彼女が勇気を振り絞って聞いてきた質問に真正面から答えられなくなってしまうかもしれないからだ。

それに、ソフィナの隣ではレオが既に背中を擦って慰めていた。ここで自分が出しゃばるべきではないと判断した。


「それで……どうなの?」ソフィナが再度聞いてきた。


「…………」好矢が黙っていると、沙羅が答えた。


「ごめんね、ソフィナさん。アタシは好矢くん……彼と、お付き合いしてる」真剣な眼差しでハッキリと言った沙羅。


「…………そっか……。理由を聞いてもいいかな?」ソフィナが好矢に質問をしてきた。


それに対しては答えがあった。

「それは沙羅の事が好きになったからだ。そこに理由なんてない」


好矢はそう言ったが、他の理由はソフィナが知っていた。

私はまだ恋愛するのが早すぎる……という結論に達した。

初めて好矢くんと沙羅さんが一緒にいる所を見た時、好矢くんの言葉を聞こうともせず、魔法を二度も使った。

……これは、トーミヨの模擬戦で、好矢くんに対して、ロサリオが爆炎魔法を撃ったのと同じことだ……

本来なら、私自身投獄されても仕方がない事をしでかした……。そんな私に恋愛をする資格なんて…………


「分かった、ありがと。好矢くん…………私、ちょっと席外すね」ソフィナはそう言ってお手洗いへ向かった。


「……実は、私もショックだったんだ」エリシアが言う。


エリシアのその言葉に、ロサリオから以前言われたことを思い出した。……エリシアも好矢のことが好きだ。

……しかし、もしも違った場合、勘違い野郎みたいに思われてしまう。それが嫌だったので、あえて知らなかった振りをした。


「そ、そうなんだ……どうして?」好矢が聞く。


「……私もアンタのこと好きだったもの……今では恋愛感情だったのか解らないけど……色々吹っ切れたわ」


エリシアは思っていたよりもスパッと言ってきた。ここまで思い切りが良いと、それほど衝撃は受けない。


「そうだったんだ!?……ありがとう」そう好矢が一言。



――女性用お手洗い。


洗面台に手を付いて、鏡を見ているソフィナ。そして、そこから視線を落として、物思いに耽る……。


あの時、この町で沙羅さんと一緒にいる好矢くんに魔法攻撃しなければ……?トーミヨに居る時、病室で寝ている好矢くんに付きっ切りで付いていたら……?

家で部屋を貸してあげた時、もっとくっついて親密な中になっていれば……?


……トーミヨ在学中に、交際を申し込んでいたら……?


「私、ホントダメだ……」グスッと鼻をすする。その音で、ようやく自分が泣いている事に気づくソフィナ。


でも、本命の目的はまだ……!皺月の輝きへ入ること……!そう決心して、鏡を見上げると……

「……私、目の周り真っ赤……泣いてたってことがバレちゃう……」バシャバシャと顔を洗って、落ち着きを取り戻してから、好矢たちがいる円卓へ向かう。



「ごめんなさい。待たせた……」

ソフィナが戻ってきて、席に着いたタイミングでオルテガが扉を開けてやって来た。

「すまん、荷物の整理で遅れちまった」


「これで全員だな……よし、じゃあまずは自己紹介からだ。簡単に言えればいい。刀利好矢だ。年齢は25歳だ。得意属性は植物属性」


「アタシは刈谷沙羅。年齢は……30よ。得意属性…というか暗黒属性しか使えないわ」30という年齢を気にしてか、一瞬言い淀む沙羅。


「私はアウロラ・ベレスと申します。トーミヨの学生の皆さんはお久しぶり……元魔王軍上等魔導兵で年齢は27歳。得意属性は氷属性よ」

軍の兵というのは、一般的に中級ハンターよりは強い存在な為、軍人という肩書きだけでかなりの強さが保証されているようなものだ。そんな存在の「得意属性は氷属性」という発言に、アデラはもちろん反応していた。

「氷属性……」


「ボクはメルヴィン・バートです。エルフ族です。そしてサヴァール王国の第二王子です……。年齢は227歳。得意属性は火属性です」


「俺は自己紹介の必要は無いけどな……ロサリオ・デイル。25歳。メルヴィンと同じく火属性が得意だ。……そして、アデラちゃんが大好きだッ!!」


「……気持ち悪い。やめて」またアデラが反応した。


「俺はダグラス・ボガードってモンだ。年齢は33歳。巨人族の騎士団長とマフィアの首領を兼ねていたが、今はただのハンターさ」


「トールのパーティ…やべぇのが集まってるな……」ガブリエルがボソッと言う。


「妾はガリファリア・エルニウム。……年齢も言わないといけないのか?」好矢に向く。


「いや、俺が言い始めただけだ。言わなくても良い」


「……年齢は不詳ということにしておいてくれ。……龍神族で、元遺跡の守り人をしていた。得意属性は風……そして一般魔法は使えない」


「りゅ、龍神族……」


「一般魔法って、通常みんなが使ってる魔法のことですよね?」エリシアが質問する


「あぁ。妾たち龍神族はそれが使えない……原始魔法しか扱えんのだ」


「龍神族ってすげえな……」


「……そろそろいいか?」アンサが発言した。


「あ、すみません。どうぞ」エリシアが自己紹介を促した。

もちろん、アンサは何を言っているのか解らなかったが、皺月の輝きのメンバーは全員魔力を26ずつ消費して話していてくれたので、話の流れから自己紹介を始めても良いという返事だと受け取った。


「私はアンサ・クリッド。鳥人族の戦士だ。前の職はアーギラ巡回者だ。使用可能属性は金属属性のみ……よって、得意属性も金属属性のみだ……そしてもう一つ。私と話すためには魔力を26使用しなければいけないそうだ」


「魔力を26……?どういうことだ?鳥人族って種族も聞いたことないな……」レオが言う。


「騙されたと思ってお前たちは、自分の言葉に魔力26を消費して、その魔力を言葉に乗せるように話してみろ」好矢は言っておいた。


「こう……?初めまして、ソフィナ・ヨエルです」ソフィナが名前を名乗った。


「ソフィナ・ヨエルか…よろしく」アンサが表情を変えずに返事をする。


「お、おい、アンサ。お前本当に俺の言葉が分からないのか?」ガブリエルは敢えて魔力を使わずに喋っているようだ。確かに魔力を使わないと会話出来ないなんて聞いたことがない。信じられないのだろう。


「……お前、ぶつぶつうるさいぞ」アンサはガブリエルに言った。

アンサのその一言で、ガブリエルは全てを理解した。続けて魔力26を消費して喋ってみた。

「アンサ、俺の言葉が本当に分からないのか?って喋ってたんだ」ガブリエルが言った。


「貴様はバカか?魔力を使わないと分からないと言っているだろう」アンサはまたしても表情を変えずに言った。


「くっ……トールのパーティじゃなかったら、ぶっ飛ばしてるところだぜ……」ガブリエルが魔力を使わずにボソッと言ったが、好矢はちゃんと聞いていた。


「一つ言えるのは、お前の実力ではアンサには勝てないということだ」好矢は魔力を使ってガブリエルに話した。


「ほう…そんな話をしていたのか……」アンサが言う。


「わ、悪かったよ!続けてくれ!そっちのお嬢さんの名前も、そっちのおっさんの名前も聞いてないしな」


「私は、ダラリア・ベルです。30歳です。ドワーフ族で、テッコーの街のベル武器店を営んでおりました。得意属性は闇属性です」小太りでふっくらしているが、清潔感もあり、笑顔がかわいらしい女性だった。


「ドワーフ族……初めて見た……」ファティマが呟く。


「とりあえず、皺月の輝きのメンバー最後は俺だな……。俺の名前はオルテガ・レイラッハ。元アグスティナ四天王で、年齢は346。得意属性は土属性だ。」


「アグスティナ四天王!?」アデラが大きな声で驚く。


チラホラと周りの人が視線を向ける。


「あっ……すみません……」アデラはすぐに立ち上がり、その視線の全体に向けて頭を下げて謝る。


「おい見ろよ……」「あの娘、メッチャかわいいな……」と言った声が聞こえてくる。アデラは慣れていたのでそれは無視した。


「ど、どういうことだ、好矢くん……アグスティナ魔帝国は敵国だろう?」ある程度小さい声で話すソフィナ。


「オルテガは上級魔族のフリをしてアグスティナ魔帝国軍に入軍して、四天王にまで上り詰めた男だ。元々はこの魔王都ガルイラの人間だ」好矢はそう説明する


「……とんでもない奴が仲間になってるんだな……」


「じゃあ、私達の自己紹介を始めよう」ソフィナが言った。



自己紹介も終わり、一通り全員の名前はある程度分かった好矢。一番驚いていたのはアデラの変化だった。なんと、本来一つしか存在しないはずの得意属性が二つもあったのだ。

「得意属性は氷、そして風属性!」と言っていたので分かったのだが……。

因みに、トーミヨで五学年最後の魔力検査で、得意属性が上手く表示されず小さな騒ぎになったそうだ。

彼女自身も、得意魔法が無くなってしまったのかと不安になっていたが、氷属性と風属性どちらも同程度に使えるという非常に珍しい……というより、歴史上類を見ない存在になっていた。


そんな様子を見て取り残された気分になっていたのは、ガブリエルを筆頭に、エリシア、レオ、ファティマだった。



「……ところで、お前たちはどうしてここへ?」自己紹介の話題が終わった時、好矢は本題を切り出した。


「……皺月の輝きに入りに来た!」ソフィナが言った。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る