第百十九話◆魔槌

……

…………


皺月の輝きの一行は、祭壇がある部屋に到着した。

部屋の中は薄暗く、壁には等間隔で松明がかけられていて、直径20m程の円形の部屋だった。この場所だけ、少し自然が創り出した物とは思えない不思議な印象を受ける部屋だった。

そして、その部屋の中心にある祭壇には大きな…そして綺羅びやかで美しく、暴力的なハンマーが置かれていた。



「ここは……?」好矢は族長に話し掛ける。


「ここは、我々鳥人族に伝わる宝を置いている場所……」


「そんな大切な宝を、どうして会ったばかりの俺たちに……?」好矢は聞いてみる。


「信用していないからこそだ……。このハンマーを持てる者がいれば、話してやってもいい。理由は……そこの女なら分かるはずだ」族長は翼を沙羅に向けて言った。

恐らく、鳥人族が人を指差す行為をする場合は翼を開いて、片翼を向けるようだ。


「えぇ…まぁ…。そこにあるハンマーは……“アレ”と同じ代物よ。」沙羅がそう言うと、入ってきた部屋の扉を見た。

外に刺してあるコールブランドのことだとすぐに察する一同。

「なるほど……!」アウロラに関しては声を出して理解を示した。


「あれは恐らく伝説の武器……!そして伝説の武器を持つためには凄まじい実力と純粋な心を併せ持って初めて持つことが許される装備……それにその許されるかどうかは装備次第……」


沙羅がそう言うと、族長はそれに続いた。

「左様……この装備を貴様達の一人でも出来れば、話を聞いてやる……ということだ」


「そんな無茶ぶりを……」ロサリオがそう呟く。


「この大きなハンマー……ダグラス持ってみてくれるか?」好矢が後ろにいたダグラスに声を掛けた。


「そりゃ、こんな良い物使えたら嬉しいけどよ……」そう言いながら大きなハンマーに近付く。

「じゃ、遠慮なく持たせてもらうぜ……」


ダグラスがハンマーをガシッと掴むと、バチッ!という音が鳴って手から離れた!


「チッ!やっぱりか……手も痛ぇな……」


「やっぱりダグラスでも無理だったか……」好矢はそう言ったが、ダグラスは諦めていなかった。


「いや、もう一度持ってみる」そう言ってダグラスは再度ハンマーを掴む!


バチッ!バチバチッ!!ハンマーが拒否してダグラスから離れようとするが、ダグラスの強力な握力でその拒否を押さえ込み、無理矢理掴み続けていた。


「なッ……!?」族長はそんな無理矢理な力に驚く。


「何やってんだよアイツ……」ロサリオが言うが、あれは凄い。


「ッ…!…ど、どうだハンマー!伝説だか何だか知らねぇが調子に乗るんじゃねぇ!こ、こんなモン……痒いぜぇッ!!」ダグラスはそう言って、大きなハンマーを両手で持ち上げた!

その間も手からバチバチと拒否を示す音が鳴っていたが、それは火花を散らし始め、バチバチと続く火花は腕にまで至っていた。あれは相当な激痛のはずだ……


【ちょっ…おい!…離せぇぇっ!!】しばらく持ち上げていると、ダグラスの頭に急に声が流れてきた!


「な、なんだ!?」ダグラスは当然驚く。何せ、突然大きな叫び声が頭の中で聞こえてきたのだ。


「ダグラス、どうした?」好矢はその様子を気にしていたが、ダグラスがハンマーを地面に下ろし、片手で頭を抑えて「誰だ!?」と言うので納得した。

以前、沙羅から聞いたことがある……。

伝説の装備と心を通わせる事が出来るのは、所持者が完全に武器の力を引き出せると、武器の意志が判断した場合。

そしてもう一つ……武器の力を無理矢理ねじ伏せる事が出来る場合だ……。


「ダグラス、頭の中に流れている声はきっと、そのハンマーの意志そのものだ!会話してみてくれ!」好矢がそう言うと、ダグラスは「あぁ…」と気の抜けたような答えた。

ずっとバチバチと火花を散らしている武器を無理矢理持っている状態なので、返事に気を配っていられる余裕はなかった。


「お前……この武器の中にいるのか?」ダグラスが頭を押さえながら聞く。


【如何にも……!ではなく、お前は認めなかったんだからサッサと離せ!】


「断る!貴様は今日から俺の物だ!」


【子供か貴様はぁっ!!】


「うるせぇ黙れ!」



「あれ……いつまで続くの……?」沙羅があくびをしながら、武器と口喧嘩しているダグラスを眺める。


「な、なんてことだ……一族の伝説の武器が……!!」族長は呆然としていた。


そして好矢は、ダグラスを握っている手がバチバチと鳴っていないという所に気が付いた。

「ダグラス、お前……もう手は何ともないんじゃないか?」


バチバチという音も聞こえてこない……


「そういえば……気付いたら痛くなくなったな……」


「…………」ダグラスの発言に、やっぱり痛かったんじゃないか。とツッコミをいれたくなるロサリオ。


「…………」そして方や、ショックを隠しきれない様子で溜息をつく族長。


「どうだ、持てたぞ!」ダグラスは族長に伝えると、族長は答えた。

しかし族長は言った。


「無理矢理だったが……認めよう。それは貴様の物だ……。」

族長は、この武器を“持つことが出来れば”話を聞いてくれる…とのことだったので、無理矢理だろうが手に持ったという事実が大きかったようだ。


「おう。……おい、ハンマー!お前に名前はあるのか?」ダグラスはまた武器に話し掛けた。


【……魔槌まづちミョルニルという……。】ミョルニルは名乗った。


「魔槌ミョルニルって名前らしいぜ」ダグラスは好矢たちにそう言って、ボロボロのハンマーを背負っていた所に、ミョルニルを背負い、ボロボロのハンマーは手に持っていた。

「このオンボロハンマーは俺の大切な相棒だからな……今すぐミョルニルを使おうとは思っていない……」


「さて……族長さんよ……ちゃんとハンマーを持つことが出来た。……話をしてくれる約束、守ってもらうぜ!」


「…………はぁ、分かった」


きっと、持てるわけがない……そう思っていたが、約束した以上は守らなければならない……。

族長は好矢達に向き直り、話を始めた――。



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