第百八話◆潜入!魔導士の町エレン

「見えてきたな」そう言って指を指したのはロサリオだった。

そこには、以前見た姿と全く変わらないエレンの街の姿があった。しかし……


「どうするの?」アウロラが聞いてきた。


この質問の意図は分かっている。一度自らが去った好矢がこの街へ来てしまった事がシルビオにバレると、下手をすると捕まってしまう可能性がある……

そこで、好矢はバルトロ森林へライドゥルを走らせる。そして好矢、沙羅、アウロラ、ロサリオはバルトロ森林のゴブリンの洞窟で姿を隠すことにした。


身分証明書としても使えるパーティ証明書を持って、エレンの街へ行くのはメルヴィンをリーダーとして、ダグラスとガリファリアの三人だ。

好矢はシルビオから個人的に狙われている……沙羅はサラ・キャリヤーとバレれば邪悪なる者であるシルビオから確実に狙われる……

アウロラは行っても良かったが、本人が行きたくないと言った。何かしらの問題があるのだろう。そしてロサリオは当然ながら行こうとはしなかった。

トーミヨで大問題を起こした彼が行けば、間違いなく問題になるし、何より門前払いを食らう可能性だってある。それは彼自身も気付いているらしかった。結果、メルヴィンとダグラスとガリファリアの三人に頼むことにした。


作戦目標はサミュエル・ラングドンの保護だ。サミュエルという男を新聞の取材と偽り家を聞いて回って、場所を特定し、そこで正体を明かして保護する……

もしも四天王が彼と接触していなければ、容易に行える作戦だった。




「――と言った感じで問題ないな?」好矢が言う


「あぁ」


「それで大丈夫です」


「街へ入る時はハンターで、街へ入った後は新聞記者という形で良いんだな?」ガリファリアは確認する。


「その通りだ」好矢はそう返すとガリファリアは言った。


「だったら、私はホテルの部屋を三人分とろう。私が記者に紛れていたら変に思われる可能性がある。巨人族とエルフ族の凸凹コンビの方が面白いタッグだと思われて怪しまれる可能性は低いだろう」


「そうですね……ダグラスさんよろしくお願いします。」メルヴィンは言った。


「おう、よろしくな、王子さんよ!」ポンとメルヴィンの背中を優しく叩くダグラス。


「じゃあ、行ってきますね!もしかしたら一泊するかもしれませんが……その時はすみません。何か解ったらMMを飛ばします」メルヴィンはそう言って、三人はエレンの街へ向かった。



「すみませ~ん……」門番の男に声をかけるメルヴィン。


「うん?入場許可か?」門番の男に言われる。


「はい、僕は皺月の輝きのリーダー、メルヴィン。こちらは仲間のダグラスとガリファリアさんです。」そう言って説明する。


「うむ、証明書を見せてくれ」そう言って見せる一行。

「……よし、皺月の輝きを確認した。通っていいぞ。ようこそ、魔導士の街エレンへ!」そう言って門番は街へ入れてくれた。


皺月の輝きというパーティ名は、エレンで名付けたものでもないし、これと言った活躍をしていない為、好矢が設立したパーティだとバレることは無かった。


「では、私は宿を取りに行く。お前たちは調査を頼む」ガリファリアはそう言って、街を入って大通りを少し歩いた先にある宿屋へ歩き出す。


「はい、お願いします。じゃあダグラスさん、行きましょう」メルヴィンはそう言って、サミュエルを捜しに歩く。


ダグラスは懐中時計を取り出し、日付と時刻を確認する……4月2日の午後14時半過ぎだった。

「おい、メルヴィン。この時間なら学校に行ってる時間じゃねえか?」


「時間的にはそうですけど……今日は4月2日ですので、家にいる可能性が高いですよ」


「あぁ……進級休暇か。人間族の学校はやたらと休みたがるよな……」


「確かにそうですね……あ、ちょっとすみません!」メルヴィンは近くを通り掛かった女性に声を掛けた。


「な、なんですか?」


「あ、僕達、新しく設立した新聞社の人間なんですが……今回頑張る学生さんを取り上げようと思ってまして……サミュエル・ラングドンという方を捜しているのですが……」


「ラングドン……ラングドン家でしたら、スラム街にありますよ。この大通りは上流階級や名家の人たちしか住んでませんから……スラムのどの辺りかは分かりませんが……」


どうやら、名家や上流階級の人たちの名前はトーミヨ全体に浸透しているほど有名らしい。メルヴィン達には特に話す必要も無いので伝えていなかったが、ソフィナの実家があるヨエル家もそんな上流階級の家の一つなので、「ヨエル家はどちらにありますか?」と聞けば大抵の人が場所を知っている。


スラムは大きく分けて四つあるので、その中のどこにサミュエルの家があるのかが解らなかった。一度メルヴィンはトーミヨへ行くことにした。

そこで練習している学生がいれば聞いてみようと思っていたのだ。



――魔導学校トーミヨ。


「ほぉ……すげえ広い学校じゃねーか」感心するダグラス。


「一つの王城ほどのサイズがありますね……こんなに広くする必要あるのかな……」そんなことを言いながら、学校前にある草原で練習する学生を眺める。

ローブの胸の部分に付いている星の数が学年だと事前に好矢から聞いていたメルヴィンは、胸に星を三つ付けている学生を探す…………


……いた。そこそこの威力の雷球の魔法を空へ向けて撃っている。


「あの…ちょっとよろしいですか?」メルヴィンが声を掛けると、後ろにいるダグラスを見て「ひっ!?」という声を出す女子学生。

ダグラスはもちろん何もしていないが、見た目が怖すぎる。顔はもちろんのこと体型も2mを超えた巨人族なのだ。


「お、驚かせてすまんな。俺は離れているから、話をしてくれ」そう言って気を遣ってダグラスは女子学生に会釈して離れる。


少しダグラスが離れた為、少し落ち着いた学生が言う。

「な、何でしょうか?」


「驚かせてすみません。僕達は新しく設立した新聞社の人間ですが……今回、頑張る学生さんを取り上げようと思ってまして……サミュエル・ラングドンという方を捜しています。ご存知ですか?」


「サミュエルくんのことですか?」女子学生は答える。知っているようだ。


「あ、ご存知でしたか!貴方のお名前を伺ってもよろしいですか?」メルヴィンは丁寧に聞く。


「私は、ドリス・マカヴォイです。」偶然にも、最初に見付けた三学年の学生さんはマインドコントロールをされていない学生だった。メルヴィン達は知らなかったが、マインドコントロールをされていないということは記者が来たという話がシルビオの元へ行く確率が減るのだ。


「彼の家の場所は解りますか?」


「解りますけど、案内はちょっと……あなた達名前を名乗ってませんよね?」ドリスが答える。


「あっ!失礼致しました!ダグラスさん来て下さい!」メルヴィンは後ろへ振り返り、ダグラスを呼ぶ。


「僕の名前はメルヴィンと申しまして、こちらが僕の仕事仲間のダグラスさんです。こちらハンターのパーティ証明書で申し訳ないのですが、証明でございます」皺月の輝きのパーティ証明書をメルヴィンとダグラスが見せる。


「えっ……」ドリスがその証明書を見て絶句した。


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