第百四話◆押し込んでいた心
「その…遺跡の守り人って何なんだ?」好矢が前から気になっていた事を聞く
「遺跡の守り人は、龍神族の里の遺跡を守る役目を背負った人物のことだ」ガリファリアは言う。
「その遺跡っていうのは?」
「遺跡は、我々のご先祖様であるドラゴンと人間族の方たちが眠る墓だ。龍神族の間では墓守りとも呼ばれている職業の一つで、一人で最低でも一般人の龍神族を五人は相手に出来なければ務まらないものだ。」
「墓荒らしをする龍神族なんているのか?自分たちのご先祖様なんだろ?」今度はロサリオが聞く。
「龍神族は“神”という文字は入っているが、我々も人種族の一つだ。良い人間もいれば悪い人間もいる。お前たちだってそれは同じだろう?」
たしかに、人間族でもエルフ族でも魔族でも…どの種族でも良い人間がいれば、悪い人間もいる……。なるほど、と思った好矢。
「……それはそうとヨシュア。我々はこれからどこへ行くんだ?」今度はガリファリアが行き先を聞いてくる。
「このまま、ドワーフ族を仲間にしようと思う。」好矢がそう言うと、メルヴィンが口を開いた。
「ドワーフ族の前に魔族の仲間をとりあえず味方にしませんか?」
「どうしてだ?」
まだドワーフ族と関わる心の準備が出来ていないのか?と思っていると、別の理由を話し始めた。
「ドワーフ族はかなり遠いし、魔族領から行った方が近いからです。」そう言うメルヴィン。チラッとアウロラの方を見ると、彼女は視線から好矢が言いたい言葉を察して、地図を取り出した。
「………そうね。確かに魔族領通って行った方が近いわね。ここから魔族領へ行って、人間族領を過ぎた先にあるわ。」地図を見ながら言うアウロラ。
「かなりの長旅になりそうだな……」腕を組みながら言うガリファリア。
「じゃあ、とりあえず時間も中途半端だし、ご飯食べてこの町に泊まってから出発しよう。」意外にもロサリオが提案してきた。
「そうだな、じゃあロサリオと沙羅、アウロラさん、メルヴィン、で宿の手配を頼む。俺は、ダグラスとガリファリアで食事が摂れる所を探してくる。」好矢がそう言うと、沙羅が言ってきた。
「アタシは好矢くんと行くわ!」
「まぁ、いいか。…分かった。」好矢はとりあえずそう返すと、ロサリオが突っかかってきた。
「ふんっ!モテる男は辛いよなぁ!アデラちゃん、ソフィナやエリシアに続き沙羅さんまでとはな!」
……うるせえよ。って、んん?
「おい待て。沙羅とソフィナはともかく、アデラとエリシアが出てきたのはどういうことだ!?」驚きを隠せない好矢。
「アデラじゃない!アデラちゃんだ!!」そこは重要じゃないだろ!と思ったが、とりあえず落ち着かせたいので従っておいた。
「分かった、分かった。アデラちゃんとエリシアちゃんが出てきたのはどういうことだ?」
「エリシアはエリシアでいいんだよ!何ちゃん付けしてんだよ気持ち悪りぃ!」コイツ殴ったろうか…………いやいや、暴力はダメだ。
「うるせえな……。アデラとエリシアは関係ないだろ?」イラッときている好矢が聞く。
「だから!アデラじゃなくて、アデラちゃ――」
ダンッ!とテーブルを叩いて怒鳴るダグラス。
「うるせえ!さっさと答えろやクソ野郎!」
「「えぇっ!?」」好矢とロサリオが同時に声を出す。当然、お前が聞くのかよ!?という意味だ。
「リーダーが答えろっつってんだ。さっさと答えねぇとぶっ殺すぞ」今度はドスを利かせた低い声でダグラスが言う。怖すぎるだろ……仲間にして大丈夫だったのだろうか?
「わ、分かったよ……!アデラちゃんからは、ヨシュアかっこいい!って聞いてたし、エリシアに限っては俺がお前に重傷負わせちまった時に、真っ先に控室から飛び出してお前を抱きしめて泣き叫んでたぞ。」
……知らなかった。当然、エリシアからそんな素振りをされたことが無かったし、一度とはいえ馬鹿にしてしまったので、好意を抱かれているとは思っていなかった。
「ふぅん……モテるのねぇ~好矢くん……。」ジロッと見る沙羅。
「な…なんですか……俺が興味あるのは一人だけですよ?」と好矢。ふぅと一息付いてから続ける。
「とにかく、ロサリオ。今はお前とは仲間なんだから、一々噛み付くな。宿の手配、頼めるな?」
「……分かったよ。行くぞ。」ロサリオはそう言って、アウロラとメルヴィンが席を立つが、ダグラスも一緒に行こうとした。
「ダグラス…?お前も付いていくのか?」好矢が聞くとダグラスが答えた。
「あぁ……とりあえず、変な宿を選ばないか監視だ。とりあえず、大部屋二つで男女で分ければ良いよな?」
「それで頼む。」好矢はそう言って美味しいご飯を食べられる場所を探す為に席を立つ。一緒に居るのは、沙羅とガリファリアだ。正直、泊まる所よりも美味しいご飯屋さんが知りたかったので、ダグラスに付いて来てほしかったが、ある程度女性にも気遣いが出来る男のようだ。
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無事に宿も決まり、ガリファリアが「ここがいい」と言った場所で全員食事をして、宿屋へ戻った。
正直、そのご飯屋さんは味は良かったが、量はイマイチだったので、自腹で何か買って来ようと思った。メルヴィンとロサリオは満足したようで、部屋で自分の武器を磨いている。
ダグラスも物足りなかったようで、彼は部屋に戻ることなく食べ終わったその足で、自腹で何か食べに行った。
「じゃあ、俺も行ってくる。」そう言って宿を出ると、沙羅が宿屋の横のベンチに座っていた。
「やっと来た!」
「どうしたんですか?」
「物足りなそうにしてたから、買い食いするんだろうなって……。一緒に行こう?」今までの厳しい先生という印象が無くなっている沙羅。彼女はこの世界で色んな事を経験したのだろう。
「分かりました」正直、平静を装って答えたが、沙羅に対して、かわいいな…と思っている自分がいることに気付く好矢。沙羅はソワソワしている。
「じゃあ、沙羅に案内してもらいますか!」敢えて明るく言って、彼女の手を取った。
「あっ……」そう言ったきり、黙り込んでしまった沙羅。
しばらく手を繋いで歩いていると“ほくほく屋”の看板があった。魔族領や、ベルグリット村などで串焼きを買って食べたが、その串焼きの専門チェーン店だ。
「沙羅、ほくほく屋あるよ。」看板を指差す好矢。
「う、うん……行く……」そう言うので、手を放して沙羅を近くのベンチに座らせて屋台の前へ行って二人分買って沙羅に渡す。
「ほら。」エンテルと旅している時に買った、長い竹串に鳥肉、牛肉、豚肉、羊肉が二個ずつ刺さっている一番人気の、ほくほく串を沙羅に渡した。
沙羅の隣に座って、食べ始めると沙羅は空いている右手で好矢の左手を握ってきた。沙羅の方を見ると、顔を赤くしながら食べている。
熱がないか心配になった好矢は、食べ終わると、沙羅の額に手を当てる。
「大丈夫ですか?熱とかあるんじゃ……?」好矢がそう言うと、沙羅はパチッと額に当てた好矢の手を払って、ガバッと好矢に抱き付いた。
「えっ!?さ、沙羅……?」
「……今日ギルドで一人しか興味ないって言ってたよね?」沙羅が抱きしめたまま聞いてくる。
「はい…」
「ワガママでごめんね。怖いから何も言わないで。しばらくこうさせてくれれば、いつものアタシに戻るから……」好矢自身、その言葉で察した。
何かと一緒居たがっていたのもそういうことだったのか……鈍感で申し訳ないな……と思ったが、沙羅も沙羅で鈍感である。
好矢自身も、沙羅に惹かれていたからだ……というより、実は中学生の頃から憧れていた。いわば、初恋の人である。元々14歳も年上だし、いつか素敵な男性と結婚するんだろうな……と思っていた。
しかし、目の前にいるのは神様のイタズラか、好矢が23歳になった現在も、沙羅は当時と変わらない28歳の女性だった。
いつか元の世界には帰りたいものだが、年齢が近い上、今は仕事を受ければお金が儲かる世界にいる……沙羅を幸せにしたいと思っている好矢がそこにはいた。
「ごめん……ごめんね……アタシ……ダメな先生だね……」グスッと泣きながら抱きしめている沙羅。好矢はそっと彼女を少し離して、唇に口づけをした。
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