第六十一話◆目指せ魔法剣士

「じゃあ、いってらっしゃい。」好矢がソフィナたち五人に対して言う。


「あぁ……依頼失敗だ……。」アデラが好矢を見ながら呟く。


「仕方ないだろう。俺たち五人で力ずくで連れて行ける相手だと思っていたこと自体が間違っていたんだ。」ガブリエルはアデラの頭を撫でながら言い聞かせる。


「うん……」


好矢はその光景を見て驚いた。

「お前ら…付き合うことになったの?」


「あぁ、トールは知らないか。俺たちは四学年になってすぐに付き合うことになった。今は一緒にパーティを組んでいる。」


「ファティマは?」好矢が聞いてみる。一番良い感じに見えたのはファティマだったからだ。


「そりゃ、振ったよ。そもそも俺は告白されるより、するタイプだしな。俺からアデラに付き合ってくれって話したんだ。」

先程の発言。告白はされるより、するタイプという発言が自虐的ではない意味で発言していることに気付くと、ガブリエルがすごくカッコイイ男に見えた。


「へぇ~……それでOKか。」好矢は興味有り気な状態で聞いてみた。


「三回目までは断ったよ~!」アデラは笑いながら答える。


「「お前三回も告白したのか!?」」好矢と共にレオも驚く。


「あぁ。三回目断られた時、分かったって言って一切の連絡を絶ったら、アデラから連絡してきた。」


「押してダメなら引いてみろとはよく言ったものだな……。よし、じゃあ好矢くん!私達も連絡を取り合わないことにする!」ソフィナが思い付いたかのように言うが…


「あぁ、分かった。皺月の輝きには入らないってことでいいな?」好矢には効かないようだった。


「ちょっ…違……!」ソフィナの口がアウアウなっていた。


「俺たちが結婚する頃に付き合えればいいな、ソフィナ!」ガブリエルは笑いながら言った。


「くそっ……!」ソフィナはその場にへたり込んだ。以前と比べると、かなり明るくなったようだ。

この明るくなった要因は好矢で、ずっと会っていない悲しみを忘れようと、皆の前で敢えて明るく振る舞っていた。

それを癖付けることで、自分の気持ちを封じ込めておくことが出来るようになったのだった。

この行為が、結果的にソフィナの魔導士としての腕を高めていることに、彼女はまだ気付いていなかった。


「じゃあ……長居しても魔王様に申し訳ないし、俺たちはもう行くか。トール、また会おうぜ!」

ガブリエルの挨拶の後、皆が各々「またな!」だとか「バイバーイ!」だとかを言って別れることになった。


「……さて、俺たちも行くか!」好矢は振り返って言った。


「行くったって、どこに行くつもり?」沙羅が聞いてくる。


すると、好矢の仲間との会話に全く興味を示さず、終始無言だったアウロラが地図を眺めながら教えてくれる。

「ここから一番近い国は、サヴァール王国ね。」


「サヴァール王国ってどこだ?」好矢が聞いたが、沙羅も聞いたことがないようで、好矢の問いに対して頷きながらアウロラを見る。


「大体、魔王都を出てから、陸地を数日間歩いた後、船で移動して、さらに数日歩いた先にあるわ。途中に小さな村があるから、補給はそこでしましょう。」


「メチャクチャ遠いな!!」好矢が驚くが……


「仕方ないわよ。アグスティナ魔帝国を迂回して向かうんだから。」


アグスティナ魔帝国というのが、魔女帝エルミリアがいるもう一つの魔族領の国だ。

魔王都ガルイラ領とは違って、なるべく、アグスティナ魔族領は避けて通る必要がある。当然、攻撃を受ける可能性があるからだ。

結果、アウロラの判断で大回りをして、行く先が、サヴァール王国……エルフ族の国だ。


「エルフ族は魔法の扱いに非常に長けている種族よ。きっと味方になってくれたら強力よ。」アウロラはそう教えてくれるが、

魔法の扱いに長けている……というのは、好矢にとって、アイデンティティを失うことと同義であった。

それを危惧し、軽く溜め息をつくと、沙羅は好矢の考えに気付いた。


「好矢くん、お前も剣を買ったらどうだ。お前ほどの剣と魔法の腕ならば、魔法剣士になれば問題ない。なに、また昔みたいに地獄の稽古を付けてやるさ。」

笑顔で言ってくる沙羅先生。


「そのお考えには賛成ですが……稽古は易しめで許してください……。」好矢は項垂れる。


「ダメ!…それじゃあ早速、武器屋の高級店へ行きましょうか。好きなもの選んでいいわよ。」沙羅はそう言ってくれた。


「ありがとう、先生。」好矢がお礼を言ったが……


「サラ・キャリヤーさん…あなたお金持ってるんですか?」アウロラが聞いていた。


「これくらいなら……」そう言って出したのは、五百年前に使われていたディリル金貨だった。逆に今の時代に見るとレア物だった。

見せてきたディリル金貨意外にもお金は持っており、全て五百年前の代物。沙羅自身は当時相当な金持ちだったようだが、現在はお金として使用することが出来ないので、

実質無一文のようなものだった。


「先に銀行へ行って換金してもらう必要があるわね……。」アウロラがそう言って、銀行へ行った後、好矢たちは王都ガルイラ最大の武器屋へ向かうことにした。


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