第五十九話◆意志を持った剣

「好矢くん……こいつらどれくらいの強さ?」五人と向かい合いながら聞いてくる沙羅。


「俺もしばらく会ってないから解らないな……。なぁ、ソフィナ。お前魔力いくつぐらいだ?」

ソフィナに聞くと、彼女は律儀に答えてくれた。


「1100よ!」


「なんだ、大したことないじゃないか。」沙羅が言う。


「でも、油断は禁物だ。」

そう言って好矢は光魔法で魔力500使用して、相手五人それぞれの行動予測を視界の上に映し出した。

多めに使用して、沙羅にも見えるようにした。

「へぇ…こんな魔法があるんだ。」沙羅は呟いた。


「好矢く……好矢!あんたはいくつなの!」今度はソフィナが聞いてきた。


「……3745だ。」


相手側の五人はザワついた。

「ちなみにアタシは1772よ。さっき調べたの。」沙羅はそう言ってきた。


「……俺たち、勝てるのか……?」ガブリエルが呟いた。


「怖気づいたなら引っ込んでなさい!」ソフィナは叫んですぐに詠唱を始める。

(らい球……最大火力で好矢に発射……魔力500使用!)「発動!!」

一気に半分も魔力を使って撃ってきた。


好矢に一直線に飛んでくる直径約3mの雷球。それを受け止め、分析防御で吸収していく。

物凄い勢いで小さくなっていって、小さくなり始めた数秒後には、雷球は完全に消え去っていた。


「先生、怪我させない程度に、その剣で。」好矢は沙羅に指示を出すが……


「いや、コールブランドで斬ったりしたら即死するわよ、この子達。」と返してきた。


「大丈夫です!」そう言ってから、自分がゴブリンの洞窟でミハエルや他のハンターたちと戦った時のように、

コールブランドに金属属性の防護障壁を張り、深手を負わせないようにした。


「ガブリエル!サラ・キャリヤーと戦う絶好の機会だよ。どうする?」あえて金属魔法を得意とするガブリエルを焚き付ける。

その間に他の全員をまとめて相手にするつもりだ。


「トールをたぶらかした偽物め……やってやる……!」金属魔法で大剣を作り、沙羅に向かって走り出す。その瞬間――。


「…遅い。」

ドサッ……!ガブリエルが倒れた。


魔法の詠唱中だったソフィナはそれを中断して「ガブ!?」と声を出した。

ガブリエルの背中には切り傷があり、そのまま地面に突っ伏すようにして倒れた。

……そのままよろけながら立ち上がると、振り返って沙羅の方を見る!


「こいつ…いつの間に後ろに……!!」ガブリエルは驚きと共に恐怖もあった。

魔法剣士として強くなろうと目指したが、追い付く事ができない、絶対的な存在が目の前にはあった。


「……目で動きを見ようとしすぎ!甘い!」そう言って、また後ろに回り込んで、ガブリエルに回し蹴りを食らわす沙羅。


「ぐわっ!?」2mほど吹っ飛ぶガブリエル。


「……アンタ、全盛期の好矢よりもずっと弱いわよ。」


「全盛期……?」またもよろけながら立ち上がり、尋ねた。もうみんなの攻撃の手は止んでいる。


「分からないか…………もっとハッキリ言ってあげる。14歳の頃の好矢くんよりもずっと弱いわよ。アンタ。」


「お前……向こうの世界でも戦ってたのか?」ガブリエルは好矢に対して聞いてくる。


「あぁ。いつも沙羅先生の時間が空いている時は、剣道の相手をしてくれていた。」好矢は答える。

実際それのお陰で、剣道部で中学二年生で全国優勝したのを覚えている。今はそこまで強くないだろうが、一応武器を使う格闘技なので、身体がある程度覚えている。


「くそっ……!俺が手も足も出ないなんて……!」本当に悔しそうにしていた。

沙羅はコールブランドを鞘に収め、そんなガブリエルのそばへ行って言った。

「私の名前は、刈谷 沙羅。貴方たちの言い方をすれば、サラ・キャリヤー。……好矢くんとは知り合いなの。」そのまま沙羅は続ける。

「アンタに助言。……アンタのその剣。振り回すことを重視していて軽いようだけど、自分に合った重さが大切よ。アンタ体重は?」


「…71kgだ。」

身長は170cm半ば程度で高く、筋肉ががっちり付いていたので、結構体重があるようだ。


「………ふむふむ。その剣を貸してごらんなさい。」


……ガブリエルの大剣を受け取り、適度に魔力を込めた。

大剣にズシッと重さが出てくる。


「……これくらいかな?細かい調整は自分でやって。……でもさっきの軽さじゃ、剣に体重を乗せられないから相手には軽い一撃しか入れられないわよ。」

素直にその大剣を受け取り、体重を込めながらブンッと振り下ろす。


「……なるほど中々重いな。」ガブリエルは呟いた。


「! ……筋は悪くないわね。」沙羅はガブリエルの脚を見てそう呟いた。


「……ソフィナ。この人は本物のサラ・キャリヤーだ。もしまだ疑うのなら、ガルイラ王と謁見して確かめればいい。」好矢は自信満々で言い放った。


「……分かった。…でももし、その女が偽物だった場合、問答無用で好矢くんを連れ帰る!」


「では、サラが本物だった場合は自由にさせてもらう。」好矢は顔色一つ変えずに返した。


「それはそれで困る気がする……」とアデラが言う。


「どうしてだ?」


好矢は、ソフィナ達が派遣されてきた理由を聞いた。

なるほど、シルビオ学長が俺を呼んで来いと…………。

彼は信用出来なくはない人だが、街を出る直前、初めて会った時とは違う雰囲気があった。

掟は絶対だから仕方ないのかもしれないが、考え方が堅くなっていた気がする。


それを今考えても仕方ないことだが……。

とりあえず、力の差がハッキリしたところで、ガルイラ王のもとへ五人を連れて行くことにした。



――玉座の間。


「なるほど……その五人が、サラ・キャリヤーだと信じていないと……。」ガルイラ王は頷きながら聞いてくれた。


ソフィナたち五人は緊張しているようで、片膝をついたままで固まっていた。好矢と沙羅は立ったままだ。

「ガルイラ王様、何かサラ・キャリヤー本人だと認めさせるための証拠などはございますか?」好矢は聞いてみた。


「それならある。コールブランドを持っていることこそが証拠になる。……どれ、試しにその五人の誰かがコールブランドを持ってみればいい。」


「じゃあ、俺が……」そう言って顔を上げたのはレオだった。

伝説の聖剣を一度だけでも触りたいと思って立候補したのだろう。


「ん。」


沙羅はコールブランドの柄を上に向け、鍔の部分を持ってレオが柄を掴みやすいような持ち方に変えた。レオはそれを手に取ろうとするが……


バチッ!!

「うわっ!?」

まるで自身を持とうとする者を拒むかのように、コールブランドから火花が散った。それを見てガルイラ王は言う。


「今見ての通り、聖剣コールブランドは自身が持ち手を決める剣だ。この剣は自身の持ち主を、サラ・キャリヤーと決め、彼女以外は触れることすら叶わんのだ。」


「つまり…沙羅先生が一番、コールブランドを上手く扱ってくれるはずだ……と、剣自身が判断したってことですか?」と好矢。


「そういうことになるな。」ガルイラ王は頷いて言った。


盗まれる心配もないのは良いことだ。

しかし、意志を持った剣は、自身を上手く扱ってくれないと判断した場合いつでも、持ち主を見捨てるらしい。

これは、もしコールブランドに認められ、持つことが出来るようになっても、弱くなってしまえば扱えなくなる…ということだ。




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