第五十一話◆マリリン・パーセル

地図上よりも複雑な道を抜け、辺りが薄暗くなってきた頃、森で囲まれた場所に到着した。

好矢たちの周りにも、たくさんの木々が生えていたのだが、ライドゥルで走ることには問題がない程度の密度だったので、気にしないことにした。

それにライドゥルは非常に賢く、操者が進みたい方向を最短距離で進むのだが、自分の身体のサイズからして通れない場所は、瞬時に判断して避けて通る習性があるのだ。


「明日には到着するだろ……とりあえず今日はここで休もうか。」


再び、ライドゥルを木に括り付けて、すぐそばにテントを立てた。


「エンテル、焚き火用の枝を持ってくるから、ちょっと待っててくれ。」好矢はそう言って、少し離れた場所で乾いた木の枝を探しに行った。

魔法で作っても良かったのだが、寝る前のポーションの調合と魔法の訓練で使いたかった。


まだまだ魔法の可能性は計り知れない。もしかしたら、この世界から危機という概念そのものを無くすことだって可能かもしれない。

そこまでの力を秘めていると好矢は思っていた。

この考えも、日常的に魔法と密接なこの世界の住人では思い付かないようなものだった。


枝分かれした乾いた枝を見つけてそれを拾おうとした時、その枝が突然赤く光って爆発した。

爆発の規模は周辺に被害が起こるようなものではなかった為、好矢も大した怪我を追わずに助かった。


すると、すぐ後ろで女性の声が聞こえた。「動くな!」


「!?」好矢はビクッとしたまま止まっていた。もちろん、ただ止まっていたわけではない。

脳内で光魔法を詠唱して、自分の視界の上に相手の行動と映し出した。相手が何者か解らない場合は、人型の黒い影のような姿が映っており、

その人型の影が動いている。


「お前は何者だ?」好矢が言う。


「貴様……何者かも解らずに我々を襲ったのか!!」

……何を言ってるんだ?会話のキャッチボールが出来ないタイプの相手だろうか?


「襲ってきたのはお前の方だろ……」好矢は後ろを向いたまま返答する。


「……攻撃はしないでおいてやる。こちらを向け。」

攻撃をしないと言っているが、分析防御用の魔法にはこちらに武器を向けているようだが……


「……」好矢は黙って振り返った。


暗闇でよく見えないが、白髪の青白い肌をして、山羊の角を生やした女性だった。年齢は20代半ば程度だろうか?


「……もう一度聞くぞ。お前は何者だ?」好矢がまた聞く。


「……マリリン・パーセル……魔王都ガルイラ軍一等武官だ。」


「魔王都ガルイラ!?ってことはやっぱりこの近くにあるんだな!」


「お前は何者だ?我々を襲いに来た連中の仲間ではないのか?」口振りから察するに、今現在、魔王都には何かしらの問題が起こっているようだ。


「俺は、放浪魔導士のトール・ヨシュア。仲間のエンテルと一緒に魔王都へ向かっていたところだ。」


「……放浪魔導士がなぜ魔王都へ……?」


「それはまぁ……世界の危機を聞くためというか……なんというか……。」


「貴様…怪しいな……!」当然ながら疑われてしまっているようだ。だが、相手に主導権を握らせるわけにはいかない。


「それはこっちのセリフだ。」


「何……?」


「どうして、軍の一等武官殿が一人でいる?」まともな質問をしてみた。


「そ、それは……!!」


「どうした!聞かれると困る問題でもあるのか?」追い詰めていく好矢。

マリリンは顔を真っ赤にして、言葉を発した。

「さ……」


「さ?」


「…散歩してたんだよッ!!」響き渡る声でそう叫んだ。


「はぁ?」そんな恥ずかしがって言うような内容でもない言葉なだけに、開いた口が塞がらない。


「はぁ?とは何だ貴様ァッ!!」急に斬り掛かってきた!

行動予測は出来ていたので、斬り掛かって来た右腕を軽々受け流して、相手がそのまま受け流されてヨロケている所にドスッと膝蹴りをお見舞いした。


「ぐはぁっ…!?」そのままヨロヨロして木に頭をぶつけて倒れた。


「ちょっ……」弱すぎた彼女に驚いている好矢。

「お、おい…大丈夫か?」声を掛けるが返事がない。脈は……ある。気絶したようだ。


「……やれやれ。」先ほど木の枝を見付けたところの近くにもいくつか乾いた木の枝があったので、それらを拾って、

彼女を放ったらかしておくわけにはいかないので、担いでテントへ戻った。



「おそかたね、よひや!」エンテルがライドゥルに火でエサを与えていた。

「あぁ、悪いな。」

「そいつだれ?」好矢の肩で気絶しているマリリンを指差して聞いてきた。


「こいつはマリリン・パーセル。魔王都軍の一等武官らしいが……急に襲われたから返り討ちにした。」

一等武官ともあろう者が、まさかあれぐらいでやられるとは思わなかったが。


テントの中に毛布を敷いて、マリリンを寝かせ、乾いた木の枝を置いて、周りを大きめの石で囲ってエンテルに火属性魔法を使ってもらった。

火を起こす作業が魔法によるものなので、かなり簡単に焚き火が完成した。


ラエルの村で購入した網を置いて、同じくラエルの村で購入した木の実を焼いてみた。

貝のように、焼いているとパカッと硬い皮が開いて、柔らかい実が出てきた。


茶色く丸い形をしており、大きさはおよそ直径5cm大、少し齧ってみると、食感が違うが香ばしい焼き栗のような味がして美味しかった。

トゲが無い大きな栗だと考えれば納得出来るようなものだった。エンテルも美味しそうにに食べている。


二人で焼き栗を食べていると、後ろにあるテントから、もそもそと音が聞こえてきた。

マリリンの目が覚めたのだろう。


テントから顔だけを出すマリリン。

「目が覚めたか。晩飯中だけどお前も食うか?」好矢が聞いた。


「お前……さっき私を痛めつけておいて、よくそんな口が利けるな……!!」マリリンはプルプルと震えていた。


「いや…お前が攻撃して来なければ俺だってそんなことはしなかったさ。正当防衛ってやつだ。」


「ぐぬぬぅ……」マリリンは拳を握って黙ってしまった。

「……そ、それより!私の剣はどこへやった!?」急に怒鳴ってきた。


「あぁ……そこに置いてあるだろ?」好矢が指差した先には、しっかりと鞘に差してあり、好矢のカバンとエンテルのカバンの上に橋を架けるようにして置かれていた。

地面の汚れがつかないようにしたことだった。


「目が覚めてもしも急に暴れられたりしたら危ないし、テント壊されたら困るからな。」好矢はそう言いながら三つ目の焼き栗を食べていた。


「そうか……。」無言になるマリリン。

その時、ぎゅるるるる~~~………誰かさんのお腹が鳴った。


「………………。」お腹が鳴った恥ずかしさから、顔を真っ赤にして焼き栗をジッと見つめるマリリン.


「……食うか?」好矢が竹串に刺した焼き栗をチラつかせた。


「い、いらん!そんな……も…の……」好矢が焼き栗を刺した竹串を左右に揺らすと、マリリンが物欲しそうな目で追う。


ちょうど焼き上がったもう一つの焼き栗を刺し、大きな焼き栗が二つ刺さった状態の竹串をマリリンに差し出した。


「ほら、やるよ。」


「い、いらん!そんな……美味しそうなもの……すごく食べたい……!!」

どっちだよ。…あまりにお腹が空いていたのか、思考がおかしくなっているのだろうか。


「いいから食えよ。それとも、俺が食べるぞ?」と言って、好矢は大口を開けて焼き栗を近づける。


「あああああああッッ!!」マリリンは叫びながら好矢の竹串を奪い取って食べ始める。


「うるさいひとだね。」エンテルはムシャムシャと二個目の焼き栗を食べながら言った。



――翌朝。

マリリンの案内のもと、好矢、エンテル、マリリンの三人は、テントを折り畳んで荷物をまとめ、魔王都ガルイラへ向けて出発した。

好矢はライドゥルにエンテルとマリリンを乗せるよう指示し、走らず、ゆっくり歩いてもらい、好矢もそれに付いて行くことにした。




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