第八話◆模擬戦

「来たね、ソフィナさん。こちらは、トール・ヨシュア君。今日からこの学校へ編入することになった」

 シルビオ学長が、ソフィナと呼ばれた女性に俺を紹介してくれる。

 だが内心、今日から? 普通明日からとかじゃないの? と思ってたが、時差ボケのようなもので多少眠いものの、特別疲れているわけでもないので、別の言葉を用意して言った。

「初めまして、俺はトール・ヨシュアといいます。よろしく」

 言い終わると同時に軽い会釈をした。


「うむ、ではヨシュア君、カバンを持って、彼女の案内に従いなさい」

「はい」


 シルビオ学長がくれた、教科書三冊とノート三冊をカバンへ入れ、ついでに紙に魔導語を書いた時のペンも勝手にカバンへ入れて、扉へ向かった。

「失礼します」頭を下げ、廊下へ出た。


 ソフィナはツカツカと、足早な音を鳴らしながら3歩歩き、立ち止まって振り向いた。

「…………」しかし、好矢の顔を見たまま黙っている。

「えっと……何か?」


「……キミは、私のことを何と呼ぶ?」

 突然ソフィナが口を開いた。別に何でも良いだろ、と思ったがとりあえず答えることにした。

「えっと……ソフィナ、でいいか?」

「……分かった。では、私は何と呼べばいい?」

「好きに呼んでくれ」と好矢は言って、先を進むように促すと、彼女は動かずに続けた。

「……名前、ここに書いてくれ。好きな呼び方を決める」また手から紙を取り出した。

 紙やペンを創り出すのは誰でも出来るような簡単な魔法なのか……だから学長室からペンを持って行っても何も言われなかった……と。

 紙に、刀利 好矢と自分の名前を書く。学長からヨシュア君と呼ばれているんだから、それでいいだろうに……と思ったが、この世界に来て一日も経っていないので、

学生長にこうして名前を書いた紙を渡すのが、暗黙のルールである可能性もあるため、それに従った。



「……刀利 好矢……」

 彼女は俺の名前をこの世界で初めて呼んだ。



「!?」驚いていると、ソフィアは続けた。


「好矢でいいか?」


「あ、あぁ……」

 本来なら、ただ自分の名前を書いてそれを読まれただけなので、驚くことはないのだが、初めて名前を呼んでもらえた。

 驚きと共に、嬉しくもなっていたのだ。


「では、これから好矢くんを我々の教室へ連行する」


「連行って……連れて行くでいいだろ……」


「連れて行く……を、魔導語の上級言語である漢字で書くと、連行になる」

 魔導語(日本語)の上級言語は漢字なのか……呼び方もそのまま、漢字……と。覚えておこう。

 ただ、連れて行くと、連行する……これらは直接的な意味は同じではあるものの、少し違う気がした。

 遊園地に連行する、警察署に連れて行く……後者は使うかもしれないが、遊園地に連行する、なんてウケを狙っているのか、遊園地恐怖症の人なのか……


 ソフィナから歩きながら聞いたのだが、これが魔導語の面白いところでもあるらしい。

 例えば、火属性攻撃魔法を使う場合、魔導語で「火」「炎」「火炎」「業火」「爆炎」「獄炎」など、どれを書くかによって、言葉の意味合いと自分の魔力で威力や効果が変化するらしいのだ。

 なるほど、奥が深い……ところで、どこに書くのだろう?


「ここが我々の教室だ。入るぞ」ソフィナはそう言うと、勢い良くバーン! と開けた。

 ツカツカと教壇の前へ行き「お前達! 今日から入った編入生を紹介する!」

 おいおい、勢いがすごいな……

 皆の注目が開きっぱなしのドアにいく。そこから入ってくる黒髪の男。

 彼女の隣へ行き「えっと……刀利 好矢です。よろしく」と言った。


 今は学生たちが集まっているだけで、特に講義はやっていないようだった。ソフィナが学長に呼ばれたので、集まっただけかもしれないが。

 ……と、思っていると、集められた理由をソフィナが話した。


「さて、今日みんなに集まってもらったのは、今月末にある模擬戦の構成だ。好矢くんは最後に私のチームに加えることにする。これに対して異論はあるか?」


 …………。

 ないようだ。正直右も左も、魔法の発動の仕方も分からないので良かった。


「……模擬戦は、トーナメント形式で行う。ただし今月の模擬戦は、最弱パーティも決めることにする!」


 教室内がザワついた。


 ソフィナの話では、全8パーティでトーナメント形式で模擬戦を行うとのこと。

 つまり、8パーティ→4パーティ→2パーティ→優勝……ということになる。

 ただし、最弱のパーティも決めるということで、負けた4パーティでバトルロイヤルし、その後負けた2パーティ同士が戦い、バトルロイヤルに勝ち残ったパーティはその後2パーティと続けて戦い、8パーティ全てに強さの序列を作る……ということだった。


 1パーティ3人で構成され、物理攻撃は杖による攻撃、体術も使用することも可。魔法に制限は特に無い。

 試合中は、実戦教官が防護フィールドを展開しているので、大怪我や死亡のリスクは魔導士の腕が教官を凌駕して居なければ、ほとんど無いとのこと。




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