第七話◆学生長ソフィナ・ヨエル
部屋の中の男性は、茶髪に真っ赤な燃えるような紅い眼をしており、鼻の下と顎には綺麗に髭が蓄えられていた。
顔は、日本人らしい見た目をしている。元の日本で見れば、瞳が黒ければかなり清潔感のある素敵なおじさま……といった雰囲気だ。
部屋自体は殺風景で、床は少し古くなった石の床。部屋の中央には2人掛けのソファが向かい合せに置いてあり、その間には大き目のテーブルが置かれている。
そして、その奥に長椅子と黒いテーブルがあった。
逆に言うと、それ以外何もない。本棚すらも存在しない。テーブルの上に何冊かの本が置いてあるだけだ。
「初めまして。私は、この国立魔導学校の学長、シルビオ・ストレイス。46歳だ」
学長になる年齢としては、かなり若い。相当すごい人なのだろう。シルビオ学長はそのまま続けた。
「トール・ヨシュア君は、魔導語を使う人間だと聞いたが、本当かね?」
「本当かどうかは分かりません」正直に答えた。
「なに……?」
シルビオ学長は、ピキッと額の端が動いた。それと同時に目付きが非常に鋭くなった。
うわ怖っ……。
「普段使っている文字を書いたら、門の兵士さんに魔導語だ……と言われただけです」
「その文字を見せてくれ」
そういって、シルビオ学長は立ち上がり、ソファが置いてある方のテーブルの上に手をかざした。すると、手が淡く光ったかと思うと、いつの間にか紙とペンがその場に現れた。
今のが魔法……? すごい! 魔法でこんなことまで出来るのか……! と関心していると、「どうしたのかね?」と声を掛けられ、我に返った。
好矢はソファに腰掛けると、ペンを取って紙に「初めまして。僕の名前は刀利 好矢です」と書いた。
シルビオ学長はその紙を手に取ると読み上げた。「初めまして。僕の名前はトール・ヨシュアです」
やっぱり名前は解ってもらえてない……。
「驚いた……ここまで魔導語を完璧に扱えるとはな」
そう言いながら、持っている紙を裏返しにしてテーブルに置いて言った。「今度は私が喋った言葉を魔導語で書いてくれ」
そう言って、シルビオ学長は続ける。
「私、トール・ヨシュアは、国立魔導学校トーミヨの二学年へと編入し、必修科目として魔法学を専攻する」
長かったので、途中で一、二度聞き返しながら、スラスラと魔導語を書いていった。言われたことを日本語で書けばいいだけだから、簡単なものだ。
ただし、名前の部分だけは、刀利好矢と書いた。案の定、無駄な足掻きで、名前をトール・ヨシュアと読まれてしまった。
「よし……」シルビオ学長は立ち上がり、自分のデスクにある数冊の本と、机の引き出しから、その数冊の本が入りそうなカバンを好矢の目の前のテーブルに置いた。
「これは、魔法学の教科書。こっちは、植物学。そしてこっちは、魔導医学書だ。そして、この三冊がノートだ」
医学書……という言葉に強く反応し、魔導医学書と書かれた物を手に取り、パラパラとページをめくる。
しかし、日本にある医学書とは随分違い、聞いたことのない治療法が書かれていた。魔法のヒールであったり、解毒ポーションの調合などが載っていたからだ。
「さて、ヨシュアくん。何故キミを突然、我が校へ入学させるという話をしたか……という話をさせてもらうが……」
そう言って彼は自分の顎髭を撫でながら続けた。
「まず、この町の門番には、素性の判らない人間が現れた場合、とりあえず私に会わせるようにと伝えてあるんだ」
んん? 何でだ……?
「理由は、極々稀だが、この世界へ異世界人が迷い込んで来ることがあるのだ。そこで、それらしき人が現れた場合、この街……あるいは、この学校で身柄を保証するという決まりを作った……」
「身柄を保証してくれるのは助かりますが……どうしてまた?」
素直に疑問を投げかける好矢。話がうますぎる。
「理由は簡単だ。この世界は危機に瀕した場合、外から異世界人を呼び寄せ、その問題を解決してもらって、今まで存続してきていた世界なんだ」
「そんなメチャクチャな……でも、今は俺自身、強くありませんよ?」
「うむ……ほとんどの場合は、そうだろうな。だから、この魔導学校で学んでほしいのだ」
「とりあえず、理解はしました。この世界の危機を救う為に俺という異世界人が飛ばされてきた。そしてその危機を救う力を付けるために、この学校で力を付けてほしい……ということですね?」
「うむ、何も知らない者に頼むのは本当に申し訳ない……だが、ここは一つ、頼みを聞いてくれないだろうか?」
学長は申し訳なさそうに頭を下げてきた。
この人は悪い人ではない。俺の直感がそう言っていた。
「まぁ、やれることは頑張りますよ。あのまま街に入れなかったらどこかで野垂れ死んでいた可能性が高いので……」
好矢がそう言うと、学長は顔を上げて「ありがとう」と言っていた。
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シルビオ学長と少し話をしていると、コンコンコンコン……と、ノックが聞こえた。
「入りたまえ」シルビオ学長が言った。
その言葉を合図にドアが開き、ふわっと良い匂いが漂ってきた。その瞬間、薄い紫色のロングヘアーをなびかせながら、美しい顔立ちの女性が入ってきた。
この人も日本人らしい顔だが、日本人に多い、かわいい顔というよりは、美しい顔をしていた。
「失礼致します。二年次魔法学専攻、学生長ソフィナ・ヨエル。只今参りました」
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