いくぜ! 野郎ども!

 優勝者ゆうしょうしゃへのコメントを聞いて、まとめに入るかと思われたが、おこなわれなかった。

 なにやらさわがしい。

 台が撤去てっきょされる。レトロファイトのアーケードばん筐体きょうたいが八台、姿を現した。

 主催者しゅさいしゃからのサプライズで、アーケードの共闘きょうとうバージョンが運び込まれた。八人が先行プレイできると言われる。

共闘きょうとうってお前、別ゲーじゃねえか!」

 ケイは激怒げきどした。トップ8の面々めんめんが、壇上だんじょうで説明を受けていた。

 納得なっとくしているナイナ。

「アサトの言ったとおりだね。やっぱり宣伝せんでんだった」

無茶振むちゃぶりしやがって。やるからには勝つぞ!」

 気合きあいを入れるケイ。全員が同意した。操作は同じなため、八人の猛者もさには問題ないようだ。

 ボス敵についての説明。ヘヴィタイプよりさらに一回り大きい程度。あしが四つあり、付け根に武器ぶきがある。あまり速く動けないが火力がある、というものだった。

 初見しょけんの上、八人必要、という時点で勝利しょうりへの道筋みちすじは見えない。

 やっつの筐体きょうたいにそれぞれが座り、横向きの操縦桿二そうじゅうかんふたつに各自手かくじてばす。

 ロボットのコックピットのような操作システムが起動きどう

「いくぜ! 野郎やろうども!」


 サプライズの共闘きょうとうが始まった。画面の地図を見るケイ。

 二名ずつ近くに配置はいちされ、ボスから離れた場所で囲む形になっているようだ。

 接近せっきんしている途中で現れる、一人用モードで登場した雑魚敵ざこてき複数ふくすう

「聞いてないぞ。こんなことしたやつ、あとで土下座どげざさせてやる」

 憤慨ふんがいしながら雑魚敵ざこてき撃破げきは。連続で重い音が鳴る。

 そのあと、地面のトラップにかかりそうになり、寸前すんぜん回避かいひした。

 ナイナの声が、小さく聞こえる。

「ごめん。クセで使っちゃった」

「おい。味方の攻撃食こうげきくらうのかよ。敵より味方のほうがヤバイんじゃないか?」

 フィールドは通常対戦つうじょうたいせんのときよりも広い。ベースは荒野と同じ。

 全員が、無傷でボスの近くまで辿たどいた。

 巨大な敵は、濃い紫色で禍々まがまがしい見た目。への字型のあしに吊るされる本体。蜘蛛くものようだ。

 あしの付け根から、大出力だいしゅつりょくエネルギースナイパーライフルが現れた。すぐさま発射はっしゃされ、灰色の機体きたいける。

両肩武器りょうかたぶきか。ほかあしにもヤバイのがいてるんだろうな。なんとかしてくれジョフロワ」

 本来は両肩武器りょうかたぶきである、短射程たんしゃていエネルギー砲付ほうつきのドローンぐん射出しゃしゅつされた。近距離組きんきょりぐみは、接近せっきんあきら一時後退いちじこうたい

 ジョフロワが遠距離えんきょりから、あし的確てきかくにダメージを与えていく。

「どう考えても、遠距離主体えんきょりしゅたいのほうがいいだろこれ。初期装備しょきそうびはミスったな」

 ぼやきながら、ケイは長距離ちょうきょりエネルギーほうを命中させた。ボスの紫のあしが一つ破壊はかいされ、動きが止まる。

 射出しゃしゅつされたドローンのほとんどをち落としている、ボニーとナイナ。

 これで接近せっきんできる、と思ったのもつかあしの付け根から、本来は背中の左右と両肩を同時に使用する武器ぶき。現れたのは、マントのような形状けいじょうの、全方位中距離ぜんほういちゅうきょりエネルギーほう

反則はんそくだろ! みんなに注意を叫んでも、声届かないだろうな。どうする」

 近接戦闘きんせつせんとうの途中だったフリードリヒがマントに気付きづく。

 全力で後退こうたいしながら、飛んできたたまけた。さらにける。ながれるような動きだ。紙一重かみひとえ回避かいひし、無傷むきず間合まあいを離した、パージ済みの機体きたい

「さすがだぜ。しかし、会場かいじょうがうるさくて声が聞こえないな。協力プレイできないだろこれ」

 ボスのあし換装かんそうされた。濃い紫の巨体が再び動き出す。

 あしの付け根から振り下ろされた巨大な実体剣じったいけんけ、カウンターでナイフを当てるケイ。

 ドローンの追加が射出しゃしゅつされた。それを、ボニーとナイナが一瞬いっしゅんち落とした。

「違う」

 何かに気付きづいたケイは、つぶやいた。

 ダニオは普段どおりジャンプしている。

おれたちは元々、協力してきたんじゃない」

 エリシャはこんな状況でもドリルを使っていた。

「みんなの動きは、言葉がなくても分かる」

 キャロルは、至近距離専用しきんきょりせんようビームナックルを当てていた。

「ライバルたちの攻撃こうげきをよけながら、ボスにダメージを与えるだけの簡単かんたんなゲームだな」

 みんな、ある程度被弾ていどひだんしていた。しかし、大半は味方の攻撃こうげきによるもの。

 ケイの表情がゆるむ。

「この状況でおれが何をするか、言わなくても分かるよな。お前ら」

 残りHPがわずかになったボスに、灰色の機体きたいは突っ込んでいった。右腕の換装準備かんそうじゅんびをしながら攻撃こうげきをかいくぐり、短距離たんきょりビームほう至近距離しきんきょりで当てる。

 ミドルタイプへの換装かんそうで、すきを消した。振りかぶる巨大な可変式実体剣かへんしきじったいけん

 攻撃範囲こうげきはんいにいたボニーは直前で回避かいひ。ケイが笑う。

 八人の挑戦者ちょうせんしゃたちは、ボスを撃破げきはした。


「もう少しで、ジョフロワ一人でいいんじゃないか、って言われるところだったぜ。危ない」

 ケイは安堵あんどしていた。

 司会者しかいしゃが言う。

「おめでとうございます。まさか撃破げきはしてしまうとは。素晴らしい」

優勝者ゆうしょうしゃからのメッセージってやつ? 大事なこと言うから、ちょっと静かにして」

 マイクを渡されて、いつもの調子でケイが言った。

 会場かいじょうがすこし静かになる。

「世界には今、苦しんでいる人がいます。私はその人達を必ず助けます」

 赤いカーディガンを羽織はおった、淡いピンクのワンピース姿の少女が言った。

 急に雰囲気ふんいきが変わり、辺りはざわついた。

「人間が快適かいてきな生活を追い求める中で発生した、小さな粒子りゅうしが、身体からだ呼吸器こきゅうきの弱い人を苦しめているのです。私もその中の一人です」

 遠くから、私も助ける、というサツキの声が聞こえた。

「これからたくさん勉強して、かならなんとかします! だから、みなさん、私に力を貸してください。お願いします!」

 頭を下げた長い黒髪の少女に、拍手はくしゅが送られる。

 前を向き、笑顔で返したケイが目を閉じると、なみだがあふれた。


 そのあとのケイは、普段と同じだった。

 撮影さつえいでは、手の甲を向けて力を入れているようなポーズで、笑いをさそった。

 選手せんしゅたちや友人と話をする。

 メッセージが届いていた情報端末じょうほうたんまつ。父親から。

【楽しんでこい】

 とだけ書いてある。

 返事をして、友人との雑談ざつだんに戻る。

 みんなは、主催者しゅさいしゃ無茶振むちゃぶりりにまだ腹を立てているケイに笑った。

「気分が収まらないなら、どうだ? これから一勝負ひとしょうぶ

 フリードリヒがさそった。

「いいね。でもどこで?」

主催者側しゅさいしゃがわが用意してくださったホテル、明日まで使えるのですよ」

 ジョフロワが答えた。

「よし! いくぞ、お前ら。全員ボコボコにしてやるぜ」

 ケイがえた。理不尽りふじんな怒りを向けられて、キャロルはおびえている。

「……」

「大丈夫だよ。怖くないよ」

 ナイナが優しい言葉をかけた。

「はっはっは。いいね。行こう」

 ダニオは、普段どおりほがらかな表情。

 幕海まくうみホテルは近い場所にあるため、みんなで歩いて向かった。川の側の道を進む。

 エリシャが、眉を下げながら口元をゆるめる。

「ドリルで倒したかったな。くやしい」

「ロマン武器ぶきすぎるんだよ、ドリルは」

 笑いながら答えたボニー。

 ホテルのロビーを通り過ぎ、エレベーターで上に向かう。

 部屋に着いたケイたち。たたみに上がる前に靴をぐ。

 すでに対戦たいせんする気満々で、準備をするライバルたち。

「さすがに、ホノリさんやユズサさんは呼べないかな。いや、駄目元だめもので言ってみるか」

 アサトはどこかへ行った。

 ケイが、隣のミドルヘアの少女に聞く。

「そういえば。あの本、読んだ?」

「うん。短編集たんぺんしゅうっていうんだね。わたしにも読めたよ。面白かった」

 大きな目をすこし細めて、サツキが答えた。

「いっぱいあるからさ、今度次の貸すよ。お礼は何か貰うけどな」

 嬉しそうなケイを見て、サツキは何かを思い出した様子。嬉しそうな顔になる。

優勝ゆうしょうしたし、これで、アバター変えられるね」

おれ、アバター作るの苦手にがてなんだよな。教えてくれよ」

 ケイが告白こくはくした。

「うん。でも、わたしから教えられることがあるなんて」

「そんなの沢山たくさんあるだろ? 目の前に――」

「おーい。やらないのか?」

 フリードリヒに声をかけられた。

「いいよ。ライバルと戦えよ。リベンジマッチでさ」

 長い髪の少女は、柔らかな口調で伝えた。

「わたしたちも、やろっか」

 サツキの言葉に、ケイは満面のみで答える。


 しばらくして、世界をおおっていた暗雲あんうんは晴れた。

 それは、別の物語。

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換装少女 多田七究 @tada79

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