第22話 問いかけの謎
まさかの展開に、オミクロンは目を丸くしていた。
「まさか――まさか本当に召喚獣を……あの体制不利な状態から仕留めきるとは――」
驚きの表情を浮かべていたのも束の間、その幼い外見とは裏腹に真剣な表情に変わる。
「――これは……やはり……」
オミクロンがそうつぶやいた時だった。四人の少年少女は武器を向けながら彼に向き直っていた。
「散々時間使わせてくれただな!」
「ついでに体力もね」
「でも、ここまでよ!」
「そうだそうだぁ~! 闇の石から手を引くことだぁ~!」
四人のその言葉にオミクロンが舌打ちしたその背後で、場違いな明るい声が響いた。
「出たぁーーーっ!!」
思わず驚く四人と一人の目の前で、あのデルタが穴から飛び上がった。その姿を見て四人とも息を飲む。
「あ、あの石は――」
「闇の石だべ!!」
そう、飛び上がったデルタの手のひらには、あの黒い闇の石が浮かんでいたのだ。
「くそっ! 手に入れさせるもんかっ!」
デルタのその姿を確認するや否や、シンジがその右手の剣で狙いを定めて叫んだ。
『
呪文と共に氷の剣先から、氷のつぶてと風がデルタ目かけて一直線に吹き出した。それに気付いたデルタがハッと目線を向けた時には、すでにその攻撃は目前に迫っていた。しかし――
『パリエス』
激しい雨風が当たる屋根のような音を響かせて、シンジの放った魔法は全てその魔法陣に
「むっ」
「――っとびびった……」
その様子に魔法を発動した青髪の少年は
「な、なんだよ、オミクロン……。オレをかばうなんて珍しいな」
デルタの正直な発言に、彼の方を見向きもせず幼子は鼻を鳴らす。
「闇の石を見つけ出し、ペルソナ様に届けるまでが我らの役目。デルタも油断するな」
「ちっ……わかってるよ」
不機嫌に一言漏らすと、デルタはすぐにくぼんだ床から這い出てきた。
「ここでこのまま逃すわけには行かないだべ!」
そんな敵二人にシンが叫ぶと、思いがけずオミクロンがその緑の瞳を細めて笑った。
「それは私のセリフだ。お前たち、闇の石を持っているだろう?」
その言葉に、シンとシンジが警戒するように構えをとる。それを見て幼子の目がさらに細くなる。
「お前が持つ風の短剣――それは風の闇の石の力を武器化した姿……。そして闇の石の地図となる光の闇の石のかけら――。そして恐らくはその青い少年が持つ水の闇の石……。ペルソナ様はそれら闇の石を必要とされている……。お前たちには出来すぎたものだ。渡してもらおうか」
高圧的なその言葉に、反射的に双子が叫ぶ。
「誰が渡すか!」
「渡せと言われて渡すバカはいねーだべ!」
反抗的なその言葉に、オミクロンがうっすらと笑った。不気味なほど大人びた表情で口の端を
「――ならば力づくで奪うまでだ――!」
そう言ってまたオミクロンが両手の甲を光らせた。その様子に双子は息を飲む。
「あの動きは――!」
「また召喚術――!?」
先程の戦いで、大きな怪我こそはなかったが、正直体力は
「そこまでよ」
空間をゆらめかせるように女性の声が響いた。その声にシンたちだけでなく、オミクロンもデルタもはっとする。
「この声は――」
「エプシロン――?」
オミクロンの呪文を唱える声が止まり、そんな彼の背後の空間が水面のようにゆらめいた。そしてその水面から浮かび上がるようにして現れたのは、想像通り水色の女性、エプシロンだった。
「エプシロン……なぜ止める?」
思いがけず味方に攻撃を止められたことに、少なからず不満を抱いたのだろう。にらむように彼女を見上げるオミクロンに、エプシロンは静かに視線を投げていた。
「――ペルソナ様のご指示だからよ……」
その言葉にオミクロンは沈黙する。口をはさんだのはデルタだ。
「え、マジかよ、今ならオレたち三人でこの四人と戦えるんだぜ? ここでやっちまったほうがいいじゃねえか!」
「邪魔者がここに来ようとしているの。いちいち
デルタにそう告げる彼女の声は心なしか沈んで聞こえた。その声色にデルタが口を閉じる。
「――そういうことであれば仕方ないな……」
オミクロンはすぐにそう答えると、急にくるりと背を向ける。突然の態度の変わりように四人の子どもたちは一瞬ポカンとしていたが――
「あっ! ま、待つだ!」
「はっ! 逃げる気かっ!?」
事の流れに気がついて、双子があわてて声をかける。その言葉にオミクロンが答えるより早く、デルタが偉そうに叫ぶ。
「誰が逃げるかよ! 今回はこの闇の石を手に入れることが狙いだからなっ! だが見てろよ、次に会った時は必ず――」
「ハイハイ、アンタは石ごと早くこっちに来なさいな」
「いてっ! ま、待て、耳引っ張るな! いててててっ! いた、痛いっ!痛いって!!」
全てのセリフを言い終わらないうちにエプシロンに片耳をつままれ、そのまま引っ張られるようにデルタはあのゆらめく空間に引きずられた。
「あ、待つだ!」
その様子にシンがあわてて攻撃を仕かけようとするが――
『
「パリエス」
シンの放った風の刃は、またもオミクロンが瞬間的に作った半透明な魔法陣に
「むっ、またやられただ――!」
「今回はお互いここまでとしようではないか。お前たちの石は見逃してやる。今はな」
悔しがるシンに向かって、うっすらと光る魔法陣の向こうでオミクロンが言い放つ。
「何を――!」
「待って!」
オミクロンに
「ヨウサ……」
「ヨウサちゃん……」
双子が思わず彼女の名を呼ぶと、ヨウサはエメラルド色の瞳をちらと壁に向けてささやいた。
「今はトモくんたちを地上に戻す方が先よ。ミランたちも助けなきゃ……」
その言葉に双子はハッとしたようにヨウサの視線の先を見る。部屋の
「……確かに……」
「今はここから抜け出す方が先だね……」
双子がそうつぶやいた時だ。空間を震わせる音が響いて四人は顔を上げる。見ればすでにエプシロンもデルタもいない。あの空間のゆらぎとなる部分が大きくゆらめき、間もなくそのゆらぎが消えようとしているのだ。二人はすでにその向こうに行ってしまったのだろう。
その水面のような空間のゆらぎの前で、オミクロンがただ一人、彼らを無言で見つめていた。それに気がついて、シンは静かに口を開いた。
「――次に会った時は、必ずおめーらの悪事を止めてやるだべ!」
シンがにらみつけるように言うが、彼は無反応だった。それに
「お前たち……確かに危険因子であることはよくわかった……。だが……一つ尋ねる」
と、オミクロンは目を細めた。
「お前たち、『影』と名乗る者を知っているか?」
「へ?」
「か、かげ……?」
その言葉に双子は顔を見合わせた。何のことを聞かれているのかわからなかった。目線をヨウサとガイに向けても、もちろん彼らにも心当たるものなどない。
思わず首をかしげあう四人に、オミクロンは深く息を吸った。
「――そうか。……ではさらばだ」
「あっ……」
彼らが質問の意味を尋ねようと思ったが、時すでに遅し。茶髪の幼子は、あのゆらめく空間の向こうに消えてしまったところだった。四人が見守る中、水面のようなゆらぎはふわりと消え、あとには沈黙し
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます