第14話 謎のメッセージ

 二人と一匹はもと来た道を回れ後ろして、例の壁の場所まで戻ることにした。おそらくその壁の仕掛けが、この闇の石で解決するだろうと予測していた。


「しかし、あんな魔物がいるとは、びっくりだべさ」

 今回、水そのものが魔物化したものを見るのは初めてというシンは、今更ながら驚いているようだ。そんなシンに、キショウもあごに手を当てながら答える。

「オレもあまり見たことはないがな。しかし悪霊系の魔物でよかったな。精霊系と戦うことになったら正直やっかいだったからな」

 相変わらず彼にはシンの頭に乗っている。

「なるほどね。だからなのかなぁ? ペルソナ、この石奪いにこなかったの……」

 キショウの言葉にシンジは闇の石をライトにかざし、眺めながら答える。

「精霊系の魔物が石を守っているかもしれないと思ったから、後回しにしてたのかな?」

「あー、ありえるだべな! ペルソナのヤツ、上で何か策を練っていたのかもしれないだべ! 先回り、今回も成功だべな!」

 シンジの言葉にシンが腕を振りかざして喜ぶと、シンジもうん、とはしゃぐ。しかし、

「はたしてそれだけかな……。オレは正直、いやな予感がするぜ」

 と、キショウははしゃぐ二人の気持ちに水を差す。

「なんだべ、キショウ! 何が気になるだべ!?」

 予想外な発言に、あからさまに不機嫌振りを顔に出し、シンが抗議する。キショウは足元の怒る子どもにまぁ、喜ぶ気持ちもわかるがな、となぐめる一言をかけて続けた。

「お前らの言うように、後回しにしていたところを、先回りできたって可能性はあると思うぜ。だがな……この二階部分でさ、一体何をしているのかが気になるのさ。結界まで張って、しかもそこから動かないんだぜ。……いかにも怪しいじゃねーか」

「そりゃ確かにそうだけど……」

 キショウの言葉にシンジもまゆを寄せて険しい表情をする。シンはそんな二人に強気に声をかける。

「そんなの、悪巧みに決まってるだべ! 何してるかは知らないだべが、早く行って、とっちめてやるだ! それ以外にやることはないだべよ!」

 その発言にシンジも表情を明るくしてうん、と同意する。そんな様子に思わずキショウが噴き出した。それを見てシンが噛み付く。

「何がおかしいだべさ!?」

「いや、おまえらシンプルでいいよな。お前らのそういうバカなところ、オレ、嫌いじゃないぜ」

 キショウが珍しく明るい声でそんなことを言うので、シンは目をぱちくりさせて、

「……そ、そうだべか? うーん……まぁそれならいいだべ……」

と、返事に詰まる。一方でシンジも首をかしげる。

「それってめられてるのかな? バカにされてるのかな?」

 

 そんなやり取りをしている間に、例の壁の所まで辿たどり着いた。さっそくシンジが手に持った闇の石を壁にはめ込むと、石は呼応するように一際輝いた。

 すると、その闇の石から広まるように、壁の模様が筋となって、隅々すみずみに光が走った。まるで水路に水が流れ、それが広まっていくかのように。

 模様の光が壁一面に広がると、壁自体も一度輝いて、それは静かに透明になった。しかし姿がガラスのように透けただけで、模様はそのガラス面に描かれたまま、壁はそこに立ちふさがったままだ。

 どうしたものかと一瞬考える双子だったが、その真ん中に強い光が走っていることに気がついた。シンがそっと壁を押すと、それはまるで扉のように、壁の半分だけが奥に開いた。

「おお、これで入れるだべな」

 一体どういう魔法になっているのかは知らないが、シンは透明になった壁を押し、中に入った。シンジも後に続き、おっと、と闇の石を取り外すが、壁はまだ光ったままだ。どうやらしばらくは扉化しているらしい。ひとまず、これで地下迷宮はクリアである。


 扉の奥に入ると、その空間もまた水色の壁にいくつもの模様が描かれていた。今度はただの広い空間ではなく、いくつか部屋に分かれているようだった。シンが首をかしげながら本を開くと、キショウがでしゃばって本を操作した。もっとも、キショウが操作した方が早いので、二人とも任せてしまっているのだが。

「……どうやら、ここはフツーに部屋みたいだな。昔のやつらが使ってたんだろ」

 しばらく本をのぞき込んでいたキショウがそういうと、またシンの頭に戻り奥を指差した。

「この部屋はたいした物はないぜ。さっさと上に行こうぜ。この先だ」

 しかし、キショウがそういうよりも早く、あちこちのぞきに行ってしまうのがこの双子だ。早くもシンジが壁の書かれた文字を指さし、シンとキショウを呼ぶ。

「見てみて! またこれ超古代文字じゃない? ねぇ、キショウ、これなんて書いてあるの?」

「ほんとだべ! キショウ、読んでくれだ!」

 双子の好奇心に勝てるわけがない。頭を抱えながらキショウは双子の指示に従う。

「さっさと上に行かなくていいのかよ、全く……。ええと……これはだな……」

 ぐちぐち言いながらも、壁をのぞいたキショウだったが―—

 壁を見た途端とたん、動きが止まった。

「……? キショウ? どうしただ?」

 いつまでたっても文字を読み上げないキショウに、シンが声をかける。

「……いや、この文章……」

「え、何々!? 何が書いてあるの!?」

「早く読むだ! 気になるだべさ!」

 なかなか読まないキショウに、双子が期待を膨らませて急かす。しかしその双子の様子も気にならないほど、キショウはその文章に釘付けだった。読めはしないのだが、シンもシンジもその文章を思わず見上げる。

 今までの短い文章と違い、その文章は壁一面に長々と書かれていた。しかもよく見ると、文字自体、ただ彫られただけではなく、更に何らかの装飾を施されたような跡があった。壁そのものもその部分だけ色が違い、明らかに何か特別な意味がある文章のようである。

「……一体何がかいてあるんだろう……」

「キショウ、いい加減読んでくれだべ!」

 しびれを切らしてシンが声をかけたその時だ。

 ぐらぐらと大きく神殿がゆれた。地響きがして二人は思わず足をよろめかせる。

「地震だ!」

「こんな所でだべか!」

 確かに最近地震は多かったが、まさかこんなところで、と双子はほほを膨らませた。

「まさかこの城自体が崩れることはねぇだか!?」

「さすがに大丈夫だとは思うけど……」

「……シン、シンジ、こりゃ早く上に上がったほうがいいぞ!」

 唐突とうとつにキショウが声をかけた。まだゆれは続いている。

「え!?」

「く、崩れるだか!?」

 思わず双子が問いかけると、キショウは予想外のことを口にした。

「神殿がやばいんじゃない! 二階のペルソナってヤツがやばいんだ!!」

「どういうこと!?」

「まさかペルソナの身が危険ってことだべか? 何いってるだべ! あんなヤツのことは全然心配しなくていいだべさ!」

 とっさに双子が反発すると、キショウは間髪かんぱつ入れずにそれをさえぎった。

「アホ! そっちじゃねえ!! もしかするとそのペルソナが、やばいことをしてるかも知れないって言ってんだよ!!」

 その発言に思わず双子は顔を見合わせた。事態はよくわからないが、キショウのその声に並ならない危機感を覚えたのだ。二人は即座に、キショウが指さした階段の方向へ走り出した。

「キショウ、案内頼むべ!」

「ついでに上に行きながら、何がやばいのか教えて!」

 双子が駆け出すと、キショウはああ、と返事をして続けた。

「もしかするとだけどな……ペルソナってヤツは、この世界を崩すつもりかもしれん」

「ええええええ!?」

 地響きが続く中、双子の悲鳴がこだました。



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