第11話 不可解な放置
本の地図を頼りに三人は地下の迷宮を進みだした。さすがにシンジのライトだけでは道がよく見えないらしく、今度はキショウがライトと同じような術を用いて道を照らした。光系の術が苦手なはずの闇族だが、なぜかキショウは難なくライトと同様の術を使うのだった。キショウの作ったライトは、シンジのそれよりも明るく、精度も高い術のようだ。
「しっかし、キショウも変わってるだべな。闇の一族って光の術がもともと苦手って聞いてただべよ」
頭の上で魔法で作られた光の玉を操る小鬼に、シンが感心して声をかける。キショウはその問いには力なく、ああ、と答える。
「これは普通の光系の魔法じゃねーんだよ。ちょっと特殊な術でな」
そう言われ双子はそのライトの光の玉を見つめる。確かに通常のライトの術では見られない奇妙な文字が光の玉の中をクルクル回っている。おそらくシン達のいる精霊族の世界では伝わっていない、闇族特有の術か何かなのだろう。
「それより、警戒は続けろよ。住み着いている魔物はうようよいるからな」
双子の思考をさえぎるようにキショウが緊張感ある声でささやく。三人が歩く通路の向こう側に、カサカサと何かが動き回る音がする。シン達の気配に気がついて、魔物たちがうごめいているのだろう。
「心配はいらねーだよっ!」
「今度は三匹いるよ!」
シンの声を合図に双子は戦闘体制に入る。通路の先から、うごめく三匹の魔物が近づいていた。その身体は巨大なヤモリのようで、身体の表面がぬめぬめと
「水に住むマテリアル系の魔物だべな!」
「ありゃりゃ、じゃ、先攻はお願い!」
瞬時に敵の種類を見分けると、同じく瞬時に戦略を見極めた。
『
シンは手のひらを合わせ燃え盛る炎を生み出した。この魔物は動きは遅いが、ジャンプ力が
今度はその悲鳴がやまないうちに、青白い
キショウは双子の
「よっし! 今日もタイミングばっちりだべな!」
魔物を仕留め終え、後ろを振り返ってシンがにかっと笑うと、シンジもへへっと得意げに笑う。敵がいなくなったのを見計らって、キショウも双子の下に降りてくる。
「しっかし、戦い方を見ていると、お前ら確かに双子だな」
「あったりまえだべ!」
「何年二人で修行したと思ってるのさ」
キショウのほめ言葉に双子は得意げに顔を見合わせて微笑む。キショウはそんな二人を見て、軽く口をゆがめて微笑み言葉を続ける。
「タイミングも素人とは思えねぇが、何より、お前ら、ずいぶん敵を見極めるのがうまいな。よく戦い方をわかってるぜ」
キショウのほめ言葉に双子はそりゃね、あたりまえだべ、と上機嫌だ。こういう様子は相変わらず子どもなんだな、とキショウは気が抜ける。
「でもキショウ。道はまだ先? はやく闇の石を見つけたいよ!」
シンジがぴょんぴょん跳び上がりながら訴えると、シンも握りこぶしを振りかざし叫ぶ。
「ペルソナが奪いに来る前にさっさと奪っちまうだ! 悪巧みに使われたらどうしようもねーだべからな! それに」
と、シンはそこでシンジに向き直り続ける。
「今度の石は青いから水の闇の石だと思うだべさ。水の石、もしかしたらシンジの役に立つかもしれないだべ」
その言葉にシンジもうん、とうなずく。
「そしたらシンみたいに、ちょっとレベルアップするかもしれないしね! 楽しみ~!」
はしゃぐ双子にキショウはライトで先の道を照らし、歩みを促す。
「だったらちんたらしてねーで、さっさと行こうぜ」
「はぁーい!」
双子のその明るい返事は、暗い地下通路に思い切り不似合いに響いた。こいつらの好奇心と探究心には恐れいるぜ、とキショウは内心感心しつつもため息がこぼれた。
しかし、キショウには一点、
出てくる魔物は、双子のコンビネーションの前ではさして障害にならなかった。マテリアル系のような、物質攻撃や炎が通用する魔物なら、シンの炎とシンジの氷の剣で対応できる。唯一、シンジの水系の魔法が使えないくらいがネックだったが、その程度なら問題はない。
そんな調子で迷宮を歩み続けて、二、三十分したくらいだろうか。ふいにキショウが二人を止めた。
「……待て、これ以上進むな」
「へ?」
「一体どうしただ?」
予想外のキショウの言葉に双子は目を丸くして小鬼を見た。
「地図を見る限り……この広場に闇の石の反応がでてるだべよ?」
そういって、シンは魔法陣の地図を眺めた。シンの両手に広げられた本の地図には、細い通路の先に大広間があり、その中心付近に闇の石の反応が光っているのだった。それを指さし、キショウに訴えると、キショウは軽く首を振った。
「目的のものは近づいていると分かった。だがな」
「まず、入る前にちょっと準備しろってことだね」
少し前方を歩いていたシンジが、振り返ってシンとキショウに数歩歩み寄った。シンジの言葉にキショウが軽く口に端をゆがめる。
「へっ……ようやくわかってきたようだな」
「ああ、後先考えずに突っ込むなっていいたいんだべな!」
ようやくキショウとシンジの会話を理解したシンが、声を大きくする。
「なんだ、キショウもやればできるでねーだか! 人の髪ひっぱらねーでも止められるだべな! さすがだべ!」
「…………」
ほめられているのか、けなされているのか……。微妙なシンの物言いに、キショウもシンジも二の句が出ない。
「……さておき、この広場に闇の石の反応が出てるってことはだな、気をつける必要があるよな」
気を取り直してキショウが双子に問うと、シンもシンジも深くうなずく。
「まず、ペルソナも現れるかも知れねーってことだべな」
「今までもそうだったしね。もしかしたらエプシロンかもしれないし」
「その可能性も、あるな」
双子の問いに、キショウは予想外にそんなことを言った。
「……その可能性……『も』?」
キショウの奇妙な物言いに、シンジが気がついて問いかける。
「ん? どういうことだべ? ペルソナの可能性以外に何かあるだべか?」
そんなのないだべよ~、と笑うシンにキショウは首を振って続ける。
「これは闇族の遺跡にもよくある仕掛けなんだがな。大体重要なアイテムがあるところには、何らかのトラップが仕掛けてある。よく考えてもみろよ。地下三階の水攻めだってそうだろ。何もなしにアイテムが簡単に手に入るわけねーだろ。それに」
と、キショウは声を低くして双子に目配せする。まるで他に聞いているものがいるかもしれない、と
「よく考えてみろよ。オレは一つ気がかりなことがあるんだ」
「え?」
「どういうことだべ?」
キショウの発言に双子も思わず声を低く質問を投げかける。
「この神殿に闇の石があるかもしれないことは、おそらくそのペルソナだって知ってる可能性は高いだろ? だったら、オレたちよりも先にこの神殿に入り込んで、しかも侵入者用の罠まで仕掛けているやつらが、どうしてこの闇の石をまだ手に入れていないんだ?」
「……言われてみれば確かに……」
「ペルソナやエプシロンなら、闇の石を探し当てそうだべしな……。そういや、ペルソナって古代魔法の使い手って、じっちゃん言ってただべな……」
シンの発言にシンジがはっと顔をあげる。
「そうだよ! 超古代文明時代の魔法を使えるってことはだよ、超古代文字だって読めるよね! あのバカそうなデルタだって読めるんだから!」
サラリと毒を吐くシンジである。年下にバカ呼ばわりされたと知れば、間違いなくデルタなら切れることだろう。
「ふぅん……ペルソナも超古代文字が読めるのか……」
そんなデルタ発言には
「だとしたらなおのこと怪しいな……。超古代文字が読めるなら、この神殿を探るのは
キショウの問いかけに、双子は思わず沈黙する。
「……でも、キショウ。行ってみねーとわからねーだべ。ここで迷っている暇はねーだよ」
シンの発言は相変わらずだったが、珍しく真顔で真剣に答えるその様に、思わずキショウの動きが止まる。シンジもその発言に深くうなずいた。
「……そうだね。進んでみないとわかんないしね」
「……ま、今はそれしかねぇか。気をつけていこうぜ」
「わかっただべ」
「罠か……何かがある可能性は高いだろうからね……」
双子の覚悟にキショウも瞳に力をこめて通路の先をにらんだ。
ここまで来ると魔物の気配が不思議なほど遠のいていた。何か不思議な力が魔物を遠ざけているのかもしれない。パタパタと、沈黙した暗い通路に双子の足音が響いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます