第10話 犯人探し
双子とヨウサとガイが教室に戻ると、クラス中大騒ぎだった。
「シン、おまえまた悪さしたんだって!?」
「時計壊したの、シンとシンジなの?」
「いや、お前らホントはやってないんだろ!? 真犯人がいるんだろ?」
……などなど。教室中時計台の話題で持ちきりだった。シンもシンジも、はたまた彼らの友人のガイもヨウサも質問攻めにあった。そんな質問攻めに苦しんでいると、静かに、しかし強い声で制する人がいた。
「みんな、もうその話はストップ! それ以上は二人も困るよ」
級長のフタバだった。
「級長~! おめーもオラたちの味方だべな!!」
シンが助けを求めるようにすがりつくと、隣でシンジが首をかしげる。
「フタバくんは……あれ? 昨日の夜はあれからどこ行ってたの?」
「あ、ホント〜! 途中で二手に分かれてから、見あたらなかったね~」
とガイ。どうやらガイは、昨日途中からフタバがいなくなっていたことに、今気がついたらしい。フタバは三人を見て、うなずいて続けた。
「昨日は先生の所にいけなくてごめん。ガイくんに先に行ってもらっていたんだ。僕も追いついて先生の所に行ったら、もうガイくん、先生連れて塔に行った後だったから……。それで塔に一人で戻ったら、シン達、先生に連れられてて、しかも時計が壊れてただろ。だから、これは大きな事件だなと思って、朝一に校長先生に報告しに行ってたんだ」
「それで校長先生、もうその事件のこと知ってたのね」
ヨウサがつぶやくと、三人も納得するようにうなずいた。その直後、遅れてやってきたレイロウ先生も教室に入ってきた。
「さぁ、何みんなして席を立ってるんだ? まもなく朝の会の時間だぞ。そして、みんなが気になってる今回の事件について、分かっていることを話しておこうか」
それから先生は、クラスのみんなに今回の事件について説明を始めた。いつもは笑いものになることの多いシンだが、今回は級長のフタバも味方をして発言したかいあって、クラスのみんなはシンが犯人でないことに納得したようだった。先生も、『今回の事件は、真相は謎』としてシンたちが犯人でないことを信じている、と話した。
「とはいえ、まだ疑われてはいるよねぇ……」
お昼休み、いつものように校庭でご飯を食べていると、唐突にシンジがぼやくように言った。その言葉にヨウサがジュース片手に質問してくる。
「なあに、今回の時計壊した犯人の話?」
「そ、多分まだ僕らのこと、犯人だと思っている人たち、まだいるんだよね……」
その発言にシンも珍しく難しい顔でうなずく。
「確かにそうだべな。隣のクラスの奴なんか、オラ見た
「ひどーい! 誰よそれ!?」
ヨウサが怒ると、ガイも寝そべっていた身体を起こして眉をひそめる。
「犯人不明というか、シン達がやってないっていう証拠がないから、余計だよね~」
「それもそうだね、誰も犯人見てないんだから、偶然居合わせた僕らしか、あの犯人はわからないよ」
シンジが肩を落とすと、シンもふぅとため息をついた。ヨウサがはっとしたように二人に問う。
「そうだ! 二人はその犯人を見たんでしょ!? どんな人物なの?」
その言葉に、シンもシンジも険しい表情で身を乗り出す。
「不気味な奴だべよ! 真っ黒くて背が高くて……」
「その上声も冷たい意地悪い声してて、それに何より」
「そう! 気持ち悪い仮面を付けてただ!」
シンジの発言を横取りして、シンが大声で怒りもあらわに叫ぶ。
「仮面? お面かぶって正体隠しているってこと?」
ヨウサが首をかしげると、シンジも首をかしげて続ける。
「そうだね……。昨日は不気味な悪いやつ!って思ってたけど、確かにあれは正体を隠すために付けてるよね……」
「正体隠してそんな悪さしていたってことは、相当前から計画立てていた悪人だね~!」
みんなの話を黙って聞いていたガイが、深くうんうんとうなずいて叫んだ。
「これはきっと大事件だよ~!! 時計壊されただけじゃなくて、あの石を捕られちゃったんでしょ~! もぉボク、それシン達から聞いてビックリしたのに忘れてたよ~」
その発言に、シンとシンジがはっとした表情で顔を見合わせた。
「そうだべよ! 忘れてただ!!」
「犯人どうこうの前に、かなり大事なものを盗まれちゃってるよ!」
どうやら、あの闇の石が盗まれた、ということが頭の中から消えていたらしい。今思い出した双子は、緊迫した表情で動きを止めた。シンジが静止して何か考え出すと、その隣でシンが頭を抱えて悶絶する。
「だぁ~! やっちまっただ~!! 犯人扱いされててすっかり忘れてたけど、それどころじゃないだべよ~!!!!」
「ちょ、ちょっと待ってよ、私、話が見えないんだけど……」
唯一、昨日の夜一緒にいなかったヨウサは事態が見えず、三人をきょろきょろと見渡して質問する。しかしそんなヨウサを無視して、三人の会話が続く。
「大体先生たちもひどいだべ!! オラたちを犯人扱いするだけで手一杯で、オラたちの大事な話を聞いてくれないだべさ!!」
「まぁ、あの時計が壊れた直後じゃねぇ~。それよりあいつ、このまま放っておいたら危険だよ~!!」
「だから何が!?」
ガイの発言にまたもヨウサが叫ぶ。
「そうだべよ! あいつがあの石持ってたら、どんな悪さされるかわからねーだ!! あの石の力、おそろしく強かっただべよ!!」
「うん、確かに~! 犯人野放し状態は危険だね~!」
「人の話を聞けぇ!!!!」
ゴツッ!!
絶えかねてキレたヨウサが、シンとガイの脳天に
「ひでーだべ、ヨウサ……。何も
頭を押さえてうめくシンに、ヨウサがほっぺを膨らませて、お怒りの様子で腕組みする。
「シンくんが私の話聞かないからよ。大体何盗まれたのよ? 時計壊すことが、その犯人の狙いじゃなかったってことなの? 石って何よ?」
ヨウサが次々と質問を投げかけると、今まで黙っていたシンジが口を挟んだ。
「……あの仮面のヤツが言ってたんだ。『この石さえ手に入れば、他に興味は無い』って。あいつの狙いは絶対に石だったんだ。時計を壊しに来たわけじゃない。まぁ、結果的に壊しているから、やっぱり僕らはあいつの代わりに怒られたわけなんだけど……」
「仮面の男が狙っていたのは……石? 一体何の?」
シンジの発言にヨウサは興味深々に尋ねる。しかし、そのシンジの真剣な面持ちに、ヨウサも思わず口を閉じる。しばしの沈黙を挟んでシンジが続けた。
「多分なんだけど……。昨日話していた『超古代文明』のアイテムだと思う。昔の人たちが作った、ものすごい力を持った魔法アイテムらしいんだけど……。でも……あれは光の石じゃなかったね。あの仮面の男、あの石を『闇の石』って呼んでた……」
「闇の石?」
ヨウサが再び
「闇の石……。って、たしかフタバくんの話だと、光の石の反対の石だっけ~? 昔の大事件の原因になったっていう…」
シンジの代わりに今度はガイが口を
「え、フタバくんの話がなんで出てくるの?」
「だぁ~!! それよか、さっさとあの男を捕まえないとだべ!! 石も取り戻さないといけねーだが、あいつが犯人だって証明しねーと、オラたち、いつまでも犯人扱いだべ!!」
予想外のところでシンが大声をあげた。ヨウサの回答どころか完全無視だ。
「いや、シン……ちょっとはヨウサちゃんに説明も…」
シンジが見かねて思わず声をかけるが、その一方でガイは話を続ける。
「何か手を打つって、どう手を打てばいいのさ~? どこにアイツがいるのかもわからないし……。しかも捕まえるってどうやって〜?」
「だから、なんで、フタバくんの話が出てくるの?」
「えっと、彼も僕らの話に興味持ったことがきっかけで……」
「あ、もしかしたら、アイツに聞いたらヒントがあるかもしれないだべよ!」
「アイツって、ダレ~? まさか犯人のその人に話を聞こうっての~!?」
「え、アイツってえ? 彼? 彼が犯人?」
「ナニ言ってるだよ、ヨウサ。アイツは犯人じゃなくて、オラたちの仲間だべ」
「え~!? 犯人が仲間~!?」
「あ、いや、ガイの話しているのは犯人の話で、今僕が話してたのが……うん??」
全員が全員、自分の思うことを口にするので、会話がおかしな方向になってきたようだ。話がわけのわからないことになって、再びシンが叫んだ。
「だぁ~~! 何の話してるのか、だんだん分からなくなってくるだ~!!」
そう言って頭を抱えるシンを見かねて、今度はシンジが叫んだ。
「あ~、もぉ! さておき、何か手を考えようってことでどう!?」
「大っ賛成!!」
シンジもシンの傍らでお怒り気味に叫ぶと、全員がその意見にのってきた。とりあえず、作戦会議は放課後に、ということになった。
もっとも、放課後に何かやるべきこと――そう、校長先生に呼び出されていたのだが、そんなことを覚えていられる四人ではなかったのだった……。
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