№164

 幼い頃の記憶です。曖昧なところも多くて、後から人に聞いたこととつなぎ合わせた話ですが宜しいですか?

 私は母と妹と3人で暮らしていました。妹は1歳にもなっていなかったと思います。父親は居ません。当時はそれに疑問を持ちませんでした。それより毎日妹のお世話で忙しくしていました。母は外出したら数日帰ってきません。家を出る前にご飯やお金を置いていってくれて、母はすべて私に任せていたのです。私は母よりも妹と一緒に居る時間が長く、本当にかわいがっていました。母が帰ってくるまでに食べる物が足りなくなったら当然妹を優先していました。でもある日を境に母が全く帰ってこなくなりました。どれほど節約しても食べるものはなくなり、水を飲んで母の帰りを待っていました。何日経ったのか分かりませんが、ふいに妹が話し始めたんです。「コンビニからごはん、盗ってきたらいいよ」って。二人きりでずっと私が妹に話しかけていたので、「しゃべれるようになったんだ」くらいにしか思いませんでした。「そんなことしちゃダメなんだよ」と私が教えると妹は「じゃあ、お散歩に行こうよ」と言いました。私は体がだるいので嫌だったんですが、妹がそう言うならと妹をおんぶして家を出ました。妹は「まっすぐ歩いて」「そこを右」と行きたい方を指示してきました。だんだんと頭がぼーっとしてきて、休み休みになると背中からい妹が「大丈夫?」「もうちょっと歩ける?」と頭をなでてきました。妹に心配掛けてはいけないと「大丈夫だよ」と返事をして自分をだましだまし歩いていたのですが、徐々に体が動かなくなり頭が真っ白になりました。そして気がついたときは病院でした。私は近くの小学校の前で、脱水と栄養失調のため行き倒れていたそうです。母は逮捕されていました。妹は、私の背中で亡くなっていたそうです。不思議なことに、私たちが発見されたときには妹は死んで3日は経っていたんです。まあ、妹が流ちょうに言葉を発したことからして不思議なんですけどね。私は私が守らないといけない妹を守れず、妹に守られたんだと思います。出来れば、今生は無理でも、来世でまた出会いたい。ちゃんと守りたい、です。

――練馬さんは妹の遺骨が入っているというお守りを握り、静かに涙を流していた。

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