№140

 小学生の時、クラスで金魚を飼っていたんですよ。理科の授業で使っていたメダカの水槽に、誰かがお祭りですくった金魚を入れたのが始まりです。クラスメイトの女の子が一人、自分が持ってきたわけじゃないのにとても大切にしていました。ちょっと浮いた子で、「魚以外に友達がいない」とからかわれていました。それをある日先生に気づかれホームルームでお説教されたんです。その子以外のクラス全員です。それには皆不満でした。だってからかったのは全員ではなかったし、言われた本人は特に気にした様子はなかったから。でも先生の剣幕に誰も何も言えず、最後には皆で女の子に謝らせられてホームルームは終了しました。そのクラスには一人ガキ大将みたいなやつがいて、そいつがホームルームでの説教を根に持ち、何かとその子に当たるようになりました。怖いから誰も止めないし、ホームルームの一件でなんとなく先生にチクろうと言う気にはなれませんでした。ある日また「お前は魚臭い。もう学校に来るな」とガキ大将がその子に怒鳴りつけました。それまでむっとした顔をしつつも反論しなかった女の子でしたが、その日は言い返したんです。「デメキンの目が鼻の横に付いてるよ。臭くないの?」って。それはガキ大将のコンプレックスのほくろでした。当然ガキ大将は激昂して女の子を殴り飛ばし、倒れた女の子にまたがると何度も顔を殴りました。さすがに止めに入ったり先生を呼んだりして大問題に。でも次の日から、喧嘩した二人だけじゃなく先生も来ず、代わりの先生が普通に授業しました。先生と女の子が来たのはそれから土日を挟んだ4日後で、女の子はデカい絆創膏を貼った顔をしれっとすませていましたが、先生はかなり疲れているようでした。どうもガキ大将が喧嘩した日の晩からいなくなって未だに見つかっていないそうです。混乱を避けるため各家庭の親とガキ大将と仲の良い一部の級友にしか伝えていなかったそうですが、見つからないので大々的に捜査することになったと。テレビとかで騒がれるけど必ず見つかるからいつもどおり生活しなさいとのことでした。本当に見つかるのだろうかと私は幼心に疑問を持ったものです。その時、ふと金魚の水槽を見るとなんとなく違和感がありました。休み時間にじっくり見てみるとみたことがない金魚がいます。他の同じ赤色なのに口の近くにもう一つ目があるんです。しかもデメキンのように黒い。「あ、ほくろか」と思わす声を出し、自分でも驚いてしまいました。

「あーあ、見つかっちゃった」突然隣で声がして振り返るとあの女の子が金魚の餌を持って立っていました。そして「言わないでね」と、にやっと笑いました。 ガキ大将は未だに見つかっていません。あの金魚はすぐに死んだので校庭に埋めました。

――井崎さんはそれ以来金魚を見るだけで鳥肌が立つらしい。

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