№56

 学生の頃から友達とゲームを作っていました。

――小路さんは半袖から出たもやしのような腕を世話しなくなでながら話し始めた。

 といっても僕はもっぱら技術面で、ストーリーや絵は友人が作っていました。3人で和気あいあいと作るのは本当に楽しかった。でもその中の一つ、ホラー探索ゲームを無料で出したところ、なんか変な噂がたちました。あれは探索ゲームとして楽しむこともできるんですが、ゲームに出てくる幽霊に話し掛けてストーリーを追っていくノベルゲームの一面もあるんです。幽霊に話し掛けるのは条件が色々あるんですが、幽霊は全部で44体いて、その中の1体がどうもリアルの世界に出てくると。呪われたゲームとして炎上しました。その時、友人の一人はただ戸惑っていただけなんですが、もう一人が真っ青になっていました。僕はその時これは本当の呪いなんだと気づいてしまったんです。

 その友人は、僕と二人の時に「あの幽霊の話の中に妹の話もあるんだ」と言いました。あまりそういう話をしたことがないから僕は興味が湧きました。「妹が体験した話なのか」と聞くと「いや、そうじゃない」と言い、口が滑ったというように顔を背けました。そのことがあったので、僕はすぐに噂の幽霊のストーリーのテキストを確認しました。それは小さな女の子が兄に殺され、兄をかばった両親によって埋められる話でした。これは友人の話なのか? 本当に? たかがゲームのショートストーリーです。そんなこと気にするより、他に、友達としてできることがあったはずです。なのに僕は友人について調べて回りました。彼は大きな庭のある実家に住み、妹は数年前に行方不明になった当時かなり大掛かりな捜索が去れたそうです。……だからなんだって話ですよ。そんなことしている間に、その友人は消えました。もう一人の友人には連絡があったそうです。「あの幽霊が出た。話し掛けてみる」と。

 そういう経緯や、炎上の苛烈化もあって、残った友人と僕はそのゲームを消しました。友人は泣きながら、ぶつぶつと「もっといいゲームを作ってやる。もっと面白いゲームを」といっていましたが、僕はもうそんな気力はありません。ゲームなんてもう見たくない。

 その友人とはいまだに連絡を取っています。といっても一方的に向こうから電話してくるんですけどね。「あいつらと連絡が取れない」って言ってました。誰のことかわからなかったんですが、最近「あいつら」と連絡が取れるようになってきたと嬉しそうに言うんです。また「あいつら」とゲームを作るんだって。昨日また電話がありました。「40人戻ってきた! あと4人だ!」って。あいつ、何をするつもりなんでしょうね。

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