№34
ファーストフード店ってなんでか集中して勉強できるんですよね。
――でもその日は違ったと明木さんは言った。
いつも塾の後に1時間くらいそこで勉強して、仕事帰りのお母さんが迎えに来て、一緒に家に帰ることにしています。私は壁に向かったカウンター席で勉強していました。人が少ない時間です。席もほとんど空いています。静かだったんですけど、ふと声が聞こえてきました。会話です。勉強をしていれば気にならないんですけど、なんだかその日は気になって……。なんか聞き耳を立ててるみたいでいやだったんですけどね。
女の人が男の人に対して怒っているみたいでした。何度も「なんで」って問い掛けていて、男の人が必死に言い訳しているようでした。
「なんで……たの? 私、つらかったんだよ?」
「だって……が、でも俺は……」
と最初はよく聞こえませんでした。でも徐々に聞こえてきたのは
「なんでこんな店で……」
「俺だって……てるんだよ」
という今の状況への不満のようでした。じゃあ出て行けばいいじゃんと思いました。気になってしょうがなくて、勉強がはかどらなかったので。そしたら今度ははっきりと声が耳に届きました。
「集中できないならなんでやめないのよ!」
「仕方ないだろ! 嘘でも勉強しないといけないんだから!」
まるで自分のことを言いあてられたような気がして驚きました。二人がこっちを見ているような気がして振り返ろうとしたら首が動きません。心臓がいたいほどドキドキしてきました。
「なんで勉強しているの? したところで頭の出来は変わらないのよ?」
「わかってるよ! でもやらないと怒られるんだよ! 落ちこぼれ扱いされるんだよ!」
声はいつの間にか真後ろで、まるで私に言い聞かせるように話しています。そして肩を叩かれました。……それは母でした。いつも通りの時間にお母さんが迎えに来てくれたのです。私の身体は動くようになっていました。私の後ろにはお母さんしかいません。そしてどの席にも喧嘩しているカップルなんていません。
お母さんが教えてくれたんですが。カウンターに向かって座っていた私は凝った肩をほぐすように左右に首を曲げていたそうです。首、動かなかったはずなんですけどね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます