№17

――近田さんは夜だというのに大きなサングラスしていた。

 金縛りになったことありますか? ……そうなんですね。私もたまにあります。でも学生の時は試験前だったり、社会人になってからは繁忙期だったり、私はただ疲れてるからそうなるんだなぁと思っていました。いや、たぶん大半はそれが正しいのでしょう。

 父の葬式の日も金縛りにあいました。父は高速道路のトラック同士の事故に巻き込まれて死にました。父含めて5台が絡む事故になったのでかなり大きい事故ですね。ニュースで見た? ああ、その事故です。

 そんな時だったから、かなり精神的にも肉体的にも疲れていて「またか」という感じでした。金縛りは足とか手の先端から徐々に動かして解いていくようにしています。しかし、その日はおかしかったんです。どんどん金縛りが強くなって体が痛いんです。目を開けたら瞼も動かなくなって。これは大変な病気なんではと思いました。急に怖くなって別室にいる母を呼ぼうとしましたが声も出ません。それでもとにかく喉から音を出そうと必死になっていると、目の前に人影が現れたのです。体は固まったままなので逃げられません。影は黒くて目の前にいるのにやっと人間の形だとわかる程度です。その影が腕を動かしました。自分の額の場所に手を持っていき「ショキショキ」と音がなりました。何かがパラパラと目に落ちてきます。瞼を下ろすことが出来ないので、眼球にそれがかかってきました。払うこともできません。その影は私の顔にまんべんなくそれを振りかけるように動きます。ぱらぱら落ちてくるそれは細くて短い針のようで……。ちくちくという痛みだけを顔面や眼球に感じながら私は気絶しました。

 朝、母の悲鳴で目が覚めました。私が目を覚ますと目に痛みが走り顔中に違和感を覚えました。母が必死に私の顔をはたき、短く切られた髪の毛が顔に張り付いていたのだとわかりました。母は私が前髪を切りながら寝てしまったのだと思ったそうです。目の中に入っていた毛は水で洗い流し、眼科にも診察に行きました。小さな傷はあるものの視力などには影響はないとのことで一安心しましたが……。

 しかしその影はそのあと何度か現れて、私たちは引っ越しをしました。父との思い出の場所だったのですが。……母が言っていました。母が嫁いだ時、父が「金縛りになったら教えてくれ」と何度も言ってきたそうです。母は一度も金縛りになったことがなかったそうですが。父は何か知っていたのでしょうか。もう、問いただすこともできません。

 引っ越ししてからですか? もちろん何もないですよ。ただ、目はこのままです。

――近田さんはサングラスを取った。白目が赤いインクを垂らしたように染まっていた。

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