俺はうさぎに転生したので革命を始動させる
水無月
第1羽 うさぎに転生
「行ってくるよ、メープル」
俺は雅思。今日は休日出勤だ。
朝早く起きて、飼っているうさぎのメープルの世話をして、朝ごはんを食べる。
そして、メープルに行って来ますをして、会社出勤である。ちなみに家族の大半はねぼすけなので、まだ誰も起きてない。
「ふぅ〜! メープルってば、俺の癒し系だなぁ。彼女はメープルだーっ!」
そんな事をぼやきながら、朝の通勤ラッシュ時で混雑している電車に乗る。
朝のメープルとの別れは辛いが、その分帰った時のもふもふタイムは、至福である。
毛がよく抜ける衣替えの時は、もふもふしすぎてスーツが、メープルの毛の色、茶色になってしまう。
でもまあ、その時のきょんとした顔と言ったらまぁ、凶悪なくらい可愛すぎて、またもふもふしてしまい、危うくクリーニングに出すところだった。
「うわっ」
ただでさえ、朝はボーッとしやすいのに、メープルの事ばかり考えているから危うく乗り過ごすところだった。
今日もメープルの為に、事務仕事をパパっと終わらせて、定時で帰宅した。
と思いきや、帰り道、工事中のビルの下の歩道を歩いていた時、落ちてきた鉄パイプが、俺の頭に見事にクリティカルヒットしてしまった!
当然の如く、強烈な痛みと共に意識が飛んだ。
……ん? なんだこれ暗っ。暑っ。狭っ!
最後の『狭っ!』は、異常な閉鎖感から直感的に思った事だ。
意識が、ゆるりと上って行く。あぁ、この展開はベタなパターンだ。
まず、お母さんが苦しいくらいに抱きしめてくれて、俺が『母さん、心配かけてごめん』と、夢心地のまま言うお約束シーンだろう。
……なんか不安。
「キューキュー」
不安と思った瞬間、僕の口から声が出た。
メープルの『不安です』ポーズを取るときに、お約束となっている鳴き声の様だ。
可愛くて高い声だな。って、ん?
……
マイナーなパターンとしてあるあるなのは、異世界転生系だよな。死んだら、異世界に転生しました的な。
でも、状況からして俺は今、人間じゃない可能性がある。
うさぎの鳴き声が、意識せずに出てくるのはおかしい!
……どうしよう。俺、人間じゃないのかな。
「キューキュー」
再び、鼻の鼓膜が揺れ、鳴き声が出た。あたりを見回そうにも、真っ暗闇で何も見えない。
と思ったけど、あることに気がついた。目を開けていなかったのだ!
目を恐る恐る開けた。
目の前に広がっているのは、我が家のリビングダイニングと白い柵。
隣には、草箱。下には、もふもふの前足と、少し汚れた白いプラスチック製の床。
……どうやら転生した模様です。家で飼っているうさぎに。
「ブッグァ」
なんか、アヒルみたいな鳴き声が出た。
……おぉう、メープルよ。こんな鳴き声が出たのか。
俺は、ショックを受けた。
あのキュートなメープルから、アヒルの様な声が出るなんて。
「ただいま! メープル。寂しくなかったか? 嫌な事無かったか? 痛いところないか!?」
あれ? 傷一つ無い俺が帰って来た。
てっきり、転生しただけだと思ったけど、まさかの転生&タイムスリップしちゃった!?
脳裏に浮かんだ可能性に戦慄する。
仮の可能性として、俺が転生&タイムスリップした場合、メープルはどこに行ってしまったのだろうか。
悶々と考えていると、ひょいっと目の前にいる俺だけど俺じゃない奴が、うさぎになっている俺を抱き上げた。
「どうですか? うさぎライフ楽しんでいますか?」
俺らしからぬ丁寧な口調で、目の前にいる人間の中身が、俺じゃない事に気がついた。
「ブッグァブブッ!」
目の前にいる人間に威嚇してみると、またよく分からない鳴き声が出てきた。まぁ、可愛いから許す許す。
「ごめんなさい勝手に体を拝借して。僕は、メープルです! いえ、正確にはメープルでした。もうすぐ、メープルじゃなくなります」
「ププッ」
突然語りだした目の前の俺、じゃないメープルだ。そういえば、メープルは、オスだった。可愛いのに。
メープルが、ぽつぽつとこれまでの事情を話してくれた。俺は、鳴き声で応じる。
意識して、鳴き声を出せるようになったのは、体の感覚に慣れたからだろう。
そして事を遡る事、なんと二年。
二年前、俺が、世界中の企業も真っ青な超ブラック企業で働いていた頃の話だ。
その頃の俺は知人に騙され、悪徳ブラック企業に働き、疲れきっていた。
俺は、早朝、家に帰る度にゲージで気持ちよさそうに寛いでいるメープルを見て、癒やされていた。
そして、メープルに言ったそうだ。
「お前、気持ちよさそうだな……。俺、うさぎになりたい。死んだら、うさぎになりたいよ」
と、それは疲れきった声で、メープルは、とても辛かったそうだ。
昔の戯れ言を覚えてくれたなんて、律儀すぎるだろ! くぅ、性格まで可愛い。
でも、辛い思いをさせてたなんて、ごめんメープル。飼い主失格だよな。
「だから僕は、人間になりたいと願いました。働いている雅思さんを助けたいからです」
静かな口調の中に込められた強い覚悟に、俺は激しく感動した。
うさぎの鏡だなぁ、メープル!
あ、ちなみに雅思は俺の名前だからな。知ってるか。
『僕は、うさぎとしていきた記憶をなくす事を条件に、雅思さんがうさぎになれるように願いました』
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