第一話 初めて人を殺した話

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

前書き

この章はプロローグに繋がるまでの過程を考えています。

次の章はプロローグ後を考えています。

ですので、時間軸的に第一章 → プロローグ → 第二章と繋がります。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 困っている人間は誰であろうと無償で助ける。

 そして、例え悪が、同性だろうと、異性だろうと、子供だろうと、老人だろうと、人外だろうと、私はためらいなく殺す。

 これが勇者の使命だ。

 私をこの世界に連れてきた張本人であるXXXXはそう教えてくれた。XXXXについては特に語らない。語ることがおこがましい。それほどの存在である。

 ただ、第一印象はなんだこいつ、であったのは否定できない。


 世界と世界のはざまを浮遊する23分間、このXXXXとの会話の後。

 私はこのXXXXの言葉を胸にこの世界の見知らぬ地に降り立った。

 XXXXは言った。

 この世界は腐っている、と。


「ここが異世界?」


 綺麗な自然。綺麗な街並み。

 レンガ造りの建物が立ち並ぶ街のすぐ隣の草原に私はいた。ヨーロッパの街を彷彿とさせる写真のワンフレーズのような光景。そんな光景は見たことがなく、私は心躍った。

 XXXXから貰ったものは力、そして財である。

 この世界をより良いものへ変えていくためには、少なからず金が必要である。それは力だけではどうしようもない事実である。そのお金は私自身の力で集めないといけない。

 この財とは最初のお金のことである。

 この世界の貨幣の単位はべスタ。1べスタがおよそ0.2円となる。私がXXXXから貰った大金貨10枚はそれぞれ100万べスタの価値があるらしく、半年は遊んで暮らせる金となる。一年は少し厳しい。


「初めに、力を使ってお金を稼ぐべき? それとも」


 考えても仕方がないと、私は街に入ることにした。

 私の格好は、この世界で一般的な服である。しかし、外見が違う。この世界の人間にはこの世界の人間らしい顔つきがあり、それと日本人はどこか違う。

 つまり、一目で外者と分かり、私は一歩人の前に現れると注目を浴びることとなる。

 仕方がない。


 ―――――――。

 ―――――――。

 ―――――――――。


 この世界の人々が私に指をさして口を開けるが、言葉が分からない。

 何を話しているのだろうか。

 ただ、一つ分かることは。


「珍しい、で済まされる注目度じゃない?」


 あまりにも可笑しい。

 どうして?

 そう思っていた矢先、一人の男が私の前に立ちはだかった。格好は普通だ。ただ、手にある道具が異常だった。

 鞭だ。


 ―――――――。

 ――――――――――。

 ―――――――。


 男が何かを言った。

 そして私に手を出そうとする。鞭を地面に叩きつけたと思ったら、私目がけて鞭を振り回したのだ。それを誰も止めようとする素振りはない。この世界においてこれが普通なのだ。

 その鞭を私は手で受け止めた。

 そして力いっぱいに引っ張る。すると男は横転し、私の手の中に鞭が残る。

 すると男は立ち上がり、大声で叫ぶ。ふざけるなといった意味合いなのは分かった。そして、男はポケットから短剣を取り出し、私のこめかみを攻撃してきた。

 それもまた、手で受け止める。次の瞬間、男は私に蹴りをかまそうとした。だから反射的に、私は蹴りでその男を吹き飛ばした。


 この世界に来て、力をまだ試したことはない。

 私自身が持つ、この力がどれほど膨大か知る由がなかったのだ。

 だから、男は死ぬこととなる。

 吹き飛ばされた男の体はどこかへと消えた。そして残った下半身が地べたに倒れこむ。

 辺り一帯は静寂の後、甲高い悲鳴に満ち溢れた。


「人を殺した?」


 私が人を殺した?

 どうして?

 何故?

 相手が攻撃してきたから。

 そうだ。私は悪くない。

 違う。私が悪い。

 いや、私は悪くない。

 私が悪い。


「私は勇者。悪は滅ぼすべきだ。だから私は悪くない」


 私はこの世界に来る前から、すでにXXXXによって心を変えられていたのかもしれない。

 私は人を殺した。

 この世界のために。

 それなのに。

 不思議と罪悪感はすぐに消えてなくなり、正義の心だけが残った。


 私の周りにたくさんの兵が現れる。

 日本における警察みたいなものだろう。人を殺した人間を野放しにはできない。

 良いでしょう。

 善である私を殺そうとするあなたたちもまた、悪だ。

 私が力を籠めようとしたその時。


 兵の一人が私に聞き取れる言葉を口にした。


「に、ほん、じん?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る