第十二章

真夏はあせっていた。

 半ば拉致のような格好で朔を連れた柳原の一行と共に、真夏は都に戻っていた。都に入るなり、そっと一行から抜け出して大学寮へ走った。


 とにかく、どんな役職でもいい。何か仕官の手は無いかと、大学寮の講師や職員、友人知人に声をかけた。


 ――あなたに何が出来るというの。


 それが朔の本心で無いことは、わかっていた。わかっていながら、真夏は無力感に打ちのめされた。瞳をうるませ、今は従って欲しいとささやいた朔の、白くなるほどに青ざめた肌があわれで、真夏は胸がしぼられる心地がした。


(何か。なんでもいい。彼女を救うための手立ての端をつかまなくては)


 必死になって、真夏は自分の仕官先を求めた。けれど政権が交代したばかりの今、これが好機と仕官先を求める者や、保身に必死になっている者たちが右往左往し、真夏の話をまともに取り合おうとする者は皆無だった。


 真夏はあせっていた。柳原公忠がいつまでも善意として、朔を保護していようとは思えない。何か裏で画策している事があるのだろう。政敵の姫を保護したという、人情話だけではない何かが、きっとある。それに朔がからめとられ、どうしようもなくなってしまう前に、正面を切って手を差し伸べられるだけの力を手に入れなければ。


 柳原家に対抗できるほどの力を有する誰かの傘下に入り、信用を得て朔を救い出す手引きを整える。

 それが現実的に見て、最良の策と思えた。だが、何の糸口もつかめない。真夏は気ばかりあせらせ、いっそ夜盗まがいに押し入り、朔をさらって逃げてしまおうかとさえ考えた。


 しかし、そんなことをすれば行方をくらませた朔を探すため、相手がどんな手を使ってくるか知れたものではない。朔の父だけではなく、兄や姉にも累が及び、一族もろとも立ち直れなくなるほど叩き潰される可能性は否定できない。


 それほどに、柳原公忠は朔の父である久我久秀をねたんでいると、方々で言われている。彼の想い人であった久秀の妻をうばい、自分のものにするかもしれないという話まで出ていた。


 話題の渦中に置かれた朔が失踪すれば、とんでもない混乱を招くだろう。


(それだけは、だめだ)

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