「姫は、恋に臆病であらせられますよ」

「そこから都の情勢を知らせることが、姫のためになると」


「ここに留まり、どうなることかと心配をしても、憶測を抜け出すことはできないからな。情報を集めておいたほうがいいと思ったまでのこと」


「ずいぶんと冷静で、的確な判断をなされるのですね」


 少し皮肉めいた彼女の声に、真夏は苦々しく唇の端を持ち上げた。


「何もできないと思っていたが、探せばあるようだと気づいただけだ」


 芙蓉はまぶたを伏せ、逡巡する間を取ってから真夏を見た。


「姫様のこと。悪しくはなりませんよう、計らってくださいませ」


 頭を下げる芙蓉に、真夏は立ち上がり首を振った。


「俺の出来ることは、このくらいしか無い。権力で来られれば、俺は太刀打ちが出来ない。姫が今、一番の頼りにしているのは芙蓉殿だろう。悔しいが、俺は姫の傍にあって心をなぐさめるまでは出来ない。――したいのだがな」


 ほんの少しおどけてみせた真夏に、芙蓉は「まぁ」と口元を抑え、親しみのある息をこぼした。


「姫は、恋に臆病であらせられますよ」


「手ごわい方だということは、重々に承知しているさ」


 二人の間に、朔を中心とした共有の何かが芽生えた。

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