「姫は、恋に臆病であらせられますよ」
「そこから都の情勢を知らせることが、姫のためになると」
「ここに留まり、どうなることかと心配をしても、憶測を抜け出すことはできないからな。情報を集めておいたほうがいいと思ったまでのこと」
「ずいぶんと冷静で、的確な判断をなされるのですね」
少し皮肉めいた彼女の声に、真夏は苦々しく唇の端を持ち上げた。
「何もできないと思っていたが、探せばあるようだと気づいただけだ」
芙蓉はまぶたを伏せ、逡巡する間を取ってから真夏を見た。
「姫様のこと。悪しくはなりませんよう、計らってくださいませ」
頭を下げる芙蓉に、真夏は立ち上がり首を振った。
「俺の出来ることは、このくらいしか無い。権力で来られれば、俺は太刀打ちが出来ない。姫が今、一番の頼りにしているのは芙蓉殿だろう。悔しいが、俺は姫の傍にあって心をなぐさめるまでは出来ない。――したいのだがな」
ほんの少しおどけてみせた真夏に、芙蓉は「まぁ」と口元を抑え、親しみのある息をこぼした。
「姫は、恋に臆病であらせられますよ」
「手ごわい方だということは、重々に承知しているさ」
二人の間に、朔を中心とした共有の何かが芽生えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます