生け贄の証
「フード付きのマントは死装束だから、冗談やなんかで着てはいけないよ」
子供の頃からそう言い聞かせられてきた。私も、おじいちゃんのお葬式の時、おじいちゃんが真っ青なフード付きのマントを着せられているのを見た。それを見たとき、こわいとか、悲しいとか、そう言う感情は湧いてこなくて、これは晴れ姿なのだと漠然と思った。
私たちは日頃から、死装束のマントは何色が良いか、そんな話をまるで天気の話でもするかのように、当たり前の話題として話していた。
【メメント・モリ】いつでも死を思うのは、当然のこと。すぐに死にたいとかそう言うことでは無く、遅かれ早かれいずれ死ぬ。そう言う事だ。
フード付きのマントを着る日が来るのはこわいけれども、でもそれは受け入れるべき事なのだ。
私は今日も、食料品店で野菜やお肉、少しのお菓子を買い、薄紅色をした半透明の石を買う。この石は、私が小さいときから一緒に居る、【クレイドール】のモモのご飯。クレイドールは鉱石を主食としている自律人形で、子供の情操教育用にと専門の機関で作られている。
クレイドールの寿命は、一般的に十年ほどと言われている。私のかわいいモモは、私の所に着てからもう十年ほどになる。何時その命の灯が消えてもおかしくないのだ。
メメント・モリ。私は唱える。いつか来るモモの終わりを、泣かずに迎えられるように。
そして遂にその日が来た。モモは柔らかそうな唇に笑みを浮かべて、動力である胸の結晶が砕ける瞬間を迎えた。
私は何とか、モモの事を笑顔で見送れた。けれども、モモが居なくなった私には何が残っているのだろう。いや、そんな事を疑問に思ってはいけない。モモはこれからも私がきちんと生きていけると、そう信じていたのだから。
私は、モモの亡骸をどうするか悩んだ。フード付きのマントを着せて、部屋に飾っておこうか。そうだ、それが良い。それで、私がいつか死んだとき、お揃いのマントを作って貰って着せて貰おう。
何色が良いだろう。そう考えていて、ふと思い出す。死装束のマントは、黄色にだけは絶対にしてはいけないと。
これは昔からの言い伝えなのだけれど、黄色いフード付きのマントは、神様の生け贄の証なのだという。今ほど文明が発達していなかった頃、流行病や飢饉が襲いかかってくると、身寄りの無い子供に黄色いマントを着せ、神様に捧げていたと言う。
黄色いマントが生け贄の証になった理由は、こう言い伝えられている。かつて神様は、黄色いフード付きのマントを着ていた人間を攫って行ってしまったのだという。その人間が帰ってこられたという記録は無い。
ああ、これでモモに黄色いマントを着せたりなんかしたら、私が追いつく日までにモモが神様に攫われてしまうかも知れない。
何色のマントにしようか。モモの亡骸を前にじっと考える。ああけれど、いっその事、今すぐにモモと私とで黄色いマントを着たのなら、神様の元でまた今までのように、ふたりで生活が出来るのではないかと、そんな事を思った。
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